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思いは人を動かす…あの日一瞬で目の前の現実が変わった。

息子の小学校入学と同時に
小学校の読み聞かせ会に入会し、
今年で8年目になります。

年間を通しての
絵本の読み聞かせの他に
年に1回
秋に開催される
読書まつりという学校行事で、
毎年、劇風の大掛かりな
作品を披露しています。

2学期になると
読書まつりに向けて
本格的な準備が
始まります。

私が入会するまでは
BGMにCDを
使用していたようでしたが
ひょんなことから
ピアノ弾ける?
ということになり
1年目から5年程、
私はピアノで
生演奏をしました。

有難いことに
選曲から演奏まで全て、
自由にさせてもらえたので
自分のレベルに合わせたり、
自分好みの曲を選んだり
することが出来ました。

BGM担当になって初めて
自分が、
作品に音楽を付け
世界観を作る作業が
好きなのだと知りました。

また、
作品の世界に
どっぷり浸ることも好きで、
家で練習しながら
よく一人で泣いていました。


読書まつりが近くなると
実際にステージで
練習やリハーサルをします。

このステージ練習が
私にとっては要。

この時初めて
自分の準備した曲を
作品に合わせて弾きます。

ステージ上の動きや
ナレーションに合わせて
曲の長さも調整します。

それでも、
本番は
その通りにいかないことが
ほとんどなので
その辺も想定しておきます。

練習の回数が
限られているため
万全な状態で
本番を迎えるということは
ほとんどありません。

しかも、
700人前後の子どもたちの前での
発表ということもあって、
かなり緊張もします。

音を外してしまったり
イメージ通り弾けなかったりと
毎回反省点を上げれば
切りが無いのですが、
それでも、
700人の前での演奏は
言葉に出来ない感動で、
最終的には
色々あったけれど
やれるだけのことはやったと
いつも自分を褒めてきました。


入会して3年目のこと。

その年は
メンバーそれぞれが忙しく
全員揃っての練習が
出来ませんでした。

最後のリハーサルも
動きの確認で精一杯。
音合わせどころでは
ありませんでした。

たくさんの課題が
山積みのまま
最後の練習を終えました。

本当に大丈夫かな…。
今回ばかりは
どうにかなるとは
思えませんでした。

本番が近づくにつれ
不安はどんどん
大きくなり、
本番前日、
あろうことか
ピアノが弾けなくなって
しまいました。

昨日まで動いていた指が
もつれる。
ひっかかる。
止まる。
楽譜を見ても、
頭が真っ白になる。

「どうしよう…
弾けなくなった…」

私は
真っ青になり、
何度も同じ所を
繰り返し練習しました。

「お母さん、大丈夫?」
息子が心配して
話しかけてきました。

「どうしよう。
弾けなくなっちゃった…」
息子の前で、
不安な気持ちを
露わにし、
必死で練習を続けましたが
その夜は、
一向に弾けないままでした。


本番当日。

朝の登校の見守りを終えた私は
急いで家に戻りました。

集合時間まで
あと30分ほど
時間がありました。
これが最後の練習…
祈るような気持ちで
ピアノに向かいました。

と、
鍵盤の真ん中辺りに
小さな黄色の紙が
置いてありました。

その紙を手に取った私は
ピアノの前で
泣き崩れました。 


ちょうどこの頃、
息子のブームは
お守り作りでした。

私たちはよく

主人「お金がたまるお守りください」

私「幸せになれるお守りください」

などと、
息子にお守りを注文し
息子が作ってくれたお守りを
財布や手帳に入れて
大事に持ち歩いていました。

ピアノの上に置かれた
黄色い紙には、

『ピアノをぜったいに
 まちがえないお守り』

と書かれていました。

そう、それは、
息子から私への
贈り物だったのです。

ここ数日
ピアノのことで
頭がいっぱいだった私を
息子はずっと、
心配していたのでしょう。
何とかして
励ましたい
力になりたい
そう思ったに違いありません。

お守りの裏には
こんなメッセージが
書かれていました。

お母さんがいつも
いっしょうけんめい
ピアノを練習していて
すごいなあと思って見ていました。
○○○○(ボランティアグループの名前)
の演技は表現力がすごいです。
今日の読書まつりも、
楽しみに
いやとっても楽しみに
しています。


そのお守りを手にした私は

もう、大丈夫。
このお守りがあれば
絶対にうまくいく。

そう思いました。


そして迎えた本番。

私は、楽譜の脇に
そのお守りを置きました。

大きく深呼吸をして
鍵盤に指を置きました。

まるで
そばで息子が
励ましてくれているかのようで
不思議と勇気が湧いてきました。

昨日まで
あんなにもつれていた指が
嘘のようにスラスラと動きました。

程よい緊張感の中
気が付けば
演奏を楽しんでいる自分が
いました。

指は最後まで、
止まることなく動き続け
無事に演奏を
終えることが出来ました。

私は
心から幸せでした。

大きなミスなく
ピアノを弾けたことも
もちろん嬉しかったのですが、
それよりも
息子が
私のためにしてくれたこと
そのことが
嬉しくて有難くて
私は
ピアノを弾く前から
もう十分に
満たされていたのです。


朝は、
あんなに不安で
いっぱいだったのに、
お守りを手にした瞬間に
大丈夫
そう思うことが
できたのですから
本当に不思議です。

思いは人を動かす。

息子の思いが、愛が、
私の心を変え、
私の現実さえも
変えてくれたのです。




ただ、
息子には
ずいぶんと心配を
かけてしまいました。

おそらく、
本番の最中
息子は
作品を楽しむどころでは
なかったとのだと思います。

なぜなら
息子は
作品の内容を
あまり詳しく
憶えていなかったからです。

息子もまた、
私と共に、
ピアノに向かっていたのかも
しれません。
あるいは、
祈り続けていたのかもしれません。

無事に弾き終えた母を見て
息子もほっとしたことでしょう。


今でも
あの日のことを思い返すと
胸がいっぱいになります。

あの日
息子がくれたお守りは
今でも私の大切な宝物です。

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