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隠しているモノ 第635話・10.19

「あなたが私のモノを隠していることはわかっているわ」私は川中を問いただした。
 私はいまシェアハウスに住んでいる。オーナーは築百年の古民家を4世代が住めるシェアハウスに改築した。そしてオーナーは1キロほど離れた場所に自宅を持っていて、普段はそこで生活をしている。そして特別な用事もない限りこちらには来ない。つまりシェアハウスには利用者のみが住んでおり、私のほかに川中と大北の3人が利用していた。この中の大北は現在仕事で1ヶ月ほど遠方に出ている。だから先週からいない。つまり私と川中しか住んでいないのだ。

 そして今朝私が起きたら、大切にしていたあるモノが私の部屋からなくなっていた。ちなみにシェアハウスのメンバー同志は、お互いプライベートを重視しているためか、共用スペースを使うことがあっても、別に仲良くつるんだりすることはない。何事もなければ赤の他人なのだ。

 私が問いただすと、川中はマスク越しに隠れた口元から声に出して笑う。「フフフフッフ。山本さん、あなた、私にそんなこと言うけどさ、隠したという証拠は?」これに私は一瞬ひるんだ。
「証拠ならあるわ。昨夜から私以外にいたのは、川中さん、あなただけよ。大北さんもオーナーもいないわ」「それだけ? それだけでは証拠にならないと思うけどさ」

 私は一瞬言葉に詰まったがとっさに「いや、ある」と言ってしまう。本当はないのだが......」
「あるのね。では見せて!」
「い、嫌だね。隠しているの」「何それ? 隠しているじゃ証拠にならない」執拗に迫る川中。私が問いただしたはずなのに、なぜか逆に攻められている。

「わ、わかった。あなたが隠しているのをやめれば見せてやるわ」「無理よ! 私、何も隠していない」必死に否定する川中。「ふっ、川中さん、嘘をついても無駄。隠しているでしょ」
 形勢は逆転した。よし一気に川中を問い詰める。
「だったら隠している証拠を見せてから言いいなさいよ」川中はひるまない。私は戸惑ったが、このとき以前から気になっていた点を指摘。
「わかった。こうしましょうか。いつもあなた、シェアハウス内でも帽子をかぶっているでしょ。だったらその帽子をとって隠している頭を見せなさいよ」
「なぜ帽子をとる必要があるのかしら?」「その帽子の中がどうも気になるの。あ、これ、ひとつの可能性だけどね」
 私はしゃべりながら、ここにきてから一度も見たこともない川中の帽子の中が妙に気になった。なくなったモノは手のひらサイズで小さく、帽子に隠そうと思えば可能なのだ。

「そこまで疑うのね。よし分かったわ。ならば、あなたがいつも隠している前髪を見せて」私はいつも前髪を垂らしている。
 川中はそれが気になっていたのか? 確かに私は前髪を隠している理由があり、実は見せたくなかった。だがここまで来たらそれを川中に見せるのに躊躇はいらない。私は前髪をかきあげると、うっすら見えるおでこの横シワを川中に見せた。

「あ!」川中は思わず絶句。それからは何も言ってこない。「ふん、どう。私は見せたわ。次はあなたの番ね」「嫌よ、帽子取りたくない」川中は戸惑った。

「いいから、見せなさいよ」私は川中の帽子に手をかける。「待って、わ、分かったから」川中は自分で帽子をとった。それを見て私は絶句。川中の髪は薄く、頭頂部が剥げているように見えた。「ど、どう。これで何もないでしょう」川中は開き直った口調。
「わ、分かった。ありがとう」私は何度も頭を下げると、その場を後にしようとした。

「あ、山本さん」オーナーが玄関から入ってくる。「はい?」「あ、これどうぞ」オーナーは私が探していたモノを手にしていた。
「なぜ? 一体どういうことですか!」私は川中を問いただした手前、今度はオーナーに詰め寄る。
「実は、昨夜このシェアハウスに泥棒が入ったんです」「え?」私と川中が同時に驚きの声を出す。
「その泥棒は不審者と言うことで近隣から通報があり、すでに捕まりました。ほとんど何も取らずに逃げたそうですが、これだけ持っていたそうです」というオーナーの説明。

「あ!」私は昨夜会社の飲み会に参加していた。あまり酒が強くない私は飲むとすぐに眠くなる。だから夜帰ってからそのまま寝てしまった。部屋の窓に鍵をかけることなく。そして朝気づいたときに、窓の横に置いていたモノが無くなっていたのだ。

「あ、ありがとうございます。あのう、川中さん疑って本当にごめんなさい」私はオーナーに一礼。川中には深々と何度も頭を下げて、顔をこわばらせると逃げるように自室に入った。


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