夏の花見をいつまでも 第560話・8.5
容赦なく照りつける日差しが、夏の訪れを知らせていた。一面に咲くヒマワリが、すうっと吹き抜けていく風に身体を揺らす。
「なんで桜だけが、花見なんだろう」
多くの大人たちが全く疑問に思わないことを、目の前のヒマワリに問いてみる。もちろん返事はない。と思ったらヒマワリが大きく動いた?
「今は風がないのになぜ動くの?」それに私は体がびくついた。そしたら嬉しそうに笑う和夫君が、ヒマワリの間から顔を出す。
「なによ。もう、和夫君かあ」「ひとみちゃん、すごいビックリしている! アハハッハハ」
ここはマンションの近くにある花壇。いつからかは覚えていないけど、私が物心ついたとき、すでに近くに和夫君がいた。
同じマンションで同じ3階同士、私のお母さんと、和夫君のお母さんが仲が良くて、いつもふたりでおしゃべりをしていた。その間、よく和夫君と砂場で遊んだ。幼稚園も今通っている小学校も同じ。
「ねえ、和夫君」「何、ひとみちゃん」「なんで大人は、みんなお花見を春の桜しかしないのか知ってる?」
「え? 考えたことないけど、そうだよな。春の桜のときはみんな『花見』って言って、木の下にシートを敷いてそこに座ってご飯食べてる」
「でしょ? 夏もこんなに黄色で、きれいなヒマワリが咲いているのに、何でしないんだろう。みんなピンク色が好きなのかなあ」
でも和夫君が、的確に答えを出した。
「わかった。たぶん暑いからじゃないかな」「あ、そうか。こんなに暑いと、汗かいてみんな疲れちゃうね」
「でも、僕たちは今から花見しようか?」突然和夫君がそういってくれる。「でもシートがない。あれはお父さんかお母さんにいわないと」
「うーん、ちょっと待って」和夫君は急に走って行った。「あ、和夫君!」私は追いかけようかと思ったけど、どうせまたすぐに戻ってくる。だからそのままヒマワリの花を見ていた。
ーーーーー
私は目の前のヒマワリを見ながら、気がつけばしゃがみこんで意識が小学生のころにタイムトリップ。あのときは快晴だったのに、今日は雲が多い。ここはあのときとは場所は違う。
日本から海を離れた異国の地。でもヒマワリには国境も時間軸もなく、同じようにしか見えない。
「ひとみちゃん! 何してるの? ねえ体調悪いの?」「あ、和夫君。違うの。ひまわりを、みていたら子供の頃思い出してたんだ。ねえ、覚えている。近所のマンションの前にあったヒマワリ畑」
私は、慌てて立ち上がった。
「ああ、あったなあ。そうだそう、一緒にヒマワリの花見したんだよな」
「懐かしいわね。和夫君が走って行ってどこ行ったのかと思ったら、おやつとジュース買ってきてくれて」
「あと、段ボール拾って座ったよな。汚かったのによく座ったよ」
「そう、今じゃ絶対座れない。あんなの」私が思い出して顔をしかめたのを見て、また和夫君が笑った。
「でもうれしかったわ。あのときお小遣い全部使ったんでしょ。あの後大丈夫だったの」
「う、うん、貯金箱にお金あったし、あの後はそれで凌いだ」
「え、貯金してたの? あのあと『お金ないから次はひとみちゃん出して』って何度も言ってたのって」
忘れかけていた記憶が思い出し、ちょっとむかついた。
「ごめん、もう時効、許して」和夫君が顔色変えて謝る。すぐむかつきが収まった。今更、本気で怒るわけないのに。
「それにしても懐かしいわ。あそこも、ここと同じ、サンフラワーが広がってたわ」私は改めて目の前のヒマワリを見る。何度見直してもあのときと同じヒマワリの花々。
「今日は、食べ物も、座るところもないけどな」
「いいわよ。もう大人だし。子供のときと違う大人の夏の花見。そうか和夫君、ここであのときと同じ思い出が、また共有できたのね。ありがとう」
過去の思い出したからだろうか? 私は和夫君を見ながら再び過去の思いが脳裏に浮かぶ。幼なじみだった私たちは、中学のときに父の仕事の関係で海外に行くことになって離れ離れ。もう会うこともないと思っていたのに、なぜか当時私が住んでいた、南の国に浮かぶ島で再会した。
そして惹かれ合うように付き合いだし、同棲を初めて一年半がたつ。そろそろ、次のステップも、真剣に考えるとき。
すると和夫君が静かにつぶやいた。「子どものときによく遊んだひとみちゃんと、しばらく会えなくて、ずっと寂しかったんだ。でも奇跡的に再会してからこうやって一緒になれた。なんかこんな偶然が、すごくうれしいのともう別れたくないなあって」
「和夫君!」私は両手で彼の手を力強く握った。
「もう私は離れない。あのときも、それからずっと先も場所が違っても同じヒマワリ。これからもずっと見ようね」そう言いながら、私は体を和夫君に重ねあわせた。
気がつけば、覆っていた雲がどんどん大空の面積を減らしている。しっかり彼の手を握り締めながら、私は、青く広がる空を見上げた。
こちらの企画に参加してみました。
ちなみに今回はこちらの物語の登場人物を使ってみました。
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