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睨む・睨まれる 第692話・12.15

「さっきから何よ!私の顔に何かついているの?」突然私を睨む存在がいる。この現象は先ほどからだ。どうも不思議に視線を感じていたから、そっちの方を見たらやっぱり睨んでいる。瞬きもせずにそいつはただ私を睨んでいた。「いい加減にしてよ、もう!」私は睨む相手に怒りの声をぶつける。だが相手は全くひるまない。ただ私を睨み続けている。

 私は声でひるまないと思ったから、近くに何かないか探した。物を投げればそいつはひるむに違いない。そしたら睨まなくなる。運よく逃げてくれたらこっちの思惑通り。だが困った。こういうときに限って、相手が睨むのをためらわせるような物がない。「どうしようかなあ」それは当然だろう。私の人生の中で突然睨むやつが現れて、そいつを威嚇しようが反応せず、ただ静かに睨み続けるなんてそんな経験がない。

「睨むな、おらあぁぁ!」私はありったけの大声を相手にぶつける。そして物を投げるふりをした。実際には何も投げていない。私はこの威嚇なら反応すると思った。だがそうではない。相手は全く動じないのだ。
「こうなったら徹底的に無視ね」私は威嚇をあきらめると、反対方向を見て相手の視線を避けた。そのあとはスマホで遊び始める。遊ぶ方に集中したのが幸いしたのか、いつの間にか相手の睨む視線が気にならなくなった。

 30分いや1時間は経過したはずだ。私は油断していたの。思わずさっき睨む存在がいる方に顔を向けた。「あ!」私は全身に鳥肌が立ち、驚きの大声を上げる。そいつはまだいるではないか! それもさっきと全く同じ姿勢てずっと私を睨むの。「キャー」私はついに悲鳴を上げた。「消えろ!睨むな」私はそばに何かないか探す。ちょうど目の前にみかんがあった。「食べようと思ったけど仕方がないわ」私はみかんをそいつに投げる。みかんはそいつの額を直撃した。「やった!」私は喜んだのもつかの間、そいつは全く反応しない。
「みかんを投げても無反応。ふつう多少は動くはず。もしかしてこれって生きていない。人形なの?」

 このとき私はやつは生き物ではない気がした。しかし確かめようにも睨んでいる相手を、たとえ一瞬でも触ることは抵抗がある。
「もしかしたら触った瞬間に反応して」そんなことも考えたわ。こういうときに誰かいたらいいのだけど。あいにく今はひとり。
「そうだ」私はあることを思いついた。それはスマホ。これにはふたつの目的がある。ひとつは睨む相手の撮影して、友達に画像を送ってコメントをもらおうと思った。「ひとりくらいこいつが何者で、何の目的で私を睨み続けているのか理由が分かるかも」そしてもうひとつ。私は普段使用しないフラッシュをオンにした。そうフラッシュの光に、相手がひるむか試したくなったのだ。

 相変わらず相手は無反応で睨み続けている。私はスマホのカメラを相手に合わせるとそのままシャッターを押す。一瞬強力なフラッシュの青白い光が部屋全体を明るくした。だが相手はフラッシュの光にすら全く反応しない。「やっぱり生きていない。これにビクともしないなんて」私は撮影し終わった相手を画像。もちろんそれも私を睨んでいるが、それを友達に「こいつどう思う、ずっと私を睨むの」とメッセージをつけて一斉に送った。

 10分、20分が経過した。私の問いに誰ひとりとして反応しない。「ウソ、ちょっと、なんで!」私は大声を出した。相変わらず相手は睨んだまま。「クソッ!」私は相手をもう一度スマホで撮った。今度はフラッシュ無しである。「フラッシュが邪魔して、わかりにくかったかも。よし」私は同じメッセージで画像だけ変えて送ってみた。「いい加減反応あるわね」
 でも反応はない。「な、なんで。え。マジ、私嫌われているの?」私は自分自身が実は非常にまずい状況になっている気がした。相手はまだ睨んでいる。私は睨まれていることより、友達らの冷談な態度をされたことのダメージが大きくなった。

「もしかしたら、睨んでるこいつの方が、私を気にしているだけましかもね」私はおかしな感情を相手に持ってしまっていた。どんどんにらむ相手に愛おしさすら感じ始めている。私は睨むが反応のない相手を見つめた。いやむしろ睨んでいたのかもしれない。私は相手の目に焦点を合わせて力強く視線を送った。すると相手が一瞬反応した気がする。
「え、反応した」私はうれしくなったからさらに強く睨んでみた。すると相手の表情がどんどん恐怖に満ちたようになっている。そして突然後ろを向いて逃げだした。
「ちょっと。何で?逃げないでよ」私は今まで睨んでいた相手が睨まなくなり立ち去ろうとしているのを見て急に寂しくなった。
「逃げないで、もっと私を睨んで!」だが相手はそのまま部屋の窓から立ち去っていく。「あああ!」私は後悔した。睨まなければよかったと。

「あれ?」私はその次の瞬間不思議なことが起きた気がした。「なんで? 時間が戻ってる?」理由はわからない。時計を見る限り、少なくとも私は数時間過去に戻っていた。
「ということは、私があの視線を感じるまであと1時間か」このとき私はふと思った。もし1時間後に再びあの睨む相手が現れたらもっと優しく接してやろう。そして決して睨み返したりはしないと。

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シリーズ 日々掌編短編小説 692/1000

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