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この経験に学べ 第1155話・4.27

「これはこれで、た、大変だけど、それよりか」俺はプラス思考だ。どんなにまずい状況に陥ってもプラスに考える。実は普通なら落ち込むような状況に遭遇していた。だが俺はここでもプラス思考、それよりもひどい過去を思い出せば、今の苦悩は大したことがないと考える。

「そうなんだ、たいしたことないじゃないか。そうだろう」
 俺は昔、刃物を持った連中に絡まれた。通り魔というやつだ。いきなり襲われて刃物で体がいくつも傷ついた。俺は逃げるのに必死。それでもどうにか逃げ切れたが、その時は体中が傷だらけと同時に、全身からの激痛に苦しんだ。どうにか病院に駆け込み、事なきを得た。

「あの時も、本当につらかったが」俺はその時もプラス思考。「死なずに済んだということだけでラッキー!」と、思ったものだ。それと比べれば今はそもそも敵もいなければ攻撃をしてこないし、俺が傷つくこともない。
「痛い目に遭っていないぞ。それを思えば全然平気なんだ」俺はあくまでプラス思考でいる。とはいえ、今は実質的にある大きな何かに束縛されているのは事実。「さてどうしたものか?」

 通り魔の時もそうだが、俺はいつも理由もない困難に直面している。あの時も今も誰かに恨まれるようなことをした記憶もないし、どこかの秘密組織を怒らせたこともないはずだ。
「けどなんでこんな目に遭っているんだ」俺はわからない。ごく普通に生活していたある日、突然目の前の風景が謎の文様だけの世界になっていたのだ。

「いったいココがどこで、どうなっているのか?」俺にはわからない。ただそれまで音が聞こえ、臭いがしたが、それすら一切なくなった。嗅覚と触覚、それから聴覚が奪われているのは確か、視力もそうなのかもしれないが、暗闇ではなく文様が浮いているのが見えるからまだ救われているのだろう。

「し、しかし」さらに今の俺は体が動く、呼吸もできるし、座ることも立つこともできる。歩くこともできるのだ。だが実際はわからない。ただ目の前が同じ文様が浮かんでいるだけ。それは前後左右上下、360度すべてがそうなっている。そもそも重力があるのかどうなんだろうか?普通なら決して行くことのできない下にも降りていけそうなのだ。

「脱出は無理なのか?」当初俺は様々な方法で前後左右あるいは上下に動いてみた。一応前進も後退もしているように感じるが、何しろ同じものしか見えない。見えないのだ。
「泳いだらどうなるだろう。それも上方向に」俺はあくまでプラス思考である。通常の世界では絶対にできないことができるのでは、という思いが急激に俺の気持ちを支配した。

「やってみよう。平泳ぎかな」俺は子供から学生時代のころ以来の「泳ぐ」という行為をやってみることにする。幸いにも手も足も普通に動く。

「どうやるんだっけ」しかし、俺はいざ平泳ぎのやり方が思い出せないでいた。そもそも泳ぐ機会がこれまで全くない。通り魔に襲われた時にも海や川に飛び込んだりはしなかった。あの時は山に隠れながら敵を振り切ったのだ。「最後に泳いだのって、どのくらい先だ」俺は泳ぎ方がわからず悩む。「とにかく動かそう。手と足を」俺は適当に動かしたら思い出すと考えた。

「できない!」俺は悩んだ。俺は必死にやっているができない。「もう一度海かプールに行けば練習するのに」俺はそんなことを頭によぎらせた。どうせ何もない同じ文様しか見えない世界だ。何を考えったって問題はない。「水の中で泳ぎたいんだ!」俺は周りに誰もいないことをよいことに大声で叫ぶ。


「あ、お、ち、ぷふぉ、ぷ、う」俺は突然のことに何が何やらわからない。それもそうだ、何もなかった文様の世界が突然変わって、どうやら水の中にいるからだ。俺は必死に手足を動かす。するとぎこちないが、少しずつ体が浮上で来た。「あそこが?」俺は水面らしきものを見つけて思いっきり体を動かせて上昇すると、首が水面の上に出た。

「あ、」俺は次の瞬間目を疑った。そこはビーチ。ただ今はシーズン外だから?俺のほかにだれもいない。「あの距離ながら」と俺は浜辺まで歩こうとしたら、足の裏が何かにぶつかった。
「あれ?」俺は立つと、水面は膝の高さになっていた。「歩いて行ける?」俺は恐れながら足を岸方向に向けると普通に歩ける。「歩けるわ」と思って俺はそのまま岸辺に戻った。

「あれれ?」さらに俺が驚いたことが起きている。俺はいつの間にか水着姿で、サンダルを履いていた。それに海水浴場と思っていたが、ここはリゾートホテルの人工海岸。淡水のビーチだったのだ。
「記憶があれ?」俺は混乱しながら岸辺に多数置いているビーチチェアーのひとつに横たわる。俺はこうなるまでの記憶を確かめるために、いったん目をつぶった。


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