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私の推しキャラ 第1171話・6.2

「よかったなあ」俺は同僚とふたり無事に出張が終わった。もう夕方だし今から自分たちのオフィスに戻る必要もなく直帰だ。
「どこかで飲んで帰ろうか」どちらかが言うまでもなく話がまとまる。いつものオフィスとは違うところ、出張先の近く駅前で軽く飲む事になった。

 駅前にある大衆的なお店、俺や同僚と同じスーツ族が楽しそうに飲んでいる。すぐに俺たちもそのメンバーに加わるのだ。
 こうして生ビールで乾杯の後、最初は出張でのあれこれを話をする。とりあえず今回の出張は、ある意味大変な内容だったが、無事にクリアした。次の日が休みだからより気分的に気軽なのだ。

 こうしてビールを口に含む。どうも仕事から解放されたこともあり、いつもよりも酔いの周りが早い。いつしかプライベートというか仕事とは無縁の話で盛り上がり始めた。
「ところで」同僚が何か質問をしてくる。「う、うん」ちょうど俺は口に食べ物を入れた直後だったので、返事が戸惑った。それでもビールを流し込み、ジョッキを空にしたところでお代わりを注文する。店員が来たら同時に同僚も追加を注文した。この一連の流れが終わってから、ようやく俺が同僚の質問に答えられる環境となる。

「で、何だ?」ようやく俺が質問に答える体制になった。「う、あ、ああ」今度は同僚が口に何かを入れたようだ。そのまま残っていたビールを飲んで食べ物事流し込む。つまり俺が追加を注文したタイミングで相手も追加したからこうなっただけに過ぎない。

 ようやく同僚も口の中が落ち着き語りだす。「大したことじゃないんだが、例えばさ、推しキャラっている?」
「オシキャラ?」俺は同僚がいったい何を言っているのか、一瞬わからない。「キャラクターだよ。世の中にいろんなキャラクターがいるじゃないか。その中で推しとかいるのかなと思って」

 俺は、同僚が言おうとしていることを理解する。だが「推しキャラ」といきなり言われても、困った。そもそも俺はキャラとかそういうものにあまり興味がないからだ。

「キャラクターかあ」俺は思わず腕を組んで考え込む。キャラクターと言ってもアニメなのかドラマなのか、ゲームなのかによって変わるだろう。例えばゲームにしてもドラマにしても映画にしてもそうだが、時代物を扱えば、歴史上の人物が推しキャラになるかもしれないと思った。
「それは架空でなくてもよいのか、実在する人物とか」同僚はすかさず頷く。「そんな、かたぐるしく考えなくてもいいんだけど...…」どうやら同僚は俺が真剣に、考えだしたので逆に戸惑っているようだ。

 なおも俺が視線を斜め上に向けながら考えていると、「い、いいよ。話題変えよう」と、同僚が言ってくる。ちょうど追加のビールが来たタイミングだったので、そのままもう一度乾杯するとまったく別の話題に変わった。

ーーーーーー
「じゃあ来週」「お疲れさん」こうして同僚と別れた帰り道。俺は酔いながら頭の中では、同僚が質問してきた「推しキャラ」について気になっていた。「推したくなるキャラクターかあ」俺は帰り道そのことで頭がいっぱいになりながら帰路に就く。

 電車に乗っている間もそのことで頭がいっぱいだ。「キャラクターなんかなんでも」そう思いながら、自分にとって推しキャラとは何かを考えた。だが考えれば考えるほど深みにはまってしまう。
「わからないな。実在の人物でも架空の人物でもよさそうだが、こう改めて推しキャラと言われてもなあ」結局俺は推しキャラが見つからないまま最寄り駅を降りた。

「うーん、モヤモヤする」俺は推しキャラが見つからないことに、気持ちがイラついている。「気晴らしに立ち寄るか」俺の駅から自宅までの徒歩圏内には24時間営業しているスーパーがあった。この時間はもう深夜に近いからちょうど弁当などの総菜などは、割引になっているはずだ。
「明日朝食べるものでも買って帰るか」そう言ってスーパーの中に入る。そして総菜売り場を目指したが、そのときだ、途中にある野菜売り場であるものが俺の視線に入り込むと思わず立ち止まった。

「これは...…」俺は販売しているある野菜のパッケージに描かれたキャラクターが気になる。ただ野菜に顔が書かれていて笑顔をしているだけだが、俺はそれを見れば見るほど気になるのだ。
「気になるな」俺は衝動的にそのキャラクターが描かれた野菜をスーパーのかごに入れた。

「やっぱり気になる。なんと不思議なものだ」こうして自宅に帰った俺は改めてそのパッケージのキャラを見た。改めて見ても気になる。不思議な気持ちだ。
「そうか、これだな」俺はようやくこの目の前の野菜のキャラクターこそが、自分の推しキャラであることに気づいた。

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