なんかつまんない 第787話・3.21
「なんかつまんない」いま私は２年ぶりにこの言葉をつぶやいた。「あ、懐かしい。そうそう、あのときはよくつぶやいていたわね」久しぶりに耳元で聞こえたキーワードに私は懐かしさを感じつつ、2年ほど前からの怒涛の出来事を思い出す。
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「なんかつまんない」また私は悪い癖をつぶやいた。どうも最近この言葉が気に入ったのか、事あるたびにつぶやいてしまう。「なんかつまんない」と。では何がつまらないのか？と言われると困る。なぜならばつまらないわけではないから。
一部上場企業こそではないが、そこそこの資本規模のある会社に就職し、5年がたつ。仕事は順調で、良い上司、同僚にも恵まれたホワイト企業。半年前からはチームのサブリーダーになって少し責任のある立場になったけど、とにかくやりがいがあるから、勤務中は充実した時間を過ごしている。
そのうえこう見えてパートナーも昨年できた。素敵な相手。とてもじゃないけど、愛は覚めそうにない。このままいけば結婚の二文字も視野に入りつつある。
では漠然とした不安があるのかと言えばそんなことはない。デートのほか私には趣味がいろいろあり、それに没頭して素敵な休日が過ごせている。不安の「ふ」の字も出てこない。
にもかかわらず、先週くらいから出てくるこのキーワード。「なんかつまんない」いったいどういう事なの？何故つぶやくの？？
最初は無意識につぶやいていたし、誰かの前でこれをつぶやくことは今まで一度もない。ひとりになったときに判然とつぶやく言葉。
「もうつぶやきたくない。人生が平凡すぎるから？。そんなことない！平凡ほど平和で幸せなことがないのに...…」
私は自問自答した。でもしばらくするとまた無意識につぶやいた「なんかつまんない」と。
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ところが次の週に会社からの通達が私の人生を変えてしまった。この出来事を聞いたといき、当初運命が私を「なんかつまんない」ようにしてくれたのかもしれない。
「残念ながら業績不振によりこの部署は来月までで閉鎖となった。みんなはそれぞれ別の部署に異動となる。また早期退職制度を設けることになったので、希望者は名乗り出るように」
突然の上司からの言葉、今まで頑張ってきたのに「え？どうしよう」と思った私であったが、ここで賭けに出た「（このままでは）なんかつまんない」という言葉に後押しされるように、私は早期退職制度を希望。退職金が上乗せされて退職した。
「起業をしてみたら？パソコンがあればネットで簡単にできるし。化けたらすごいよ」これはパートナーの言葉。私は当初、別の会社に就職しようと思っていたが、ここで「（再就職は）なんかつまんない」という気がしてきた。幸いにも私が働いていたのがいわゆるIT系企業だったから、パートナーの後押しとと心の中のつぶやきに乗ってしまい、パートナーの協力のもと起業した。
起業してすぐに成果が出るような甘いものではないが、私の前職の経験が生かせたこともあり、緩やかではあるが少しずつ仕事が増えてきた。もちろん収入は少ないけど、退職金を切り崩しながら頑張っていけている。パートナーからの支援もあって大助かり。
ところが半年後にさらに私に衝撃の出来事が起こった。
「なんで？どういうこと！」
「ご、ごめん、本当にごめん」パートナーは突然別れを切り出す。私は頭が白くなったが、このときにもなぜか「（この人では）なんかつまんない」という言葉が頭に浮かんだ。
こうしてパートナーは別に好きな人ができたと言って別れた。もちろん直後は辛くて、目から水が出てきたけど、数日たてばあっさりと気持ちが覚めた。しょせんその程度の相手だったのだろうか？
慰謝料というわけではないけど「お詫びに」と、私にまとまったお金を振り込んでくれていた。ちょっと退職金を使い切りかけていた私には、ある意味ラッキーなこと。
おかげで私はこのビジネスを継続できたの。そしてそれから2か月くらいからいよいよビジネスが成功に向かって動き出した。出費一方だったのに今度は収入がそれを上回ったわ。私は日々のビジネスに忙殺されながらも、今までにない充実な気持ちが心を満たした。
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そして4週間くらい前のことか、ついに私に再び素敵な相手が現れる。今回のパートナーは前回とは違う、何か不思議と引き寄せられ一緒にいると落ち着く。この人とこそ、本当に結婚する相手なのかもしれない。こうして私は充実の日々を送った。
「今考えると、あのつぶやきは私の心の中の叫び、ある種の予言だったのね。『なんかつまんない』か」
私は今、この言葉は無意識でもほぼ出ない。先ほど久しぶりに出た言葉。会社を退職して新しいビジネスを始めてからそんな余裕がなかっただけかもしれないが。でも久しぶりにつぶやいたことで、今の私の気持ちを改めてつぶやいた。
「なんかつまんない？まったくことない。楽しいよ」と。
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