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モノレールの行き先 第603話・9.17

「モノレールと普通の鉄道の違いを知っていますか?」「え、考えた事がない。イメージではわかるけど」俺は今どこにいるのか頭が混乱しながらモノレールの乗り場にいる駅員から質問された。

「そもそもなんでここにいるのだろう?」俺はここまでの出来事を頭の中で整理した。

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「どこでもいいや乗っちゃえ」最初に俺がモノレールを見たのは、仕事からの帰り道。「今日は散々な日だった」週末の午後、取引先でのやり取りを思い出すと気分が悪くなる。ある納品した製品でトラブルが発生した。
 その理由は俺の会社の製造工程であることは疑いようがない。だから担当営業として謝罪に行った。謝罪はするものの、先方の怒りは半端ではない。思わず体から震えが続くほどの状況。上司と一緒に謝りに行ったが、ここまで、こっ酷く怒られるようなことは想定外。
「切られずに済んだ。それだけでも良かったんだ。お前も大変だっただろう。週末だし、もう今日は帰っていいよ」
 力ない上司の言葉に励まされ、俺はそのまま帰社となる。そして3連休を前にしてどうしようか俺の頭の中で考えた。

「どこでもいいからちょっと遠くに行こう」俺は家に戻らずに、どこか旅をしたい気分になった。旅と言っても何日もかけてとか、そんなことは考えていない。遠くに行きすぎたら、無理に戻らず、たまにはビジネスホテルで気分転換もいいかなくらいの感覚だ。

 それで乗ったのがモノレール。会社から家の帰路の途中にある町を起点として続く路線がある。俺の通勤経路とは無関係だから今まで気にもしていなかった。だが今日は乗ったことがないから乗ってみることにしたのだ。

「終着駅は、郊外の住宅地か」
 俺は郊外の住宅地に行っても仕方がないと思いつつも、このときは何かに引き寄せられるように、終点までの切符を買って乗り込む。モノレールは電車のように途中で線路の継ぎ目に当たるガタゴト音がしない。モーター音だけが聞こえて、そのままスムーズに目的地に向かう。まだ午後4時台と言うこともあり、住宅地に帰るであろう通勤客の姿もまばら。代わりに高校生らしき制服姿の男女が目立った。

 俺は見慣れない風景を見ていて、無意識にはしゃいだ。高架のモノレールからは見下ろせるように風景が見える。やがてひとりひとりと、客が降りていく。そして終着駅の近くまで来ると俺の他に同じ車両に乗っているのは2,3人程度まで減っていた。
「あと、1.2時間遅れてたら多くの人が乗るんだろうなぁ」俺はそんなことを思いながら終着駅に到着した。その先に少し線路があるが、途中で切れているのが見える。

 俺は駅を降りた。降りたとしても行く当てがない。行く当てがないが、このまま戻りたくないと思った。だから歩いてみる。ここまでは最近延伸になったため駅は新しい。住宅はあるが、まだ半分以上は山を切り開いた区画だけ残っている状況。これからどんどん新しい家が建つのかもしれない。そんなことを思いながら俺は、山の見える方に向かった。
「あれ、いつの間に」俺は無意識に歩いていて、いつの間にか山の中の道に入っていることに気づく。「こんなことだったら着替えてくればよかった」 
 俺はそもそも山登りが好きで、大学時代に登山部にいた。だから山が好きだ。でも会社の取引先から直接来たのだからスーツに革靴。とても山を登る姿ではない。
 それでも元来の山好きが、自らの足をどんどん山の方に進んでしまう。両側に緑が覆う山の中。「2、3000メートル級の山じゃないから大丈夫だろう」俺はそう高をくくっていた。それに道はぼろぼろにはなっているが、一応アスファルトで舗装されている。つまり車が走ることができるのだ。

「うん、トンネルだな」おれは突然目の前にトンネルがあるのを見つけた。ずいぶん古びたトンネルのようで、明治、大正時代のものだろうか? 車一台は走れるようだが......。

「行ってみよう」俺は恐れずにトンネルに入った。やや夕暮れにはなっているがまだ明るい。「トンネルを進んで、その先も山道が続くようだったら引き返そう」俺はそう心に決めて歩く。ところがこのトンネル結構長い。10分近く歩いた。「もう少し歩いてみよう」俺はもう少し歩く。すると遠くに明かりが見えてきた。
「山の反対方向はどうなっているのだろう? 意外にも町中だったり」そんなことを考えながらトンネルの出口を目指す。天のような光がどんどん大きくなっていく。そしてトンネルの形がしているのが分かるようになる。その光はますます大きくなり、気がつけば俺よりもはるかに大きな穴。つまり出口はすぐ目の前だ。

「おお、これは!」トンネルから出た俺は驚いた。ここは崖の上のようになっているが、舗装された道路が下に向かって続いている。そしてさらに驚いたことに山も含め緑がほとんどない。砂漠のような荒野が続いているだけだ。続いているが、そこには都市が広がっているのが見える。
「え、どこだここ?」俺はスマホで位置を確認しようとした。だが圏外のためここがどこなのか見当がつかない。

「いいや、降りてみよう」どうせ行き当たりばったりの小さな旅。「スマホが無くても大丈夫だ。お金もあるクレカも持っている。いざとなればどうにでもなるさ」俺は本当に楽観的であった。だけど昼間の辛いことを思えば本当に逃げ出したくなったのかもしれない。坂を下りると町が広がっている。車の通行も多く、人の姿も多い。

「お、あれモノレール」俺はこの町を起点としているモノレールの役を発見した。「どこに向かっているのだろう」俺は駅に向かう。このとき俺はこの町に来てからの疑問。不思議な感覚があった。実はこの街の文字は日本語ではない。見たこともないような文字の羅列。「が、外国? 馬鹿な日本は島国だというのに」
 俺は頭が混乱した。駅についても路線図があるが、何を書いているのかわからない。切符売り場を探したがどこにあるのかわからなかった。
「この路線はフリー、無料ですよ」慌てている俺に話しかけてきたのは、駅員だ。それも日本語をしゃべっている。俺は疑問だらけのこの街のことを駅員に聞こうとした。だが、なぜか「どこに向かっているのですか」と聞いてしまう。

 駅員は口元を緩め「あなたはあの山の向こうから来たのですか?」と聞いてきた。それは確かに俺がトンネルを抜けた山。「あ、はい山の上のトンネルを抜けて」と俺は正直に答えると、駅員は「そうでしたか、ぜひこの先にも行ってみてください。新しい世界が広がっていますよ」とだけ答えた。そして階段を上り、乗り場まで案内してくれる。

「あ、あのうこの先には何があるのですか?」俺は駅員に疑問をぶつけた。すると駅員は「モノレールと普通の鉄道の違いを知っていますか?」と逆に質問をしてくる。俺はわからない。「さあ」と返事をすると「実は線路が1本なのがモノレールなんです。ほら1本だけ続いているでしょ」駅員が言うように鉄道の線路と比べて明らかに太いが一本のレールがずっと遠く地平線の彼方まで続いていた。
 俺が見ているとその彼方から点が向ってくる。それが大きくなるとモノレールだとわかった。「あ、さっきのと同じモノレールだ」
「今はここが終点ですが、将来山の向こうとも接続する計画もあるそうですね」と駅員。「え?」俺が驚いていると。「さあ、行ってらっしゃい。新しい世界のスタートですよ」という。俺は言われるまま到着し、ドアが開いたモノレールに乗り込んだ。中には誰もいない。

 ドアは自動的に閉まりモノレールは動き出す。しばらく建物が続くがやがて建物が途切れ、荒野になっている。モノレールはその先をずっと進んでいく。果たしてその行先には何があるのだろう。
 俺は不気味に感じながらもこの先どんな世界が待っているのか? むしろその方が気になった。


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シリーズ 日々掌編短編小説 603/1000

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