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ナラティブに関する3つの大きな誤解と2つの文法

こんにちは、Ubie/マドベの片山です。この記事では、前回のnoteで言及した「ナラティブ」について書いていきます。

そもそもナラティブとはなんだろう

ナラティブは「語り」や「物語」と訳されます。いわゆる「ストーリー」とはどんな点が異なるのか、気になる方も多いでしょう。この違いについては、ナラティブが活用されてきた背景に触れると理解が進むかと思います。

ナラティブは、社会構成主義の影響を受けた精神療法の一種である「ナラティブセラピー」としてケアの現場で使われてきました。これは、当事者自身の人生に関する「語り」を共にリフレーミング(異なる枠組みとして再構築)して、傷を癒やすものです。たとえば、患者が抱えるトラウマもリフレーミングして異なる意味を付与すると、途端に解放されることがあります。

そして、これは応用することでマーケティングおよびPRの現場でも活きてきます。ステークホルダーが出会う前後で認識を変える語りの枠組みに商品や企業を位置づけると、新たな意味をもって認識され、購買や支持につなげられる可能性が見えてきます。

国内でも、本田事務所の本田哲也さんが提唱し始めたことで普及しつつあります。もっとも、先述の「ストーリー」との混同をはじめ誤解も生じているように映るのも事実です。この記事ではそんな誤解と、それを解いた上で活用できる代表的な「文法」をご紹介していきます。

誤解1:主役は自分たちである

いわゆる「ブランドストーリー」などと誤認され、主役を自社としてナラティブを語ろうとするケースが散見されます。もちろん、このブランドストーリーが有効に働くケースもあるものの、最近は食傷気味な印象です。

ナラティブにおいて、主役はあくまでコミュニケーションを取りたい各ステークホルダー。彼・彼女らに、自社や商品を異なる意味となる枠組みを提供することが基本姿勢です。もっともこれは、元来PRパーソンが得意としてきた「主語を相手に移す」マインド・スキルに通じます。そのためPRパーソンはナラティブを扱うのに適任です。

誤解2:一つだけ存在する

いわゆるカスタマージャーニーのように、顧客だけを主役にするものではありません。主役はステークホルダーの数だけ存在します。たとえばHRの文脈では採用候補者かもしれないし、IRの文脈では投資家かもしれない。はたまたPAの文脈では関係省庁だって主役になりえます。

自社が規定した強固な単一のものだけでなく、各ステークホルダーが主体となって語りだすものも生まれえます。いわばナラティブは、複数の主役が存在する「群像劇」。ちなみに、自分が好きな群像劇は「桐島、部活やめるってよ」の映画版と、ファイナルファンタジーⅥです。

誤解3:過去からリニア(線形)に進行する

そしてナラティブは、過去に起こったことを積み重ねて語るストーリーではありません。これまでのブランドは築いてきた資産に立脚した過去志向でしたが、ナラティブはビジョン(パーパス)を北極星に向かって歩き出す未来志向の道のりです。

そのため、未来に向けて歩き出してみて逆に過去にさかのぼる瞬間もありえます。ターニングポイントを見定め、それに影響を及ぼす過去の出来ごとを組み込んでいくと時系列としても厚みが出て語りがいのあるナラティブになるでしょう。

「文法」は大きく2つで考える

こうした3つの大きな誤解を念頭に置いた上で、ナラティブを考えやすくするために押さえるべき基本の「文法」があります。もちろん厳密には複数バリエーションがあれど、いったんマーケティングやPRへの活用を考える上では基本の2つを押さえておけば十分です。

一つは「欠落を取り戻す」ナラティブ。もう一つは「まだ見ぬ冒険に出て帰還する」ナラティブです。

文法1:欠落を取り戻す

主役の日常に大きな困難が発生し、それを乗り越えて失った「宝物」を取り戻す型です。コロナ禍にある現在、このナラティブは身に覚えがある方も多いはず。医療、飲食店、観光などなど、大きなダメージを負った業界は枚挙に暇がありません。

しかし、見方を変えれば危機あるところにナラティブありです。どうしたってコロナ禍など起こらない方が幸せに決まっていますが、渦中にあるときにはピンチをテコにして切り抜ける方法を考えるのが得策です。商品やサービスを「援助者」として新たな需要を喚起したい時などに特に有効でしょう。

Ubieでもコロナ禍に際して全社のリソースを新サービスの開発に投下して緊急提供したり、既存サービスにコロナ対応の新機能を搭載したりしました。これにより、自社やサービスとステークホルダーの間でナラティブが共有され、新たな関係を築くことができています。

ちなみに、当のステークホルダーがこの「欠落」に気づいていないケースも多々あります。BtoBマーケティングの現場などでは頻発していますが、顧客自身がイシューとして認識していないことも。そこでメディアを通じて俎上に上げるのは有効な手段です。

文法2:まだ見ぬ冒険に出て帰還する

もう一つはいわゆる冒険譚。日常に目立った不満はないが、「賢者」に出会い、新たな意味をみつける型です。よく「自分探しの旅」として世界一周に出かける若者がいますが、自分の人生を相対化してナラティブを再構成するのには有効だと思います。

賢者に誘われるように非日常に飛び込み、日常に帰ってから新たな意味を見出す。これは企業の採用において、特に有効に作用するナラティブです。自分が積み重ねてきたキャリアに新たな意味を見出して、まったく新しい業界や職種にチャレンジするケースが最近よく見られます。

Ubieでも現役医師のメンバーが5名在籍しています。一般的な医師のキャリアを考えるとスタートアップへの転職はリスクに映りますが、すでに先行している医師・代表の阿部のナラティブに触れ、自身のナラティブを再構成したメンバーが集いました。彼らにとっては、Ubieでチャレンジしないことの方が自身や医療全体を考えるとリスクだとさえ認識しているのです。

自分たちは「援助者」や「賢者」になる

では、主役になれない自社や商品・サービスは何になるべきなのか?それは、主役となる各ステークホルダーが出会う前後で物事の枠組みを変える存在である「援助者」や「賢者」です。これらは「アーキタイプ(型)」と呼ばれるもので、『ブランド・アーキタイプ戦略』や『英雄の旅 ヒーローズ・ジャーニー』などの書籍で詳しく解説されているので、興味のある方はぜひご一読ください(ただし、どちらもボリューミー)

ちなみに、自分たち自身が「援助者」や「賢者」になれない構造もありえます。そのような場合はメディアやキーパーソンを新たなアクターに据えると上手くいくケースが多いです。こうした「第三者を巻き込む技術」もPRパーソンの真骨頂。ぜひPRの力をもって活躍していってください。

今回はナラティブにまつわる誤解と、活用するための型について書いてみました。Ubieではこうした考えでPRに取り組んでいますので、一緒に医療の未来に向けて仲間になってくれる方をしています。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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