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長編

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複数編の怪談です。一編の長さは中編と同等か若干長いです。
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2023年7月の記事一覧

異形の匣庭 第二部⑧-1【勉強会】

異形の匣庭 第二部⑧-1【勉強会】

 どんよりとした気持ちで向かった縁側で、祖母がお茶を飲みながら待っていた。隣に座るよう促され、のどかそのものの縁側に腰掛ける。お礼を言って差し出されたお茶を飲みながら、島根特産らしいお菓子に手を伸ばした。出雲三昧という名前らしく、粒入りの羊羹を落雁と求肥で挟んであり、見た目からしても美味しい。一口かじると、滑らかで柔らかい感触の中から、甘すぎず小豆の濃密で優しい味わいが口いっぱいに広がった。
「セ

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異形の匣庭 第二部⑦【それぞれの事情】

異形の匣庭 第二部⑦【それぞれの事情】

 翌朝、例のハグで強制的に目覚めさせられた僕は、鳴海と共に朝ご飯前の掃除を任されていた。
「昨日の手伝うって言ったでしょ、お婆ちゃんに手伝いますって言いに行って今すぐ」
と強制的に参加させられた。一晩泊めて貰ったからそれくらいはと快く手伝うつもりだったのに。
「普通自分から手伝うって言わない? 昨日も思ったけどさ、そういう気遣いとか感謝って気持ちが足りないんじゃない? うんーとかいやーとか適当な事

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異形の匣庭 第二部⑥【理由】

異形の匣庭 第二部⑥【理由】

「ようこそおいで下さいました。大したおもてなしは出来ませんが、心行くまでおくつろぎ下さい」
 彼女がタイミングよく現れたのは僕が叫び声をあげた後、恐らく襖の裏で待機していたからだと容易に想像が付いたけれど、彼に向かって礼儀正しく深々と頭を下げて挨拶したのには驚きを隠せなかった。あの粗暴な彼女が恭しい態度を取れるなんて──顔に出ていたのか後ほど脇をどつかれたが──思わなかった。
 でもその態度から、

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異形の匣庭 第二部⑤【説教と変容】

異形の匣庭 第二部⑤【説教と変容】

「痛ててて……」
 離れに通されて荷物と腰を下ろす。ため息を吐くだけで全身が痛い。どれもこれもあの子のせいなんだけど、明日は間違いなく筋肉痛に悩まされそうだ。
 聞けばちゃんとした山道があって、更にそっちの方が時間も掛からないとくればなんかもう……言葉も出なかった。一周回って怒る気にもならず、挨拶もそこそこに一先ずはお風呂に入って着替えるようにと言われ、現在に至る。道中着ていた服は見るも無残な姿に

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校舎内の禁足地  十二【了】

校舎内の禁足地 十二【了】

 コンクリートに固められた木箱は想像していたよりもずっと小さく、大人は勿論、低学年の子供でないと入らない様なサイズだった。傷を付けない様慎重に周りのコンクリートを砕き、三人がかりで床から運び出す。
コトッ
と軽い音がするくらい箱には重みが無く、これに本当に人が入っているとは誰も信じられなかった。
 まじないなのか、無地の白い紙が一面に貼られ、漢字と模様の書かれた札が蓋の上下左右を閉める様に貼られて

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校舎内の禁足地 十一

校舎内の禁足地 十一

 翌日、長住さんから頂いた住所を元に、数本の電車を乗り継いで最寄りの駅へと到着した。長住さんは既に改札で私の事を待っており、白一色の衣装に身を包んでいた。軽い挨拶を交わして今日一日の流れを聞くと、早速件の場所へと出発した。話に聞いていた通り街並みは至って普通であり、まさかここで何人もの子供が失踪し、凄惨な死を遂げた人が複数いるとは考えられない程だった。ただ、以前よりは高層マンションも増え、この街か

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異形の匣庭 第二部③【看板の無い雑貨屋】

異形の匣庭 第二部③【看板の無い雑貨屋】

「こっち着いて来て、質問は無しだから」
 言われた通り彼女の後を着いていくが、どんどん山から離れていく。大鳥居を抜けて神門通りを100M程南に下り、十字路を左に、そこからまた右の小道に入り三叉路を右に。何度か路地を曲がって僕が道を覚えられなくなった辺りで、一軒の雑貨屋らしき場所に行き着いた。看板は無いが、軒先までこれでもかと言わんばかりに物が溢れ返り、思い出したかの様に「この辺300円」とか「時価

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