「関係づくり」とは、期待と不安のマネジメント | Public Relations再考
こんにちは、Ubie/マドベの片山です。PRを生業に、自社やパートナーの「関係づくり」を手がけています。最近よく質問されることもあり、はたして「関係づくり」とは何なのかを考えてみましょう。
パブリシティは「関係づくり」のHow
PRと聞くと、メディアと折衝してパブリシティ(メディア露出)を実現する仕事と思い浮かべる人は少なくないはずです。たしかにパブリシティの実現も大切な仕事ですが、それはHowでありWhatではありません。
かねてより自分は「関係づくり」と意訳してきました。自社を取り巻くステークホルダー(関係をつくりたい相手)と双方向のコミュニケーションを重ねて関係性をマネジメントすること。PRはこのように定義されているものの、抽象度が高くイメージできない方もいると思います。
それをやわらかく解釈し直したのが「関係づくり」です。関係は、送り手目線のアウトプット(出力)ではなく、受け手目線のアウトカム(成果)。パブリシティはあくまで関係づくりのための手段の一つと念頭に置いておきましょう。
自分が所属するUbieのPRチームでは、ステークホルダーごとにチーム名でもあるAffection(愛情)とはどんなものかを考えるワークショップを行いました。同じ「愛情深さ」でも受け手によって意味するところは異なります。つまり関係をつくる方法も多岐に渡るのです。
関係 ≒ 期待 + 不安
では、この関係にはいかなる“変数”が関わっているのでしょうか。厳密には様々な要素が絡み合うものの、ここでは思いきって見出しの通りの公式で表現します。ポジティブな「期待」とネガティブな「不安」。この総和が各ステークホルダーとの関係とほぼイコールです。
期待は、様々な形で膨らみます。消費者やユーザーにとっては、商品・サービスやそれに付随するコミュニケーションの質が重要でしょう。社員は、会社が目指すビジョンと言行一致した経営を見て常に評価しています。投資家にとっては、決算発表が今後の投資を判断する大きな材料です。このように、必ずしもパブリシティを介さずとも期待を高める方法はあります。
一方で、不安も多岐にわたる形で募っていきます。何か不祥事を起こしてしまった時に、適切に情報を開示しなければ取引やサービス利用を躊躇する人が増えてしまうでしょう。謝罪の文書をどのような形で公開するかまで、ステークホルダーは一挙手一投足を見て判断します。多くの企業・団体がこの不安の扱い方を間違えて、せっかくの期待を台無しにしてしまうケースが後を絶ちません。
そして期待と不安はそれぞれ独立したものではなく、コインの表と裏のような関係です。期待が大きいがゆえに何か不祥事があったときに比例する形で不安も増幅したり、不祥事を起こしてしまったときの“神対応”によってピンチがチャンスに変わったり。このマネジメント一つでその後の活動の成否が大きく分かれることも少なくありません。
スタートアップの9割は「関係弱者」
さて、このように定義した場合に気になるのはスタートアップでしょう。お察しの通り、スタートアップにとっては何とも難しいお題です。なぜなら、えてしてスタートアップへの期待は小さく、イノベーションに対する不安は大きくなるからです。9割方のスタートアップはこの難題と対峙した結果、撤退を余儀なくされてしまうのではないでしょうか。
悲観させてしまったら申し訳ありません。きっと落ち込んでいるPR担当者の方もいますよね。でも、朗報です。期待も不安も適切にマネジメントすれば成功確率はぐっと高まります。それこそがPublic Relations、PRの出番です。
もし自社にPR担当がいなければ、まずは兼任でもよいので相応しい人を据えましょう。そしてできることなら、経験豊富な外部アドバイザーに伴走してもらうのをおすすめします。Ubieも当初はPR担当が存在しませんでしたが、自分に相談してもらったことで一気にPRのマインドとスキルが実装できました。その結果のめり込み、入社するにまで至りましたが……
期待と不安のあつかい方
期待と不安を上手にあつかうため最初にするべきは、関係をつくりたい相手を解像度高く特定することです。何を当たり前のことを、と思う方もいるかもしれません。でも、これをおろそかにしてしまっているケースがほとんどなのが実情です。
マーケティングカンパニーとしても名高いP&G。彼らはWho,What,Howの順でのプランニングを徹底しています。自分もこれには深く同意するところで、誰を相手にするかを決めればやらなくていいことが明確になり、有限のリソースを適切に配分できるようになるからです。
たとえば「自社の認知度を高めたい」や「採用応募数を高めたい」は目標設定として不十分です。オールターゲットなるものは、ほとんど存在しません。対象が広くなりすぎているときは立ち止まって、まずはどんな人とコミュニケーションをとるか話し合ってみましょう。
そして、Whoとして関係をつくりたい相手が特定できたなら。次はWhatとしてアクターズジャーニーをつくってみるのをおすすめします。これはそれぞれ関係をつくりたい相手(アクター)との接点と他の要因を総合した見取り図のようなものです。Ubieでは先述した「Affection」の解釈の違いを参照しながら下記のようなアクターズジャーニー(ぼかし済)を作成しました。
さらに、アクターズジャーニーを下敷きに、自社の予定や社会の動向と照らし合わせた下記のようなロードマップにしていきました。もちろん、PRは全てが予定通りにいくことの方が稀です。しかし、予め方向性を目線合わせできていると変化に対しても素早く対応できるので、ぜひ作成してみてください。
オンラインであれば画像のようにmiroなどのツールで共同ワークショップが可能ですし、もし集まれるようならオフサイトミーティングで一日かけて模造紙と付箋を用いて作成するのもオススメです。Ubieではまずオフサイトで作成したものを、編集しやすくmiroに落とし込みました。
マーケットインから「ソーシャルイン」へ
こうしてできあがったアクターズジャーニーが有効に作用するためには、それが「ナラティブ(語り)」として機能する必要があります。このナラティブに必要な要素や考え方は今後のnoteに譲りますが、自分たちと関わる前と後で各アクターにポジティブな変化が起きることが大切です。
そのためには、各アクターがぶつかっているイシュー(課題)を併せて考える必要があります。イシューを見つけ出すコツは、マーケット(市場)ではなくソーシャル(社会)にまで広げて見ることです。これこそが、PR視点やPR発想と呼ばれるものだと思います。
プロダクトアウトでもなく、マーケットインでもなく、「ソーシャルイン」で考える。そのためには常日頃から社会で起こっている価値観や行動の変化に対して深い洞察をもっていなければなりません。PR担当者は自社で最も社会への解像度が高い人であるべきです。
そしてもう一つ大切なのは、ビジョン(orパーパス)とイシューはセットであることです。逆にいえば、ビジョンなきところにイシューは存在しえません。自社のビジョンやパーパスが社会のイシューを見つけ出す補助線として機能しているか、あらためて点検してみるのをオススメします。
ちなみに、一つのビジョンやパーパスに対しては、複数のイシューが現れる場合が多いです。必ずしも一対一の関係でなくてもよいので、点検の際にはできる限り多角的に見てみましょう。
メディアは攻略すべき敵ではなく「共犯者」
ここまで関係をつくりたい相手の特定と、それに語りかけるナラティブの見つけ方を書いてきました。最後はそれを機能させるためのHowとしてのメディアリレーションズの考え方で終わりたいと思います。
多くの経営者はメディアをパブリシティを実現するためのチャネルとして考えている節があります。もちろんマーケティング全体を見渡す時にそのような整理が有効な場合もありますが、PRに対するに対する齟齬が生まれる懸念もあるので要注意です。メディアは決して、自社の私腹を肥やすために攻略するべき敵ではありません。イシューを共有して解決を目指す「共犯者」です。
共犯者だとすれば、自分たちのよい部分だけを見せるべきではありません。上手くいっていない段階から相談してしまった方が、かえってイシューの大きさも伝わるというものです。スタートアップにありがちな誇張ブランディングはかえってイノベーションを阻害するものとして、避けた方が賢明だとお伝えしておきます。
このnoteをきっかけに一つでも多くの企業・団体が「関係づくり」に踏み出せるように願っています。また、Ubieではこうした考えでPRに取り組んでいますので、一緒に医療の未来に向けて仲間になってくれる方を募集しています。最後までお読みいただき、ありがとうございました。