ゴルフをやって見る?

「ゴルフ? 全く興味ないんだけど。ていうかお前なんでそんなものに興味持ってんだ」
 黒いTシャツとカーキ色のズボンを履いている太田健太は、白いTシャツにピンクのロングスカートを履いた木島優花の一言に、驚きと否定混じりの言葉を発した。

 ここは、いつもふたりが待ち合わせるカフェ。いつも通り、先に健太が来て、おなじみのコーヒーのブラックを飲んでいたら、遅れて優花が到着。今日の彼女は、ダージリンティーを注文した。

「だって、今日5月28日がゴルフ記念日ってあったから、ふと思っただけよ」
「はあ、そんなの知らないって。ていうか、いきなりゴルフやりたいって言われても......」健太は戸惑いながら腕を組む。

「別に今日じゃなくてもいいわ。けど、今のうちに太田君ゴルフ始めたほうがいいような気がする」「な、何でだ?」
「だって大学卒業して、就職したら多分やらないとまずいよ」ここで運ばれてきた、ティーに口をつける優花。

「え、俺がゴルフをか?」「そうよ。だって会社の人、接待でゴルフってやるじゃない」
「接待って。そんな新入社員とか、いきなりするもんじゃないだろう」首をかしげる健太。
「そうかなあ。さすがに新人のときはないかもだけど、2年、3年と経ってきたら、意外に早いかも」優花の眼差しは真剣だ。

「え、まだ就職先とかも決めて無いのに、いきなり接待のことって。まあたとえそれでも、接待だったら負けるほう。だから適当でいいんじゃないか。ようは相手に勝たせてあげればいいだろ」
「太田君馬鹿ね。そんなあまりにも弱かったら逆に失礼じゃない」
 健太は思わぬ返しに驚きつつ、それを悟られまいとコーヒーに口をつけた。
「そ、そんなものか?」

「そうよ。こういうのって、ある程度接戦まで持ち込んで、相手にハラハラさせるの。それで最後に勝たせてあげるのよ。そうかあ、となると相当実力がないと無理かもね」優花はなぜか真剣に悩み、顔を下に向けて考え込む。

 その一方で、優花の飛躍した発想に引き続き戸惑いながらも少し興味がわいてきた健太。
「でもさ優花。ゴルフって、ゴルフクラブとかのセットとか高いんじゃないのか? 確かアイアンとかドライバーとかいう名前だよな」
「うん、そっか。そうよね。いろいろ揃えないといけないのか。じゃあすぐには無理ね。うーんレンタルとか無いのかしら」
「あとゴルフのコースを回るのも大変だよ。ゴルフの中継、テレビでみたことあるけど、コースが18あるんだよね。それにあれって、朝から回るんじゃなかったけ。もうお昼前だよ」ここで健太はコーヒーを全て飲んだ。
「ていうか、俺ルールほとんど知らないけどな」
「私も詳しくは知らないわ。確か、穴にボールを早く入れるかどうかを競うんでしょ」

「いやいやいやそんな、単純なものではないと思うよ。最初は思いっきり遠くに飛ばして、最後はグリーンの上でパターで転がしながら穴に入れる。大人たちは、あれを真剣にやっているんだ。そのくらい奥が深いんだよ」

  優花はしばらく黙っている。健太はその間スマホを眺めていた。どのくらいの時間がたったのか、ようやく優花が口を開く。「そうだ、そしたら今日はゴルフの打ちっぱなしの練習場かパターゴルフに行こうよ」
「え?」「それがいい。そこなら多分道具も貸してくれそうだし、本格的なの無理だからまずは雰囲気味わうの」

「あ、そうか。それならいいか。でもどっちにしよう。1日に両方は無理だよ」
 優花はスマホを操作して近くにゴルフを楽しめるところがないか探してみた。「あら、迷ってるわ。打ちっぱなし練習場も、パターゴルフのところもここからの距離はちょうど同じくらいなの」
「同じくらいか、さて、どうしようかなあ」
「ねえ、太田君どっちがいい」
「え? 優花、もうどっちでもいいよ」

「パターゴルフは、最後の仕上げの練習にはぴったりだけど、飛距離を飛ばす練習には向いてない。かと言って打ちっぱなしは、飛距離と飛ばす練習は出来ても仕上げは出来ないか」
「あの、それ当たり前だから、ほんとそのどっちでもいいよ。もう練習以前の問題だから」

 こうしてふたりはゴルフに関係のあるデートを楽しんだ。

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「パターゴルフ楽しかったね」
 笑顔の優花にうなづく健太。
「そうだな。遊び感覚で楽しめたしな」健太も笑顔になる。
「打ちっぱなしじゃそうはいかないかな」「いや、そっちじゃなくてよかった。あっちは真剣に練習する人もいるだろうから。それにやっぱりお前の格好まずかったような気がする」
「スカート。そうよね。ゴルフウェアが理想だけど、せめてパンツでないとね」優花は自分のロングスカートに視線を送る。
「まあ、パターゴルフは良いとして、打ちっぱなしは俺たちにはまだいいんじゃないか」

「嫌ならいいわよ。別にゴルフじゃなくても。でも他にあったかしら?」
「ん、何が?」
「あ、その接待に使えそうなものって」
「だから、一度接待のこと忘れないか!」と頭を抱える健太。その横で小さく舌を出す優花であった。


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