最北端を目指して 第829話・5.2
「もう少しだな。いやあここまで遠かった」車が北に向かって走る。ここは沖縄本島。ふたりの旅行者はレンタカーで島の北上を続けた。
「エドワード、運転お疲れ様。ここ本当にいいところね。beautiful！」日本語が堪能な金髪の英国人ジェーンが、運転している日本人パートナー、エドワードこと江藤をねぎらう。
国道58号線は左手に東シナ海の青い海原が広がっている。水平線を境にやや薄い空のブルー。色が違うのにどちらも受け入れてしまう美しさ。空には大きな雲がいくつも広がっている。
「来る前はあんなに反対していたくせに」江藤はジェーンに聞こえない程度の声でつぶやいた。
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「ねえ、エドワードこの予定はいらない！」沖縄に出発する1週間前、ジェーンは江藤の旅のプランに不満をぶちまけた。
「え、ここはお勧めだよ」
「エドワードなんで！」ジェーンは不快な表情。「こんなところ何もない。美ら海水族館だけにしよ。その代わり、ビーチ、ビーチでのんびりがいい！」
と食い下がるジェーンだが江藤は首を横にふる。「ちゃんとビーチの日も丸1日取っているじゃないか。せっかくレンタカーで南の海を走るんだ。これくらい俺の希望を入れてもいいだろ！」
いつもなら欧米人らしく、自分の意見をきっちり伝えるジェーンに妥協する江藤であるが、このときはなぜか妥協しない。
ここまで江藤がこだわる以上、さすがのジェーンもそれ以上は口を挟まなかった。
江藤とジェーンはGWの4月30日に沖縄に到着。那覇空港近くでレンタカーを借りてそのまま名護に向かう。名護までは高速道路が通じており、あっという間に到着。その日は予約していたホテルに向かった。
翌日はさっそく美ら海水族館に。ここはふたりとも共通で行きたかった場所である。本当に巨大な水族館で、時間をかけて思う存分海の生き物たちと触れ合えた。
そして3日目の今日5月2日は江藤が希望していた、沖縄本島最北端に位置する辺戸岬を目指すドライブを慣行した。予定では明日は終日ホテル近くのビーチで終日過ごし、5日目の5月4日の午前中には那覇に戻り、そのまま帰るというプランだ。
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宜名真漁港を越えるとトンネルに入る。「このトンネルを抜けるといよいよ辺戸岬、最北端だよ」
しばらく単調な運転が続いていて、若干睡魔のリスクを負いながら走っていた江藤も、いよいよゴールが近づいたことで途端に目が覚めた。
トンネルを抜けると、相変わらず国道の道が続いているが、視界が広がっている。「いいね。やっぱり離島らしい風景だ」と江藤は喜ぶ。ジェーンも助手席から物珍しそうに風景を眺めていた。
気が付けば、道がゆるやかに時計回りに動いているようだ。「地図だともう少しね」と、ナビゲーションに映し出されている地図を眺めるジェーン。
「辺戸岬灯台があるみたいだけど見えないわね」
「口コミでは草木が生い茂っていて行きづらいし、そんなに景観も良くないとあった。そこはいいだろう」
江藤は、ハンドル片手につぶやいた。
国道はそのまま続いているが、左手に別の道が張り出している。「ここだな」江藤は左に進路をとった。
「ここは道が番うな」国道は片道1車線だが、この道は車線もないような道「でもここ入ると近道みたい」とジェーンがナビを見ながら指示をする。
道はしばらく続いたが、さらに次の道に入る必要があるという。
「こ、これは！」江藤が驚くのも無理はない。さらに入った細い道はいよいよ舗装されていないのだ。車の速度は遅いが、それでも土と砂利が混じったでこぼこ道に入ると車体が前後左右に揺れる。
「ちょ、ちょっと、エドワード！ゆっくり走って」右手遠くに大石林山と思われる少し切り立ったような山が見えた。だがそんな風景を楽しむ余裕がない。「ジェーン、このルート失敗だったかな」江藤は途中で曲がったことを後悔する。
「あ！」江藤は思わず大声を出す。目の前に道路が見えたが、そこは片道一車線の舗装された道路で、国道のように走りやすい。「あそこで曲がらなければよかったかもな」「でも、エドワード面白かった！」とジェーンは嬉しそう。江藤はジェーンの表情を見て一安心。ほどなく辺戸岬の駐車場が現れ、そこに車を止めた。
「エドワード面白い鳥の像がある！」遊歩道で腰まで伸びた金髪をなびかせながら、ジェーンが見つけたもの、それは白い鳥を象ったもので、沖縄・与論島友好の碑であった。「パナウル像というらしい。与論島のものらしいな」事前に江藤が調べていたのか即答する。
そのまま祖国復帰闘争碑の後ろに広がる海を見た。「うぁあ、素晴らしい。Wonderful scenery！」と英語交じりに大きな歓声を上げるジェーン。
こうして沖縄本島最北端に来たふたり。仲良く手をつなぎながら静かに鹿児島県に通じる海を眺めるのだった。
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