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銀行の個人営業(リテール)を辞めた話②

関西の地方都市にある店舗で、全く尊敬できない先輩達に囲まれて仕事していた新人時代。
そんな店舗は全体の飲み会も酷い。

おつぼねや年増が多かったからか、飲み会の場所や料理の質、もてなし、挨拶の段取り、席次など、注文が多く、どれか一個でも上手くいかない場合でも、飲み会その場で私は叱責された。
半べそだが、周りも助けてくれることは無く、同調して私を責め続けた。

こうした経験もあり、その後は全体の大きな飲み会を企画する度に、チェックリストのようなものを頭に浮かべ、段取りしていた。
2017年ごろから会社全体のこのような風潮、上司が若手をいじめる、酒ハラなどが横行し、会社から上層部に注意があり、飲み会自体が少なくなっていった。
2017年以降に入社した若手行員は飲み会の所謂「イロハ」を知らずに過ごしている。
必要の無いスキルだ。。

ーーー

カラオケ陰湿先輩の話。

前回の投稿で書いた、カラオケ陰湿先輩は、私の3歳くらい年上の先輩で、中堅証券会社からの転職。
私と入社年度は同じであったため、この店舗では同じ「新入り」であった。

シュッとした体型ではあるが、縁無しのメガネと昭和感が漂う髪型もあってか、「かっこいい」とは一度も思えなかった。
それは、営業成績からも滲み出ていた。

金融リテールの仕事は、個人の目標が明確に定められる。
当時のカラオケ陰湿先輩は入社したてということもあり、月間の目標は2000万円の金融商品販売だった。(当時のセールスマネージャーで1億7千万程度の目標だったため、かなり低い目標)

しかし、カラオケ陰湿先輩は数字ができなかった。
月の販売金額50万円ということも珍しくなく、目標を達成する姿をみたことはなかった。

私は、ある夜、カラオケ陰湿先輩に誘われ、飲みに出かけた。
その誘い方も、スパイの作戦指示か、と思うくらい小さな声で交わされた。

通常であれば、居酒屋かどこかに行くであろうな、という予想は大きく外れ、繁華街のスナックに来ていた。
場末という雰囲気では無いため、カウンターには若い女の人がいる。
今思えば、そこは「ガールズバー」という場所だったのかもしれない。

私は当然、腹が減っていたが、そんなことはお構いなしに、カラオケ陰湿先輩は女性スタッフに作ってもらった鏡月の烏龍茶割りを煽っていた。
少し飲み進んだ後に「この娘は俺の彼女だ」と紹介された。
社内で見るカラオケ陰湿先輩の面影は無く、笑顔に溢れ、自信を取り戻していた。

私はこの時、自分がとても冷静なものだったと記憶している。

「仕事もろくにしないで、それなり給料をもらって、夜な夜な繁華街で遊び続けるこの人は全く尊敬できないなぁ。それも表向きは銀行員で、仕事の出来不出来は外部にはいくらでも言えるんだろうなぁ。この女もどこが気に入っているんだろう。騙されなければいいけど。。」

カラオケ陰湿先輩は徐に歌い出した。
久保田利伸のMissingだった。
先輩の声は、伸びやかだった。おそらく聞いたことのある一般人のカラオケの中では抜群な歌唱力だった。

私「先輩、お上手ですね。」
カラオケ陰湿先輩「まぁ、まぁ、、、上手いでしょ笑」

上機嫌。
先輩はボイストレーニングに通っているらしく、その成果を繁華街のスナックで披露しているようだった。

その夜は、深夜2時ごろまで続いた。
スナックの会計や、タクシー代まで工面された私は、繁華街から自宅を帰った。
先輩は、ガールズバーの彼女と同じく帰って行った。

次の日の出勤時間。
先輩は現れなかった。
遅刻をしていた。

こういった日が数回起こった。
出社しても目がうつろで、スーツは皺でくたびれて、ボソボソ声もより音量が小さくなっていた。お客様からも「担当変更」をよく食らっていた。

カラオケ陰湿先輩はとうとう会社に来なくなった。
そして、関東の店舗への異動が通達された。
入社から半年も経っていないのに。

後に聞いた話だが、カラオケ陰湿先輩は多額の借金を抱えていたそう。
毎日飲み歩き、収入と支出のバランスが崩れていた。
さらに、女性トラブル。
噂なので半信半疑だが、ガールズバーの女性と揉めていたらしい。

そういえば、「この娘は俺の彼女だ」と紹介された時も、
その女性は「何言ってるの〜」というリアクションだった。

カラオケ陰湿先輩とは、特段仲が良いというわけでは無かったが、彼から多くの学びがあった。

仕事へのモチベーションが一段と上がったことを覚えている。


写真:幸兵衛(富士市)の「牛もつの煮えきり」





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