髪猫 第653話・11.6
「おい、俺の髪よ。まだしっくりこねぇなあ」男にとってありえないことが起きたのは今朝のこと、これは夢でも何でもなかった。朝起きるといつもより頭が重い。最初は頭痛ではと思った。「こんなに重いなんて、変な病気でなければよいのだが......。だが次の瞬間おかしなことが起こった。頭の上が動いている。「髪がこんな動き?」気にしだすと余計に気になるもの、どんどん頭で何が起きているのか不思議で仕方がない。すると突然猫の鳴き声。「猫、飼ってもいないし、野良が紛れ込んだ?それはない」男はそれでも立ち上がったが、その時大きく頭に動く。「まさか俺の頭に!」男はとっさに鏡を見た。そしてそれを見た瞬間、思わず顔がピンクに染まる。それもそうだ頭の上に乗っているはずの髪がなく、その代わりなぜか猫が乗っているではないか? 猫はときおり鳴き声を出しながら動くが、男の頭から離れない。否、離れられないのだ。
「なぜ?俺の頭に猫が」男は夢だと思いか顔を叩いたり、大声を出して目から覚めようとした。だがこれは夢ではない現実。テレビをつけるといつものようにテレビが流れている。「現実、なんで?」男は頭に乗っている猫を触った。まぎれもない猫。おなかのあたりを触ると猫の物と思える脈が手に伝わった。「え、本当に生きていると、外れないかなあ」男は両手で強引に猫を持ち上げようとした。しかし猫は動かない。「ならば」と猫を両手で思いっきり引っ張り上げようとした。しかしびくともしない。そして猫のボディとくっついているためなのか頭がいたい。しばらくして猫の鳴き声、猫の方も明らかに辛そうだ。
男は戸惑った。もう一度鏡を見る。やはり頭に猫が付いたまま。「友達にも相談できないぜこりゃ」男は悩んだ。今日は土曜日で休み。それがせめてもの救いか。「ネットで同じ悩み抱えている人いないかな」男はネットで探してみる。まさかとは思うが、男のように朝起きると頭に猫がくっついた状況になっている人がいないかと。
どのくらい探したかわからない。男はひとこと「いるわけないよな、そんな人」と言ってため息をつく。となると自力で対策を練るしかない。まずこのくっついている部分を外してもらうしかない。「病院か、でも何科に行けばいいんだ。外科か」と思ったが、今日は近所の病院は休み。もちろん緊急治療とかならいいかもしれない。だが男がふと考えると、頭に猫が乗っているというだけでそれ以外に、困ったことがない。引っ張れば痛いが、それをしなければ何もなかった。また多少重い気はするが、苦しいわけではない。
「急ぐ必要がないか、週明けにしよう。俺の髪よ、しばらく一緒だ」男は『俺の髪』と名付けた上の猫に語る。猫は聞こえたかどうかはわからないが大人しくしている。こうして男はこの週末は今まで未体験の猫を頭にのせたままの生活をすることにした。考えがまとまると急に腹が減る。
「なに食べようかなあ」男はとりあえずカップ麺を食べることにした。そしてカップ麺を作りさっそく食べる。ところがふた口ほどすすっていると突然、頭の上が反応した。猫の鳴き声が激しい。「もしやこのラーメンの匂いか?」どうやら頭の上の猫は男の食べているラーメンに反応したようだ。
「そうか、でもこれは食わないだろう。何か食わせられるものあったかな」男は立ち上がって、戸棚を探す。すると「あ、あれは」あるものを発見した。それはキャットフード。猫を飼っていない男の家になぜキャットフードがあったのか? それを見た男は半年前のことを思い出す。親友が1か月長期出張ことが決まった。そこでその間、親友の飼い猫の面倒を見てほしいと、男に依頼が来たのだ。
そこで初めて男は猫を飼った。その時に残ったキャットフード。男は猫とともに過ごした一か月が意外に楽しいことに気づく。何しろ親友が出張から戻ってきて、猫を引き取りに来た後、少しの間、寂しかったから。
「そうか、それをあいつに」男はいったんテーブルに戻り残りのラーメンをすべて平らげると、キャットフードを開けて、皿に盛りつける。「よし、食えよ」男は猫にキャットフードを食べさせようとする。だが猫は鳴いたままで体をバタつかせるように動かすのみ。「そうか、『俺の髪』は食べたくても俺の頭とくっついているからな。よし、ちょっと待て」男はそうなると、床に横たわる。そして頭をキャットフードの皿の前に突き出した。すると猫の鳴き声が変わったかと思うと、頭が騒がしく動き出す。耳をすませば、キャットフードを食べる音が聞こえる。「良かった。俺の髪よ。とりあえずお前も腹が減っただろうな」男は横たわりながら微笑んだ。
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「あれ、ここは?」男は突然不思議なところにいた。真っ白で色のない世界。頭を触ると俺の髪がいて体を動かしている。すると遠くから声が聞こえた。「どうだ、髪猫は」
「え、いや、悪くはないが、できたら頭と猫を取りたいんだ」「ほう、お前がそれを望んだのにか?」「望んだ?」男は、声の主に問いただす。「忘れたのか昨夜のこと」「昨夜?」
すると男は昨夜を思い出した。前の日の夜「髪が伸びたな。そろそろ切りに行こう。何なら一度スキンヘッドでもやってみようかなあ」と思っていた。そして寝たあと、今と同じような空間に来たことを思い出す。
「これは夢か」男はつぶやいた。その直後に、昨夜の夢?この空間で声の主とのやり取りを思い出す。
「切るという事は頭の髪が邪魔なのか」「え、ああ、よく知っているな」だが声の主はそれには答えない。「それでお前は寂しくないのか?」「寂しい......」声の主は髪が無くなることで寂しくなるかと問いていた。ところが男はここで勘違い。「ひとり暮らしで寂しくないのか?」と聞かれたと思ったのだ。
そう考えると確かに寂しい。友達はいるが、彼女のようなものはいない。というより、ふと半年前に一緒にいた猫のことが頭に浮かんだ。
「寂しいといえば寂しいな。せめて猫がいたらいいのだが」「ほう猫か、わかった」
この後の記憶はない。そして男は悟った。「え、髪がなくて寂しいと思って猫が頭に!」
「ようやく気付いたようだな。お前の願いをかなえてあげたんだが」
「いや、だから、髪はいい。頭はスッキリしていいんだ。もしできるなら、代わりに猫と俺を分離して欲しいな。これでは猫のほうも可哀そうだ」「わかった。そうしよう」「え、やってくれるのか。でお前は一体」しかし声の主は男の問いには答えない。
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「あ、夢だ。最近変な夢見るな」いつしか眠っていた男が目覚める。キャットフードが入っていた皿は空っぽになっていた。「俺の髪、ちゃんと食べたか」だが、今までいた頭の上の反応がない。「あれ」俺は頭が軽くなっていることに気づいた。そして頭を触ると猫がいない。「え、いない!」慌てて鏡を見ると確かに頭には猫がいなくなり、スキンヘッド姿になった。
「やった。あの夢で出てきたのは、神様? 不思議だ」男は喜びと同時に不思議なことが起きたことに複雑。それ以上に頭にいた猫がいなくなったことに寂しさするら起こった。
すると猫の鳴き声が聞こえる。男が振り向くと、頭に乗っていた紫の猫が目の前にいた。「お、俺の髪!」それに猫が反応したのか男の前に来て体を動かして甘えてくる。「よし、お前を飼ってあげよう。今日から家族だ」男は猫を両手で抱っこして嬉しそうに猫に語りかける。
だが男は別の悩みが発生した。「名前どうしよう。いくらなんでも『俺の髪』じゃあね」
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