見出し画像

雲の正体 第808話・4.11

「今日は天気が良いな」自分は青空を眺めている。やがて遠くにソフトクリームのような、白い雲が浮かんできた。「もう雰囲気は夏だなぁ」と、つぶやいた。心地よいそよかぜが顔を伝う。自分は雲をしばらく眺めていた。少しずつ大きく広がる雲。でもはるか遠くにある。
 
 自分は深呼吸をしてこのゆったりとした時間を過ごそうとしたが、どうも様子が変だ。
 人がどんどん向こうからこっちに慌ただしく向かって来た。みんな表情が険しく、まるで何かに追われているようだ。

「そうか、今日は月曜日だもんな。みんな週明けは気が重いしな。その点、自分はシフト勤務でこの土日が仕事だったから、月曜日は休み。焦る必要もなし」
 と思っていたのもつかの間、大声で自分を呼ぶ人がいて「き、君、あれが見えないのか、早く逃げろ」と声をかけてくる。自分は何のことかわからないから呆然としていると「早く、あの雲が発生したんだ!逃げろ!!」それだけいうとその人は自分に行っても無駄とばかりに走り去った。

「雲が発生した?それがどうしたというんだ」自分は、もう一度雲を見た。「お、さっきより大きくなっている。あの雲には何があるんだろう」
 自分はスマホを取り出して「雲 発生」で調べてみた。その時自分は、ようやくなぜみんな雲から避けるように、逃げているのか理由がわかった。

 3日前から世界中で起きている雲現象とある。それは3日前に初めて確認された。単なる雲だと思っていたらそれが半径数十キロの町を覆った。しばらくして雲は消えたが、その時そこにあったはずの街が消滅したという。直前までその街にいた人と、連絡をやり取りしていた人の話では、突然雑音のようなノイズが入ったとかで、それ以降は音信不通。

 原因がわからないが、その時以来、世界各地で同様の事が十数件起こっている。
「知らなかった!」自分はそんなにネットから離れていたわけでもなかったのに、全く知らないことに愕然とした。もう一度空を見る。
「ああああ!」この時自分は初めて、恐怖を感じた。先ほどから三倍に広がった雲が、確かにこちらに向かって広がっていることがわかったからだ。
「あれに飲まれたら消滅するの?やばい!」ようやく自分は事の重大さに気づいて走り出す。自分は訳も分からず走っていたが、改めてこの現象について詳しく人に聞こうとも、すでに周りには人がいない。

 見るとパトカーのようなものが走っていた。それも逃げるように遠くに去っている。「え、自分だけ取り残されたの?」後ろを振り返るが、誰もいない。それ以上に雲がいよいよ大きく見え、青空がほとんど見えない。
「や、やばい、相当近いづいているぞ!」自分は必死に走る。走るが徐々に雲が迫っていて、雲のものと思われる影が見えだした。
 前方には誰もいない。「ハァ、ハァ、だ、ダメ、もう走れない」息を切らしながら前に進む速度が遅くなる。「どこかの建物に逃げようか?」と考えた。目の前にビルはある。でも建物に逃げても、雲に覆われれば建物ごと消滅しているのだ。とにかく雲から離れるしかない。

 自分はもう一度気合を入れて走る。だが雲がいよいよ目の前に近づいた。もう巨大な化け物のような白い塊がこちらに向かっている。街には誰もいないゴーストタウン。このままでは後1分くらいで。この雲の下に覆われ自分は消滅するようだ。自分はもう絶望するしかない。足が痛い。ここで走るのをあきらめた。自分は息を切らせながら歩く。

「お、先日の君じゃないか?早くこちらに!」ここで自分を呼ぶ声がする。見ると1台の車があり、その運転席に乗っている白髭の男性だ。
「ハア、ハア、あ、え、ぼ、僕ですか?」「急げ、もう来ているぞ!話はあとだ!!」男性にせかされるように、自分は慌てて車の後部ドアを開け、そのまま座席に転がり込む。訳もわからず走っていて限界になっていた自分にとっては、まさかのラッキーなこと。座席に座れる。それだけでもうしれかった。

「行くぞ!」運転席にいる男性は掛け声ひとつエンジンをかける。すると、爆音のような音がしたかと思うと、車とは思えない超高速で走り出した。走っただけではない。その車は宙に浮き、あっという間にビルを真下に眺める。まるで飛行機のように飛んでいるのだ。

「ふう、ギリギリ間にあったようじゃ。まさか君があそこにいるとはな」
 男性はようやく落ち着きを見せる。外を見ると高度はすでに1000メートルを超えていてさらに上昇。すでにいくつかの通常の雲の高さを越えている。後ろを見るとあの巨大な雲の白い塊が見える。こちらも高度1000メートル地点が最も高いのか、すでに眼下に見下ろしていた。だが雲の速度は速いのか?この車の下はすでに真っ白になっていた。
「今から大気圏を出るぞ、揺れるが気にするな」「た、大気圏?」
 自分は頭が混乱した。こんな乗用車が飛行機のように高度数千メートルを超えた上空を飛んでいること自体がありえない。それどころか大気圏を越えるとか言い出した。「いったいどういう事なのか?」自分の頭が混乱する。

「この雲は、ワシの見立て通り3日前から発生した。世の中のものを消滅させる恐ろしい雲。さらにすべての予測が正しい。今日まで世界中で発生し、案の定世の中がパニックになった」
「パニック...…」自分は訳が分からない。今日先ほどまで雲を眺めているまでそんなことも知らなかった。また世界がパニックになっていることもだ。

「あ、あのう、あなたは?」自分は運転している男性がこの現状に相当詳しいと思い、どういう事か聞いてみることにした。
「おお、忘れていたかのう。4日前に君とあっただろう」「4日前...…」自分は過去の記憶を思い出す。
「あ!」思い出した。4日前に路上で歩いている人に、世界の終わりを延々と伝えていた人にそっくりだということを。
「あと4日で世界が終わる。明日からが恐怖の始まりだ。一刻も早く世界中にあるロケットを使って宇宙に脱出しなければならない」と拡声器で訴えていた男性。
 ほとんどすべての人は「変な人」とでも言わんばかりの表情で、その人を軽蔑のまなざしで通り過ぎていた。

 自分もこの人の言っていることを信じていなかったが、そのとき暇だったし、誰も相手していないのを見ると、何となく「可哀そう」と思い、話を聞いてあげた。その後チラシをもらったが、そのままポケットに閉まっていて忘れていたのだ。

「この白い雲は、この世の終わりを告げる雲。星の地下のコア付近から湧き出ているもので、この世のあらゆるものを消滅させる役目を持っている。つまりいったんすべてをリセットさせようというのだ」
「よ、世の中のリセット...…」自分はいまだ信じられないが、運転している男性は、確信したかのように大きくうなずく。

「ワシは1年前からこの日に起きることが、長年の研究でわかった。だから多くの人にこのことを告げたが、誰も信じてもらえない。唯一君だけが話を聞いてくれた。だからいよいよその時が来たので、ワシは脱出用の車で逃げていた時に君を見つけたんだ。正直君だけは助けたいと思ったんでな」
「あ、ありがとうございます」自分は男性に礼を言う。実際のところ自分も全く信じていなくて、哀れさと暇というだけで話を聞いていたのに、なんと運がいいことだろう。

 車の形をしたロケット?宇宙船??は高度数万メートルを超えていて、すでに成層圏まで上昇したようだ。
「見た前、星の様子を」男性に言われ自分はもう一度外を見た。すると成層圏により青い星の輪郭が見えるが、その半分以上が白くなっている。
「あの白い部分に入ればすべてが消滅する。3日前から昨日までは断片的に起こっては消えた雲だが、今日が本番のようなもの。おそらく後1時間もすればあの白い雲が全世界を覆いつくし、世界は消滅する」
 男性は突飛もないことをいうので、自分は強力な寒気と鳥肌が最高潮に立ち上がった。

「では、自分たちはこの後どうするのですか?」自分は少し冷静さが戻ったのか質問をしてみる。
 運転している男性はしばらく黙ったまま。数秒後に唸りながら答えた。「それは、わからない。まずこの雲が消えるかどうかだ?消えればもう一度地上に降りてみよう。ただそこに降りて問題ないかどうかだな。問題なければ消滅した世界で生きるしかないかもしれん。もしくは宇宙空間に出て、住めそうな星を探すかだ。

「星を探す...…」途方もないことを言われた自分は、急に体の力が抜ける。「まさか、自分たちふたりだけ生き残ったのですか?」

「いや、少なくともワシの予言に共感したものがいる。今頃同じような小型宇宙船で宇宙に向けて飛んだものは世界中に100人以上はいる筈。
 今朝までネットで連絡を取り合っていた仲間だ。彼らと合流すれば、小さな村はできるかもな」
 という男性。自分はそのあと、次の言葉が全く浮かばなかったことは言うまでもない。





https://www.amazon.co.jp/s?i=digital-text&rh=p_27%3A%E6%97%85%E9%87%8E%E3%81%9D%E3%82%88%E3%81%8B%E3%81%9C

------------------
シリーズ 日々掌編短編小説 808/1000

#小説
#掌編
#短編
#短編小説
#掌編小説
#ショートショート
#スキしてみて
#雲
#世の終わり
#宇宙SF

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?