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雑文

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のらりくらり。
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#短編

出逢いは珈琲色

出逢いは珈琲色

珈琲色の本の街 神保町。

なんて、感動的に、擽ったい見出しだろう。
アールグレイ・ショコラを飲み、喫茶店に置かれたその本を手に取る。
宇宙一居心地のいい高円寺の読書館にいながら、僕は、彼女と出逢ったあの日を思い出す。

今日神保町行ってき、「て」と彼女が言い終わらないうちに、カレー好きな僕は、ああ神保町ってカレーが美味しいよね、なんてトンチンカンな言葉を返した。
彼女

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貴女からの贈り物

貴女からの贈り物

よく実った良質のコーヒー豆を二年以上自然乾燥させ、熟成させたオリジナルのブレンドコーヒーを使用しております、と、和紙に似た質感の、茶色い紙に書かれている。トラファルガー色に一滴、ベージュを垂らしたような、落ち着いた茶色だ。つまり、死を告げるような冬の落ち葉色よりは、ずっと明るく穏やかだ。

その上質さ満点の説明文をひっくり返すと、そちらの面は伝票になっていた。カレーセット、コーヒーは食後、トータル

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運命共同体

運命共同体

どうしていつもチタンをつけてるの、と人が私の首元を見て問うのはきっと極めて自然なことであるだろうと言い切れるほど、私は毎日服を身に纏って大学に行くのと同様にチタンを首につけて生活している。既婚者が眠るときさえも指輪を外さないのと同じかあるいはそれ以上の運命で、説明するまでもなく縛られているものなのだ。
躊躇いなく私だけがそう言えることを私は誇りに思っているし、そう思うしか、頭に埋め込まれたチ

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ぼくは飛んでゆく

ぼくは飛んでゆく

ぼくは、彼女の兄と同じ日に生まれた。春はまだ遠い、寒い日だった。

生まれた頃、足取りはおぼつかず、目をきちんと開けて彼女を見ることもできなかった。彼女はぼくをそっと抱き上げて、つんつん尖った毛を撫でた。

彼女はいい匂いだ。ミルク味の煙草を吸っているに違いない。彼女のセーターの中に潜り込みたくなるんだ。彼女の柔らかな指先は、ぼくの毛を飛び越えて、ぼくの器官まで愛撫する。思わず声が漏れると、彼女は

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チーズケーキうまいわ〜っておはなし。

チーズケーキうまいわ〜っておはなし。

今日だか明日が冬至の日であり大学前の神社が一年で一番人でごった返していることなど、一人暮らしでテレビもなく、連日のバイトで睡眠時間が少ないためお気に入りの腕時計を忘れたまま慌てて大学へ出向く羽目になった私には、勿論知る由がなかった。
大学の最寄駅を出るとその非日常に気づいた。いつもはいない警備員が、各国首脳が揃うサミットでも開催するのかというほど異常に多かった。神社では何の御呪いが成されるのか皆目

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