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母への讃歌

小さい頃
母は、私を
褒めてくれませんでした。

そのことが
どうしようもなく
悲しくて、
寂しくて、
母を許せなかった時期が
長く続きました。

でも、
その気持ちは、
ずいぶん前に
なくなりました。

あの日のことを
母にあやまろう…。

私は、
ようやく決意して、
実家へ向かいました。



何気ない会話から
母が、突然
こんなことを言いました。

「いつ死ぬか分からないし、
もうわがままに生きようって
決めたの…」

母には、
残りの人生、
自分を大切に生きて欲しい…

そう思っていた
私にとって
思いも寄らない
嬉しい言葉でした。

と同時に、
『いつ死ぬか分からないし…』
という言葉が
やけに現実味を帯びて聞こえ、

「やだ、そんなこと、
言わないでよ…」

精一杯
明るく振る舞おうとしましたが、
すーっと涙がこぼれました。

母は、10年ほど前に
母の苦労をよく知る姪から、
こんな手紙をもらったのだそう。

『今までたくさん苦労したから
これからは、わがままに生きてね』

「でも、
10年前は出来なかった…」

母は言いました。
その頃はまだ
祖母も健在で、
嫁である自分が
わがままに生きるなんて、
考えられなかった…と。

でも、今は、違う。

私の人生、
最後は私が思うように生きたい。

母は力強く言いました。

約50年の苦労を経て
ようやく
自分の人生を生きると
決めた母。

そんな母に
私は意を決して
言いました。

「お母さんに
ずっと
あやまりたいことがあったの…」

そう言った途端に
涙が溢れてきました。

私は、
嫁ぐ前の
あの日のことを
話しました。

「最後の最後に
傷付けるようなことを言って…
ごめんね…」と。

そしたら、
母は、
涙ぐんで言いました。

「そんなこと…
全然気にしてないからね…」と。


あの時も今も
母は変わらずに
私を愛していた…。

私たちは
ずっと、
愛でつながっていた…

ありがとうを言うはずが…
言葉になりませんでした。



母は、
既に70歳を越えています。

体調も決して
万全とは言えません。

自分の人生を
生きるには
あまりにも
遅すぎるスタートでした。

だからこそ、
『いつ死ぬか分からないし…』 
その言葉が、
怖いほど真実味を帯びて
聞こえました。

ふいに、

こうして
当たり前に
会話を交わしている
今が
かけがえのない時間に
思えてきました。

母との時間を、
大切にしていこう…

そう思ったら、
過去が
そして今が
全てが
愛おしく思えてきました。

全てが浄化され

私は、
ただただ
幸せの中にいました…


お母さん、ありがとう

私の心の中は
母への感謝の気持ちで
溢れていました。

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