見出し画像

前の日に何しておこう 第909話・7.21

「ふぁああああああ」俺は思わず大あくびをした。目の前のペットが、顎が外れるくらいの大あくびをしているのを見て、思わずつられたようだ。時計を見るとお昼を過ぎた時間。
「昨日まであれだけ忙しかったのに」俺が働いているのは、季節によって忙しい時とそうでないときがはっきり分かれる業界である。昨日までの2か月ほどは地獄のような日々。特にこの半月余りは、休日を返上して業務にあたっていたのだ。

 昨日それが終わったということで、今日から休日の代休と有休休暇を利用して少し長めの休みに入った。事実上の夏季休暇。
「ゆっくり眠れるわ」と思ってそのまま寝たまま気が付いたら、もはや午前中は終わっていた。「今日くらいいいだろうふぁああああ」俺は再び大あくび。そういえば睡眠時間も少なかったような気がする。良くぶっ倒れなかったものだ。

「さてと、今日はどうしようかな」俺は翌日から旅行に出かける予定を立てていた。どこにするかは大まかな方向は決めているが、そこからどう旅をしようかまでは決めていない。「その時の気分で、泊る所も決めたらいいよ」と、俺は思っている。ただ行ける所は若干限られていた。相棒というべきか、目の前で大あくびをしている猫と一緒に車で旅をするからだ。奴は眠たかったのか、すでに眠っている。

 今日は明日からの旅の準備をしようと思っていた。「これは寝る前でいいか」俺はタンスを見る。着替えなどをカバンに詰め込むのは直前に行う主義。「やっぱり、どこ行くかなんだよな。別にどこでもいいんだけど」
 俺はネットで情報を探しても良いと思ったが、どうも気持ちが乗れない。なんというか、こうスマホを手にしても、次の行動を起こす気が起きなかった。ブラウザでもアプリでも良いのだが、スマホのガラス面を指でクリックしようという気が起きないのだ。「仕事でこういうのと、ずっと睨めっこしてたもんな」俺は、意を決して外に出ることにした。

 俺は外に出てみる。今日は天気が良いのか、お昼の町に灼熱の太陽が降り注ぐ。「昨日まではあんまり気にしなかったなあ」もちろん暑いから冷房をつけてはいた。だけど朝の早い時間から夜遅い時間まで連日働いていると、あんまり太陽をもろに感じることがない。俺の働いているところは冷房が完備していて、昼間は外に出ることなく社員食堂で済ませていたから余計である。

 みんなが「暑い暑い」と、熱中症を心配しそうな天気なのに、俺にとっては新鮮に感じる夏の暑さ。白いTシャツが強力な日差しで鮮明に映る。
 とりあえず外に出たから、特に目的もなく歩き続けたが、15分から20分くらい歩いただろうか?何となく肌が露出している腕の部分が日に焼けている気がした。「暑いな、ちょっと休憩していくか」
 俺は目の前に見えたカフェに入る。

 冷房の効いたカフェで、トロピカルなジュースを飲みながら俺はどうするか考えてみた。この時、何気なくふたつのキーワードが視線に飛び込んでくる。ひとつは、ある地域の名前で、もうひとつは旅のスタイルだ。

「ああ、奈良県か......」俺はカフェの壁に貼っていたポスターを見てつぶやいた。俺は奈良に行ったことがある。あるが大仏を見ただけだ。大仏とあと鹿を見たくらいだろうか。
「こんな緑の多いところ?」これは奈良県の南の方だろうか、山に囲まれた緑深い場所の写真となっている。
「いいなあ、それなら奈良県に行ってみよう」行こうと思っていた方角とも一致したから俺はそう決めた。と同時にもうひとつ俺の頭に浮かんだもの。それは店内の奥になぜかテントが置いてあった。

 一瞬不思議に思ったが、すぐに理由がわかる。俺は偶然に見つけて何も考えずに入ったカフェ。よくよく考えると、ビルの中にあるカフェで、それはあるショップと経営が同じなのか併設しているように存在していた。それが奥にあるテントの存在がヒント。カフェの隣にはアウトドアショップになっていた。
「どうりで、キャンプに来ているようなイスとテーブルだな」俺は今頃になって気づく。そうやって改めて店内を見ると、壁も天井もウッディな雰囲気だ。

 このとき俺は決めた。「キャンプしよう。ソロキャンプだ」厳密にいえば、相棒の猫が一緒だからソロとは言えないかもしれないが......。

 カフェで一休みした後、アウトドアショップで色々見た。一人用のテントやキャンプ用の椅子とテーブルとかも見ながらお気に入りをキャンプセットを購入。ここでスタッフに「何時まで営業していますか?」と聞いた。スタッフは「21時までです」と言ってくれる。「では、閉店前に車で取りに行きます」と伝えると、慌ただしく店を出た。時計を見るとまだ13時30分。21時まで十分すぎるほど時間がある。ではなぜぎりぎりに取りに行くといったのか?それは夜から旅を始めようということ。最初にキャンプ用品を引き取り、その後、奈良県のどこかに向かってそのまま車を走らせる。

 俺は予定より半日早い出発になったためか、すでに気持ちが高揚した。

https://www.amazon.co.jp/s?i=digital-text&rh=p_27%3A%E6%97%85%E9%87%8E%E3%81%9D%E3%82%88%E3%81%8B%E3%81%9C
------------------
シリーズ 日々掌編短編小説 909/1000

#小説
#掌編
#短編
#短編小説
#掌編小説
#ショートショート
#スキしてみて
#前日の準備
#キャンプの楽しみ方

この記事が参加している募集

#スキしてみて

526,651件

#アウトドアをたのしむ

10,424件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?