散歩日記 第1145話・4.10
「うん、あ、もしかして」PCでずっと仕事をしていたが、ふとテラスの外に出てみようと席を立つ。ここは高層ビルの高層階である。立ち上がって窓に近づく。いつの間にか暗くなっていたのか窓越しからは夜景が見えた。周りのビルも見下ろすような高さがある。ここから窓を開けてテラスに行こうと思ったがそこには行けない...…。
理由は大きなガラスが1枚でおおわれていて窓を開けることができないからだ。
「やっぱりだめか」大きな一枚のガラスでテラスまでの間を覆っていることなどはもちろんずっと前から知っていた。
なのになぜかこの時は、そのガラスの先にある窓の外に出たいような気分で仕方がない。「実は窓がなかったりして」なぜそう思ったのだろう。不思議だが、そのままテラスまで突撃する。当然体がガラスに当たってやや野太い衝撃音が聞こえた。
「なんで、こんなビルの設計なの？」
これが窓ガラスの先には何もないのならそう思わないだろう。もし何もないのにガラスの窓が開いたら即落下だ。だが窓の外にはテラスがある。見た目では少なくとも人が2，3人は出られそうな大きさはあった。だったらテラスまでいけるようにしたらといいのにと思うが、そのテラスは単なる飾りなのか決してそこには入れなくなっているのだ。
「どこか入り口がないかしらね」今日は無性にテラスに行ってみたかった。いつもならすぐに諦めるのに...…。
そう考えるとどこかにドアがないか必死になって探してみる。部屋中を探したがやはりドアがないようだ。
「だめか」と、今回も諦めようとしたが、この時ふと頭の中にあることがよぎる。「まてよ？」
いったん部屋を出てみることにした。以外にも部屋からはテラスに行けなくてもビルの共用スペースからは行けるのではと。
というわけで部屋を出た。部屋を出るとビルの端から端まで一本のラインのような廊下がある。そのまま左に行こうか右に行こうか悩んだが、このビルに普段から出入りしている経験上、左ではなく右のほうが怪しいと思ったので、そのまま右方向に向かって歩いてみた。
「いつもは歩かない道」そう、いつもは左端にあるエレベーターとの往復だから、左方向は何があるか知っている。だけど右方向は普段行かないから新鮮だ。
「さてあるかな」半分は期待、半分は絶望という状況で廊下を歩く。ついに一番左端に来た。
「うーんないかな」端まできて左右を見渡してみる。左側は部屋になっていて正面は壁のようだ。右はと見ると「あった！」ついにドアを発見した。外に出られそうだ。ここでドアを押す。動かない。引いてみると、やはり動かないのだ。
「進入禁止になっているのか、やっぱり出られないのね」鍵がかかっている。ここで諦めて自室に戻ることにした。だけど自室の前に来ると最後の可能性に賭けてみる。そう、エレベータールームのほうに歩く。「見落としている可能性があるから」という理由だ。
「いつも見ているところだけど」普段は特に何も考えずエレベータと自室の往復をしているだけだが、今日は注意深く周囲を見ていく。
普通に考えれば端に通路への入り口があると思われるが、意外に途中にあるかもしれないと思ったのだ。「これは？」そんな風に思っていると怪しいところを見つけた。
それはエレベータルームの斜め前、非常口と書いてあるドアである。つまり非常階段があると思われるところだが、今まで使ったことも開けたこともない。「怪しい」そう思いドアを開けてみる。しかしその名の通り非常階段が上と下につながっているだけで、別に外に出るようなテラスに向かうドアや通路などは存在しないのだ。
「やっぱりないのかな」非常階段のドアから出た後、念のためエレベーターの周辺やすぐ横にあるビルの橋なども見たが、結局外に出るドアは見つからなかった。「唯一ドアらしきところは反対側にあったけど閉鎖されていたし」諦めて自室に戻ることにする。
こうして自室に戻ってきたが、このとき意外な効果があったことに気づく。「ストレス発散できた」そう、ずっとテーブルに座っていてPC作業をしていたから、無意識にストレスが溜まっていたようだ。だから外のテラス席がやけに気になった。だがそのテラスへの入り口を探して同じフロアの廊下を往復していると、それでストレスが発散した良い運動になったようだ。もう自室に戻ってきたが、やはり見えるガラスの先にあるテラスに行こうという気がもう起きない。
「ビル内の同じフロアの移動だけど、これでも散歩になったのかな？」少なくとも気分は発散できた。こうして再び仕事に戻るのだ。
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