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月初の日曜日  第556話・8.1

「気晴らしに出かけたけど、これで良かったかなあ」目の前にあるのはある駅のターミナル。ここで1年ぶりに会う旧友と待ち合わせたのは、この駅から出発する特急列車のプラットホームだ。実はあらかじめ出発時間がわかるからとその先頭の車両の入り口で待ち合わせた。
「ちょっと汚れているな。洗濯機そろそろ買い替えかな」偶然にも着ている服の汚れが十分に落ちていないことを発見。飲んでいたをかけて取れないか考えたが、その前に旧友が目の前に現れた。
「待ったか? ふう、最近息切れが」言った旧友は走ってきたのか息が荒い。「お前まだタバコ止めてないのか」「いや、もう止めたよ。でも以前は毎日1箱吸ってたからなあ。もうがやられているかもしれないな」
 と言いつつ息を整えると、何事もなかったように笑顔を見せる。そのままふたりは特急に乗った。行先は事前に聞いていたからそこまでの切符は購入済み。

 列車は定刻通りに動き出す。車窓からの風景が徐々に速度を上げていく、夏の省エネルギー総点検の看板を掲げていたビルまでは、はっきり見えていたが、速度が本格的に上がったためか動体視力が付いていかない。
「新幹線でなくても早く感じるな」そう呟きながら空を見る。約束したのが夕方。だからもう外が暗くなっていた。「お、花火?」車窓のとおくから偶然見えてくる。「そうか花火大会あるとか言ってたなあ」旧友はつぶやきながらスマホを見た。
「ああ、だめだったよ」残念そうな旧友のつぶやき。「何が?」いや先月愛知発明と言うコンテストのに応募したんだけどダメだった」
「発明? お前発明したの」旧友は首を横に振り「発明じゃない。この団体のキャッチフレーズを募集していたんで、それの応募だよ」
 それを見ながら口元を緩ませ「なんだ。てっきり、発明家になったのかと」

 やがて特急列車が速度を落とす。そして駅に到着すると予定通りふたりは降りた。ここはかつてふたりが住んでいた町。久しぶりに会うので特急に乗ってまで来てしまったのだ。
「今夜はバーで飲もうか?」「え? バー??」旧友の言う言葉に耳を疑った。今日はてっきり麻雀をするものだと思っていたからだ。
「この街であとふたりが待っているのかと思ったうよ」「ふん、そんなのいねえよ。そうか昔はよくやったよな徹夜で朝まで」
 旧友がそう言っているうちにバー街の中に入った。

「おいあれを見ろよ」旧友が指さしている方を見る。するとそこには複数の酔った客。大声で店長と絡んでいる? いや戦っているかのようだ。「まだ俺たちひとくちも飲んでもいないのに、昼から飲んでいたのか?」
「せ、世界の母乳があるだと? 嘘をつけ!」もっとも体の大きい客がそう大声で怒鳴ると、どこからか樽のようなものを持ってきて、店長を閉じ込める。
「ええ!」思わず驚いた。どうやらこの周りには複数の人が囲んでいる。しかし店長は、その樽をあっけなく中から壊した。よく見ると木が腐っていて柔らかかったようだ。
「お客様! 冗談はやめませんか。もっと頭を使いましょう」と反論すると、突然ズボンから一冊の手帳のようなものを出す。すると「さあ、いまからあなたたちに素晴らしい学問を」と言い出した店長。
 まるで店長も酔っているようだ。「うるせいや!」客はそれを全否定。なぜか客も手帳のようなものを取り出し「新しい教科書を見せてやるぞ。おい」と言って相手を圧倒する。

「おい、いつまでゲーム画面を。いい加減にしろ。もういくぞ!」
 良くわからないが、いつしかゲームの画面を見ていた。「あれ、ゲームセンター?」無意識に画面を眺めていて、ゲームでのやり取りを見ていたようだ。だけど一体何のゲームなのか最後までわからない。

「そうか、月末でイライラしていたからか」無意識にゲーム画面を見たのは、あるレポートの提出が今月いっぱいなのにまだ完成していないことへの焦りでもあった。この日旧友を誘って街に来たのも、レポート締め切りという現実から逃げたかっただけなのだ。
「おかげで、ゲームの画面なんて、そういえば最近ゲームしてないな」不思議な動画を思い出しながら歩いていく。
「ここにしよう」と旧友がある店の中に吸い込まれていった。
 中はリゾートを意識したバーのようで『ようこそ常夏のへ』と書いてあり、店内にはトロピカルな音楽が流れている。
パインのカクテル飲もうか」と旧友。その横でバーのメニューを見た。ドリンクのメニューは豊富で、トロピカルなものが多い。ふと視線をメニューの外に向けると、どうもこの店は結構広い。50人くらいは入れそうだ。実はバーと言ってもレストラン。昼間はバイキングをしているという。
「今度お昼に来よう」と頭で思いながら、無難にビールを注文した。

ーーーーーー

「あらら、寝てたか」 気がついたら机の前にいる。時刻は間もなくお昼。いや先ほどのは夢ではない。実は途中から記憶が飛ぶまで飲んでいた。なのに帰巣能力と言うべきか、しっかり終電に乗って帰って来ているし、別に二日酔いでも何でもない。むしろストレス解消になったのか、ここ数日のイライラが吹っ飛んだようだ。スマホを見ると、旧友からのメッセージが残されていた。
「まあ、楽しかったな。さて自然環境クリーンについてのレポート書くぞ」
 昨日まであんなに筆が進まなかったのに、今日は快適に頭にキーワードが浮かんでくる。この勢いではこの日の夕方までに完成することは間違いない。
「いや飲みに行ってよかったよ。あれ今日8月1日が日曜日だったからできた芸当。31日夜のストレス発散だ。つまり月末と言いながら、明日月曜日、2日の朝提出でOKなんだからな」


こちらの8月1日の記念日を使って創作してみました。

水の日 洗濯機の日 自然環境クリーンデー 肺の日 麻雀の日 
世界母乳の日 パインの日 島の日 花火の日 愛知発明の日
バイキングの日 夏の省エネルギー総点検の日

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シリーズ 日々掌編短編小説 556/1000

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