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ライラック杯

「青の出番で行けると思ったのにクソッ!」そういって嘆く同級生を僕は励ました。「そんなことないよ、全国大会に出ただけですごいんだって」だが同級生は首を横に振る。

「いや、今回の北国杯全国大会では、僕たちの高校の実力ならベスト4は行けるはずだった。それが準々決勝でまさかの...…」そう言って同級生は顔をしかめてうなだれる。 
「おい、そんなに落ち込むなよ。もう終わったことだぜ。それよりさ、せっかくはるばる札幌まで来たんだ。明日朝の飛行機で帰るんだから、今からだったら半日札幌で遊べるよ、せっかくだから観光しようよ」

 こうして同級生と札幌の街を目的もなく歩く。すると紫色をした花が咲いているのを僕は見た。「なんだろう。見たことがない。桜ではないな...…」 
 だけど僕はこの紫の花の名前を知らない。春に咲く花といえば桜とかチューリップくらいしか頭に浮かばなかった。
「おい、あそこ見ろよ!」突然同級生が声を出す。僕が見ると紫の髪をした女の子がいる。笑顔が素敵だが、どうも違和感があるのは、耳が横を向いていて先が尖っているように見えるのだ。僕と同級生は驚いたが、あまりにも笑顔が素敵な女の子だったので思わず近づくと、女の子は僕たちの顔を見つめる。すると笑いながら、「それはライラックの花よ」と言って走り出した。

 僕と同級生は無意識のうちに女の子の後をついていく。すると同じような耳の形をした遠くに仲間らしい人が何人かいて、そのほうに女の子が近づいた。僕たちも近づこうとしたが、ある所から距離が縮まらない。必死に近づこうとしたが、気がついた時には女の子も仲間の姿も消えていないのだ。
「あれ、幻??」同級生は目を大きく見開いたまま固まっている。僕も不思議な出来事のためか、しばらく鳥肌が立ったがそれが落ち着くと、先ほどと同じ紫色の花が周りを覆っているのが見えた。

「ライラックの花か...…」僕が静かにつぶやいた横で、友達は花に近づく。
「ライラック、僕知っているよ。確か100年以上前にアメリカの教育者が札幌に持ち込んだといわれている花だ。北海道で根付いて今では札幌で春を告げる花なんだって!へえ、これがライラックの花か、可愛いね。初めて見たよ」
 そういいながら嬉しそうにライラックの花を見つめる同級生。

 僕は同級生がようやく元気を取り戻してくれたので嬉しくなった。その時だ最近ひそかに趣味にしている俳句が一句浮かんだ。思わずライラックを眺めながら僕は一句、声に出して詠んだ。

北国に 根付き紫 ライラック

こちらの企画に参加してみました。(俳句がメインで前置きのミニ小説がおまけ)

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