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このデザインが好き 第1083話・1.19

「皆さんの言うとおりだと思います」と言ってしまった。後で悔やんだ。もっと自分の意見を出すべきだったと。
と思ってももう遅い、チームの方向性は決まったのだ。これからはその方向性に向かって突き進むしかない。

「でも何でこんなデザインが...…」私は決定したデザインを見て、やはり首をかしげざるを得ない。チームのリーダーの発案で決まった新しいデザイン。リーダーは独創的な考えの持ち主で、これまで不可解な意見を提案することがあった。にもかかわらずリーダーでいられるのは人の面倒見が良いからだ。だがリーダーだけならもしかしたらひっくり返る可能性はある。リーダーは反対意見が出てもそれを封殺するようなことはしない。そのあたりもリーダーとして誰からも納得いくのだが...…。

「リーダーはともかく、あの人までが何で...…」私が言った「あの人」とは、チームの中でムードメーカー的な人だ。リーダーほどの人望はないが、ある意味熱狂的な支持者が多い、支持者というより、もはや信者かもしれないが、そのくらい熱狂的に「あの人」に身も心も委ねているメンバーがいるのは確かだ。その人の意見で大勢が決まることがあり、リーダーもその人が認めれば折れることもしばしば。それでも「あの人」がリーダーにならないのは、自らが表に出るよりも陰で実権を握るのが好きなタイプだからだろう。

 私はリーダーとも「あの人」とも基本的には友好的だ。リーダーの統率力ももちろん好きだし、「あの人」とは通常の事であれば理解できる間柄である。だが今回は違う。なぜ「あの人」が、リーダーの提案したこんなデザインを支持したのだろう。
「あのふたりの意見が一致した時点で9分9厘決まったものだからね」私は小さくため息をついた。

 こうしてリーダーとあの人が決めたデザインはチームとして動いていく。これに抵抗したものならば私はチームから排除されるだろう。「たったひとつのデザインのためにチームから出ていくというのは」と私は思っている。今回が初めてチームの意思決定に異を感じたのであって、普段は非常にいい感じのチームで、私が受け入れられるものばかりなのだ。こんなことでチームから外れるのは本意ではない。

「でもこのままでは納得できないわ。あのデザインは嫌い!」私はまだ納得できないでいた。私はデザインとかそういうものにはこだわりがある。私は今までいろんなデザインを創作したりして活用してきたという自負があった。

「絶対にこっちの方が良いのに」私には好きなデザインがある。このデザインは、残念ながらチームには受け入れ、というよりも提案すらしていなかったが、今さら言っても仕方がない。でもこの好きなデザインをどうにかして活かしたいのだ。
「何かないかな」私はチームでは無理だとしても個人でこの好きなデザインを生かせないか考えた。個人であればリーダーにも「あの人」にも気を使う必要が無い。チームにも迷惑をかけないからチーム内にとどまれるであろう。

「どこで生かそうか」私は色々な場面でデザインを生かせないか模索した、ただ模索したのではない。チームが決めたデザインと競合しないかだ。「もしチームのデザインと競合することがあったら...…」
 私はそれを想像しただけで怖かった。誰かが見つければすぐにチーム内に共有されるだろう。リーダーからは「なぜこんなことを!」と叱責してくるに違いない。それに今回はリーダーだけではなく「あの人」も絡んでいる。リーダー以上に、反対したときに「あの人」がどんな手段を出してくれるのかわからない。わかっているのは一度「あの人」に対抗したチームメンバーが一夜にして意見を変えたこと。だがそれでは終わらず、その次の日からチームとの音信が途絶え、一週間後にはチームから正式に離脱した。以降その人がどうなっているのかわからない。知らない方が良いこともある。

「お、これ、これなら」私はついにひとつの活用方法を見つけた。今までの経験上、ここであれば、チームにばれることは無い。なぜならばこの場所はチームの方向性とは真逆的だ。リーダーも「あの人」もそれから「あの人」の信者である取り巻きたちも、まずここには興味を示さないはずだ。

「よし、やってみよう」私は決めた。万一という言葉があり、私の想定外のことがあって、ひょっとしたらチームの誰かにわかるかもしれない。だけどそんなリスクを冒してでも、私はこのデザインが好き、好きなのだ。

 こうして私は自分の好きなデザインを、チームとは全く無縁の世界で活用することができた。「もし、チームにばれたら」私はそのことを頭によぎる。
「だとしたらこれも運命ね」私はそう考え最悪の事象に対してもあっさりと受け入れた。こうして私は自分の意思に従い、私の好きなこのデザインを活用したのだ。


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