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散歩日記 第1091話・1.27

「あ、ここは」電車は終着駅に到着していた。「いつのまにか寝ていたのか、え!30分も寝てたんだ」見ると降りるべき駅よりも30分も先にある終着駅だ。ここは普段来ることが無い郊外の駅である。
「前から気になっていたが、こんなところなんだ」いつも乗っている列車の行先に表示されている駅名だ。引っ越しして間もなく1年、普段はその方向に行くことは無い。特に用事もなかった。普段は逆方向の町中の方には行くがこっちは言ったことが無いのだ。

「今日はっと」特にこの後予定が無かった。夜勤明けで明日は休み。「だったらちょっと探検してみよう」ということで、駅から外に出てみることにした。

駅を出る。郊外の駅は別に山が迫っているようなところではなく、建物が多く並んでいた。ビルの高さは高いところで10階に満たないビルのようだが、思ったよりも町中だと思って驚く。さらにバスターミナルがあるいろんなところに行けるようだが、どれも行先は見たことのないものばかり。
「やっぱりこれ以上遠くには」さすがにバスに乗るのはやめておくことにする。

駅前から歩いていく。最初のうちはお店が並んでいたがいつのまにか住宅が並んでいるところに来た。「そうか、これで確認しよう」と取り出したのはスマホである。地図アプリで位置関係をチェック。それでおおよその位置がわかるが、せっかくなのでどこか立ち寄れるところが無いかなと探してみる。
「うーん、これっと気になるものが無いなあ」それもそのはずだ。別に目的があって来たわけではない。夜勤明けの睡魔に負けて眠っている間に来てしまった場所だ。といってせっかく来たのにそのまま帰るのもという気がした。
「川が流れているのか、そっちに行ってみよう」
 とりあえずもう少しここにいたいから、近くにある河原を目指す。

「ここは」河原に出たがその光景を見て驚く。地図では確かに川である。今土手の上に来ていた。ここから反対側の土手までは100メートル近くはあるだろうか?ところがである。水が見えない。ずっと白っぽい砂利が続いていて、ところどころに草が生えているような光景である。水が枯れているように存在しないのだ。

「気になる、行ってみよう」ということで、河原に出た。白っぽくなっている砂利の上を歩く。石の大きさがバラバラなので結構歩きにくい。さらに少し匂う。恐らく普段は水が流れているのだろう。だけど干上がっていて水が無いが、残された泥のようなにおいが漂っている。そういえば最近雨が降っていなかった。

「どこまで行けるんだろう」こうなったら河原を対岸まで行ってみたくなった。ゆっくりと歩く。歩いていくが同じような砂利が続いた。水らしきものはやはり見当たらない。だから歩く。もう対岸まで歩けるものだと確信した。
「あ、こんなところに」見ると突然草木が生い茂っているところに出くわしてしまう。まるでこの先を遮るように横長に存在している。
「この先に行くなと言うのか!でも行っやる。ここまで来たんだ」と心に思いながら突き進んだ。対岸までの距離は20メートルを切っている。草花はそんなに多くなく数メートル突っ込めばその先に行けそうだ。とはいえ草花をかき分けながら歩くことなど普段の生活ではないことである。想像以上に苦戦した。

「くそっ!」誰もいないことをよいことに、思わず声を張り上げる。こうして草のある場所を最後まで突き抜けた。「よし、あ!」ここで再び声を出す。残り10メートルくらいのところには、水があった。つまり河原は広いが、川そのものが非常に細いところを流れていたのだ。川の深さはどのくらいあるのだろう。底が見えるのでそれほど深くはないようだ。だけどここから先、もう目と鼻の先なのに、この水を越えるのは困難である。周りに乗り越えられそうな大きな石でもあれば跨ぐのだが、そんなものはない。

「ここまでか、仕方ない」ここで引き返すことにした。もういちど振り返って対岸を見る。対岸には何があるか気になった。スマホで地図を見るが住宅が広がっているだけで何もなさそうだ。
「何もないならいいか」もし面白い何かがあれば、この川の近くの橋を渡っても良いと思ったが何もない。だからそのまま駅に向かう。

 行き程ではないが帰りも大変だ。かき分けた直後の草を越えると大小さまざまな砂利の河原を歩く。やっぱり悪臭が鼻を通じるが、それを我慢して土手に戻る。あとはアスファルトの道を戻っていく。砂利道よりははるかに楽であった。

こうして1時間くらい歩いた未知の散歩を終える。
「まあ、こんなところかな」駅に来て折り返しの列車に乗った。ここから自分の住んでいる家までは30分の道のりだ。「ふぁあああ」列車の席に座って安心したのかあくびが出る。「まずいまずい、また寝過ごさないようにしないとな」今日は夜勤明けなのだ。もしまた寝過ごして振出しに戻らないよう、帰りはスマホをいじりながら睡魔と戦うのだった。


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