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休日のすごし方 第1146話・4.11

「ビル内の同じフロアの移動だったはずだが...…」連日残業が続いたためだろうか?俺は疲れているのかもしれない。
 今日は休日だけどせっかくだからと外に出ている。それにしても目の前にいるのは明らかに人ではなかった。白いボディに身を包んだ存在、といっても着ぐるみでもなさそうだ。白いボディはリアリティある。
そいつは帽子をかぶっているがコックの帽子に見える。シェフなのだろうか?手を挙げて口を開けているから友好的ではあるのだろう。だけど不思議である。なぜこのような存在が目の前にあるのというのだ。

「記憶を呼び戻そう」俺がなぜこんなところにいて、こんな謎の存在が手を振っているのか?「えっと、あ、あ、確か」俺はかすかな記憶を思い起こそうとした。今日は休日だが、以前から気になっていたイベントが夕方から行われる。最寄り駅は都会のターミナルだが、俺は楽しみだったためか早起きしてしまい、ずいぶんと早く来すぎてしまった。そこでゆっくりとランチを食べながら時間をつぶそうと、駅前にある商業施設が入っているビルに入る。

「上のフロアには何があるのだろう」商業施設の最上階から上はオフィスフロアだったはずであった。俺は別にこのオフィスの会社とは無縁だから関係がないし、今まで行ったことがない。だけどなんだろう。ふと商業施設の最上階から上りエスカレーターを見つけた。「上にはクリニックフロアか」ふと登ってみようと好奇心が湧く。

 エスカレーターで上までくるとクリニックが並んでいる。外科内科などいろんな科があるようで、おそらくこの上にあるオフィスの人が使えるようになっているのだろう。だけど今日は休日であるからかこのフロアはひっそりとしている。上にあるオフィスフロアも静まり返っているのかもしれない。
「つまらないな。降りようか」と思ったが、ここでふと奥が気になった。奥に何かありそうな気がしたのだ。するとまるでその奥に磁石でもついているかのように俺は引き寄せられるように歩いていく。

「ここまでは思い出した。だけどそこからが」俺は記憶がそこから思い出せない。というよりも、目の前の状況を打破しなければということを思い出す。今、目の前の相手は友好的に手を振っている。だが俺の対応次第で相手を不機嫌な目に合わせたらどうなるだろう。
 相手は見た目では強そうには見えないが、それは見た目だけの話。実際には想像を絶する破壊力があるのかもしれない。

「とりあえずこっちも友好的に」俺は相手と同じように手を挙げて笑顔を作った。相手は反応はない。「まずいかな」俺はすぐにやめた。
俺は相手に近づくか迷っている。相手が俺に対してどんな感情を持っているのだろう。本当に友好的なのだろうか?だけど俺の今の合図に対しては、全く無関心だ。

「あ、俺は記憶の一部がよみがえった」クリニックのあるオフィスフロアの奥に行ってからだ。「確か...…」俺が記憶を読み起こそうとしたが、もうその状況ではなくなった。

「う、うわあ!」俺は焦る。向こうから近付いてきたのだ。ポーズはそのままでこっちに近づいてきたとは恐怖以外の何物でもない。そいつは先ほどよりもはっきり見える。目が青い。さらにコックの形をした帽子のところの中央も青い。まるで大きな目のようだ。「あれは第3の目なのか」目らしき3つの青い丸はどれも同じように俺を見つめているような気がした。

 相手は黙ったままただ近づいていく。もしかしたら開いている口や上げたままの手は帽子同様に、単なる飾りではという気がした。ただ目だけは違う。青く光った3つの目は確実に俺を捉えている。まるで俺がどんな存在なのか分析しているようだ。
「まさか!」この考えが頭をよぎった時、俺は全身から血の気が引いた。「こいつ、俺を食材と思っているのか!」

 俺はすぐに後ろを向き慌てて逃げようとする。だが体が後ろを向けたが足が動かない。「なに、なぜ、なぜだ」必死に手と足を動かすが動かないのだ。だが後ろから嫌な気を感じた。「あいつ、あいつが近づいている!」俺は殺気づく。俺は最後の力を振り絞って目をつぶって力いっぱい足を動かす。すると足が動いた。

「あれ?」足が動いた瞬間、目が開いたが場面が変わっていることに気づく。見ると俺の動きを見たのかもしれないが、口を押えて笑いをこらえている人が過ぎ去った。
「ここは...…」見るとレストラン街である。「あ、そうだ隣のビルに来ていたんだ!」俺は知らぬ間に隣のビルからこのビルに歩いてきたようだ。
 後ろを振り返ると渡り廊下があった。クリニックのフロアと渡り廊下でつながっていたのか...…。
 俺は頭が混乱したが、おなかから音がなり、空腹であることに気づいた。「そうそう何か食べようと来たのに、さて何食べようかあ」俺はレストランを一軒ずつ覗いたが、あるところで全身が鳥肌に覆われた。
 目の前のレストランの看板が、さっき見たあいつそのものだからだ。


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