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コルクアートの軌跡 第1話 体験

第1話 体験したレストラン業界・ワインビジネスの裏側
     次々と働き手が去ってしまう理由

目次
・ワインの仕事との出会い
・ソムリエ資格を取って
・体験したレストラン業界・ワインビジネスの裏側
・次々と働き手が去ってしまう理由
・その時ふと、目に留まったコルク

・ワインの仕事との出会い

話は25年ほど前、実家を出て友人と暮らし始めるころまで遡ります。

勉強もスポーツもあまり得意ではなかった学生時代。

当時はバンドを組んで学園祭やライブハウスで演奏するのが流行っていて、僕たちも同級生とメンバーを組んでいました。

もともと楽器をやっていた子もいれば、初めて触る子もいたのですが、部活もそっちのけで練習していくうちにだんだんと形になっていき
ライブをしたり少しずつ名前が知られるようになってくると楽しくなり、卒業後もオリジナル曲を10曲ほど作って、21歳くらいまで続けていたのですが

いろいろな舞台を経験すると、自分たちよりはるかに演奏の上手い人たちとの実力差に打ちひしがれて、サクッと挫折。

それまで音楽に夢中になって他の道を何も考えていなかったので、
「これから何をして生きていこう・・・」とちょっとした喪失感を感じてしまいました。

気分転換をしたかったのか、当時一緒に仕事をしていた友人と江東区の潮見という駅に、6畳2間にちいさなキッチンが付いた部屋を1部屋ずつルームシェアで借りて、家賃を半分ずつ出し合い暮らし始めました。

それまでは茶畑や竹林の豊かな埼玉県所沢の実家に住んでいたので、銀座やお台場、葛西臨海公園やディズニーランドなどが自転車でちょっと走ればいける場所での生活が、なんだかとても新鮮で、束の間の自由を感じていました。

そんな中、「まずは仕事を決めないと」と選んだ場所が当時、話題の中オープンしたお台場のヴィーナスフォート(1999年~2022年閉館)でした。

ヨーロッパ調の内装のヴィーナスフォートの1階には、大きなワインショップと併設されたワインバー、レストラン、カフェの複合店がオープン予定で
「4つのどのお店で働きたいですか?」という面接時の質問に、「ワインバーで働きたいです」と答えたのでした。

・ソムリエ資格を取って

今、思えばソムリエ同業仲間の履歴を聞いてみると
料理学校からキッチンに入りサービス側に転身した方や、ホテル学校などを出てしっかりサービスを学んだ方が多いのですが

僕の場合は、もともと料理が好きでもワインが好きでもなかった(ワインなんて飲んだこともほとんどなかった)のに、なんとなく日本と全く違う世界の文化への憧れみたいなものからのスタートでした。

所属したワインバーにはオープニングのためにヨーロッパから帰国したソムリエさんがいて、ワインのことを何も知らない22歳の自分に、とても丁寧に知識や作法を教えてくれました。

1999年当時は、今ほどインターネットで様々な情報を知る機会も多くなく、レストランのマナーやワインの知識などは、専門書や本場を経験した人から直接教わることが主流だったように思います。

ソムリエさんと仕事をする日々は毎日が発見の連続でしたが、半年ほどたつと、週末以外あまり売り上げの立たないワインバー部門はワインショップとレストランを残して観光客向けに路線変更し、
ランチメインのカレー屋さんになってしまったため、せっかくワインに興味が出てきたのでワイン専門のお店に転職しようと、お台場を後にすることに。

この頃はワインブームで、あちこちにワインレストランの出店と求人があり、日本橋の100席ほどあるワインダイニングのオープニングスタッフとして2つ目の職場を見つけました。

ここでも良き先輩に出会うことが出来、ランチとディナーの合間を使って田崎真也さんのワインサロンに通い、25歳になったタイミングでソムリエ資格に合格。

資格を取ったことで勢いがついたのか、本場のワイナリーやレストランの仕事を見に行ってみよう、と思い立ち、休暇を貰ってフランスのブルゴーニュやボルドーを歩いて回る一人旅に出かけました。

ワインに携わる仕事も3年ほどたち、仕入れやワインリスト作りも任せてもらえるようになり、ますますワインの仕事にのめり込んでいきます。

・体験したレストラン業界・ワインビジネスの裏側

日本橋のお店はカリフォルニアワインをメインとしていたのですがソムリエ資格を取ってみると、やはりいろいろな国のワインを扱ってみたくなります。

ただ、そこで自我を出してしまうとお店のコンセプトと外れてしまうため、また異なる環境で仕事をしてみようと、お店を変えることにしました。

世界各国のワインを幅広くバイザグラスで提供するワインバーで働いた後、憧れていた銀座のクラシックなフランス料理のレストランに入ったものの
経営陣もシェフもサービスの先輩もたいへん厳しく、しごかれて撃沈。

毎朝通勤するのが嫌になってしまい2カ月ほどで逃げ出すように辞めて、再起をはかるべく渋谷の隠れ家的な個室とカウンターの小さなワインバーに転職。

1年くらい継続して仕事も慣れてきた頃、店舗展開を広げるも経営不振で店舗を縮小、徐々にスタッフの給料が滞納されるようになり、オーナーと喧嘩別れして退職。

20代後半に差し掛かったころ、アルバイトを含め大小さまざまな飲食店勤務を経験し、自分の未熟さも含めて、入ってみないと合うかどうか分からない環境を選ぶ難しさもあり、求人はたくさんあるものの、レストランやワインバーなどのワインビジネスは雇われているだけでもなかなか難しい世界であることを実感しました。

そこで、飲食店だけにこだわらずワインに関われる仕事を探してみたところ、小売店や輸入業(インポーター)、ワイン製造業など、様々な選択肢があることに気づき、そのタイミングで、ソムリエ資格取得から5年が経っていたので、もうひとつ上のシニアソムリエの試験に挑戦し、何とか合格。

30歳になる頃、ワインを専門とした小売店勤務から
ワインの輸入も行う恵比寿の会社に転職することを選びました。

・次々と働き手が去ってしまう理由

レストランでは「誰かいい人いませんか?」と
よく人手不足の話が話題にあがります。

何故レストラン・サービス業から人が辞めてしまうのか?自身の経験からいくつか思い当たるところがあります。

レストランでの仕事は主に、シェフをはじめとする厨房の料理スタッフと、サービスを担当するホールスタッフに分かれています。

家族経営のお店のように店主がオーナーですべてを行う場合もあれば、経営母体は別にあって店舗スタッフはそれぞれのポジションで雇用されている場合もあります。

調理や接客の経験や技能、年齢も人それぞれです。
チームがうまくいっているお店はお客さんから見ても雰囲気が良いものですが

いろいろな人がいろいろな想いで集まっている飲食店は、もめごとやトラブルも頻繁に起こります。

とくに若いうちは、任せられたことが満足にできずにミスに繋がり、それがチーム内だけで解決できることもあれば、知識や経験不足からクレームに発展してしまうこともあります。

さらには、ランチから夜まで営業するお店だと
新人は朝の8時くらいから掃除や準備を始め、終電ギリギリの24時くらいまで片付けをしていることは日常的で、それに加えて休みも少なく薄給だったりします。

給料などの待遇が見合わないとやめてしまった人、
シェフやマネージャーとそりが合わずに辞めてしまった人、自信を失って飲食業界をやめて異業種に転職した人などをたくさん見てきました。

今となっては苦い思い出ですが、自分自身が当事者になって、喧嘩別れしたお店もいくつかありました。

もしかしたらこれは飲食業界だけではなく、
どの業界にもあることかもしれません。

・その時ふと、目に留まったコルク

自分の実力不足や判断ミスなどの非も認めつつ
やはりワインの仕事はあきらめたくないなぁ・・・

と再々就職した会社では、ワインの買い付けなど
新しい仕事が待っていて、これまでの経験も活かすことが出来、気持ち新たに仕事に取り組んでいきました。

とくにソムリエに順番に任されるフランスへのワイン買い付けは刺激的で、言葉の壁など緊張感があるものの、本場でたくさんの食体験ができる貴重な経験でした。

ところがやはり、数年を過ごして仕事に慣れてくると、その世界の中でのソムリエ同士のライバル意識や実力差、会社からの評価など、ある種の競争から逃れることはできません。

この頃、ワインの仕事に出会ってから15年ほどが過ぎて36歳くらいになっていた僕は、学生の頃やっていたバンド活動の頃に感じたような経験や技能を磨き続けて、競争に勝ち抜いていくような社会には
あまり向いていないのかもしれない、と思うようになっていました。

ワインが好きなだけで、それを仕事に出来たら良いなという単純な気持ちでここまでやってきたけれど、これからも続けていけるだろうか・・・

そんな物思いに耽りながら、たくさんのワインを開けた試飲会の片づけをしていると、目の前に15本ほどのワインの空瓶と15粒のコルクが転がっていました。

そのコルクを1列に色の淡いものから、だんだん濃くなるように並べてみたのです。

「あ~。ワインの色ってコルクに移っても奇麗だなぁ」

このコルクの色合いの違いで、ワイン色の絵が描けたらとても奇麗な絵になるんだろうなぁ。

それがワインの仕事を始めて15年が過ぎた2014年のある日の出来事でした。

・・・第2話につづく・・・

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【8/17】
第1話 体験したレストラン業界・ワインビジネスの裏側
     次々と働き手が去ってしまう理由
https://note.com/kuboblanc/n/n5f4d6001f302

【8/18】
第2話 コルクアートのはじまり
     飲食業界での挫折をへて
https://note.com/kuboblanc/n/n9a499d893a96

How?do you do it.

【8/19】
第3話 コルクが集まり続ける仕組み
     15万個ものコルクが集まったわけ
https://note.com/kuboblanc/n/ne78a17da8fba

【8/21】
第4話 コルクアートの作り方
    気になる?どうやって作っているのか
https://note.com/kuboblanc/n/n83e98bd2d72d

【8/22】
第5話 コルクアートの広め方
    SNS発信の良手・悪手
https://note.com/kuboblanc/n/n858965bc9945

What?did(do) you do it.

【8/23】
第6話 コルクアート70作品の軌跡
    選んだモチーフの理由
https://note.com/kuboblanc/n/nb8f464909db1

【8/24】
第7話 新作のモチーフは 「   」
     イタリアワインのラベルを飾って発売へ
https://note.com/kuboblanc/n/nfec0b36e62d6

【8/31】
第8話 作品を通して伝えたいこと
https://note.com/kuboblanc/n/n41cdbbbdbd86

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