部活の思い出 第1032話・11.24

「も、もういいですよ、コ、コーチ」一回りも年上のコーチであるが、私に何度も謝るしぐさが可愛く感じた。だがこの日はまさかの特訓で、私は正直クタクタになっている。
「ほ、ほんとうに、いいんです、ふふぁああ」急に私は大あくびをした。コーチは静かに頭を下げると静かに私の部屋を出る。

「あ、あれ、突然はじまったし」まだ出かかっているあくびをかみ殺しながら私は思い出した。というより前の日からだ。

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「悪いけど今から合宿をするからついてきて」
 昨日の夕方私は部活の練習中に、突然コーチに呼び出された。どうも最近私の記録が伸びていないということで、監督の命令でコーチからマンツーマンで特訓を受けることになる。

「急に合宿ってって、私なにも用意は」「いいから、つべこべ言わない。早くついて来て」
 いつも以上に鋭い声でコーチに言われ、私はしぶしぶ付いていく。合宿というくらいだから恐らく泊りだと思うが、そんな用意全くしていない。コーチが運転する車に乗ること1時間、どこかの山の上に連れていかれた。
「あの、コーチ、どこに行くんですか?」

「あの山の上、あれ?うちの部活の合宿場があるんだけど。あなた初めてだったかな」私は大きくうなづく。合宿はおろかそもそも個別で特訓を受けたことがない。「私そんなに成績が悪い?」私はおそるおそるコーチに質問をすると、コーチは「悪くないと個別の合宿なんて連れて行くと思う?」と返された。

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「さっそく下着も含めてこれに着替えて、今着ている下着は明日着て帰えられるように、今日のうちに洗濯しておくこと」私はひとつの部屋を与えられるとそういわれた。
「わかりました。で、コーチ、特訓は今からですか?」だがコーチは首を横に振ると、「今日は自主練習ね。明日特訓します」とだけいう。
 そのまま部屋を出て行った。

 私は下着を含めて着替えて洗濯をする。そのあとは与えられた部屋に入った。6畳1間の部屋はひとりで過ごすのは悪くない。ネット環境もテレビもあるので、別に不自由はしないのだ。トイレはもちろん、シャワールームも冷蔵庫もあって、冷蔵庫の中には食べるものが入っている。 
 合宿と言ってもひとりでお泊りをしているようなものだ。

「明日の特訓かあ。何があるんだろう」私はひとりで眠る。だが少し不安になった。何をするのか全く教えてくれないから、まったく予想ができない。
「ただ指定された服は、そのままトレーニングが出来そうな服装。これしか与えられていないからそのまま眠った。

「服を着替える必要もなく、特訓かあ」私は眠れず起き上がると、部屋の窓から空を見る。今日は天気が良いのか月が良く見えた。月に隠れるようにいくつかの星も見える。だが今日はあまり星をゆっくり見ようという気持ちになれなかった。とにかく明日の特訓の内容について全く聞かされていない。
「もう寝ようか」私はいつもより早く眠ることにしたが、かえって興奮して眠れないのだ。

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 夜中に突然サイレンの音が聞こえた。「火事?」私は慌てて起きる。部屋を出るとコーチが目の間にいた。「か、火事ですかコーチ」
 だがコーチは微動だにせず私を睨むように見つめると、「今から特訓です。この建物の周りを200周しなさい!」「え?」
「はやく、今からすぐです。カウントしますから200周しなさい!」私は突然のことで何が何やらわからなくなった。壁に見る時計を見ると午前3時30分。「い、いま、まだ夜明け前ですよ」「早く!」

 私はコーチの大声に威圧され、慌てて靴を履いて外に出た。建物を1周するように言われる。建物自体はそんなに大きくなく、道は舗装されていて平坦だ。ジョギングで1周走ると1分程度だろうか?
「それにしても200周とは」私はコーチが睨んでいる中、突然のトレーニング開始。準備もなく走るから最初は調子が出ない。それでも淡々と走り出す。1周1分だから100周すると1時間半かかるが、私の場合はバランスが悪い状態だったから100周した時点でもう少しかかったようだ。空が少し明るく青っぽくなってきた気がする。
「あと半分頑張って!」100周を過ぎた上がりからコーチが少し優しい声になった気がした。私は息が苦しいのと睡魔に耐えながら走る。ただ途中で休憩はできたし、水も飲めたので、苦しさで倒れることなく最後は歩いて200周した。

「はい、200周お疲れさん。これで特訓は終わりよ」あんなに険しいコーチが突然笑顔になる。私はその笑顔を見るとちょっと不快な気になった。
「ちょっと、コーチこれはいったい?」「これはうちの伝統的な合宿のトレーニングです。あれ?知らなかった」と言い出す始末。

「知りません、ふぁああ、ちょっと眠っていいですか!」私は不満むき出しにコーチに言う。「お昼に帰りますから、それまでなら」と答えが返ってきたが、私はますます怒りがこみ上げたので、それには答えずそのまま部屋に戻る。
「ひどい、なにこれ?だまし討ちみたいな特訓!」私は疲れや眠さより、怒りがこみあげて興奮する。部屋のテレビをつけると、朝のワイドショー番組のようなのをやっていた。
 私がそれをぼんやり眺めてて横になっていたら、ノックがする。最初は無視したが、しつこいので開けた。

 すると予想通りコーチがいる。すごく申し訳なさそうな表情だ。
「あなた本当に知らなかったの、うちの特訓」「ええ、知りませんよ。なんですかこれは体罰?だったら表に出しますよ」
 するとコーチは恐れた表情になり。「知っていると思ってたの。ごめんなさい。本当にごめんなさい」と、私に何度も謝った。

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