輪廻の風 (10)


あたりは静まり返った。

一連の騒動を見ていた者、街を荒らしながらラーミアを探す兵隊たち、兵隊たちに立ち向かって返り討ちにあった者、兵隊たちから逃げ回っていた者、その場にいた全ての人間の視線がエンディに向けられた。

「エンディ、お前まだこの街にいたのか」

パウロがそう言うと、エンディは近くにいた漁師の男に、パウロを連れて遠くへ逃げるように促した。

漁師の男は一瞬、挙動不審になりながらも、すぐにハッと我にかえり、パウロを抱き抱え、兵隊たちのいないできるだけ安全な場所へと急いで走って行った。

すると、残り19人の兵隊たちが、ゾロゾロとエンディのいる方へと向かって歩き出した。中には、鬼のような形相で怒号を発している者もいた。

「クソガキ、自分が何したか分かってんのか?」

「ぜってえ生きて帰さねえからな!」

あたりは再びざわつきだした。

「なんだよあのガキ、やべえぞ」

「おい誰か、助けに行けよ」

「お前が行けよ」

ラーミアは悲観した。自分のせいでエンディが殺されてしまうかもしれない。思考が停止し、冷静な判断能力が損なわれ、ただ呆然と立ち尽くすしかなかった。

「さーて、覚悟はできてんだろうな?」

「お前らはこの街にいるべき人間じゃない、さっさと出ていけ。」

19人の兵隊たちに囲まれても、エンディは毅然としていた。

そんなエンディの様子を見ながら、ダルマインはタバコを吸いながら不敵な笑みを浮かべた。

「ふははっ。今時珍しい、なかなか骨のある小僧だな。」

「お前がこいつらの頭だな?ここにはラーミアなんて女はいない。早くこいつら連れてこの街からでていけ。」

エンディはダルマインを睨みつけながら、冷静な口調で言い放った。

「カッコいいな、お前。だが、そんなちっぽけな正義感はこの世の中で生きていく上でクソの役にも立たねえぜ?」

ダルマインの言っている意味が理解できず、エンディの脳内にクエスションマークが飛び交った。

「いいか小僧、お前にこの世の真理を教えてやる。まず、否が応でも世の中には"表と裏"が存在する。表と裏、この2つに共通しているのは"弱肉強食"であることだ。どれだけ綺麗事を言おうが、この世界はすべからく弱者は強者の喰い物にされる資本主義社会、民主主義なんてのは所詮ただの理想論に過ぎねえんだよ。お前みてえに下らねえ正義感を振りかざす弱者は早死にするぜ?勢いだけの能無し野郎の"力"なんてたかが知れてるからよ。」

タバコを吸いながら淡々と語るダルマインの目をじっと見ながら、エンディは真剣に話を聞いていた。2本目のタバコに火をつけると、ダルマインは再び長々と語り出した。

「腕っ節の強さと度胸だけじゃ世の中生き残れねえよ。見たところ頭も悪そうだし、人の上に立つ器量もなさそうだ。お前は何者にもなれない、ただの青臭いちっぽけなクソガキだ。弱者が生き残るには、プライドを捨てて身分相応の暮らしをするか、"強者の影"に隠れるかだ。お前はまだ若い、利口になれや小僧。なんなら俺の船に来るか?歓迎してやるぜ」

ダルマインがそう問いかけると、エンディは俯いたまま沈黙し、すぐに顔を上げた。

「長々と薄っぺらい話をしてくれてどうもありがとう!」

満面の笑みでそう言い放った。

「言ってる意味よく分かんねえけど、俺は弱い人に寄り添える強い男になる!誰がお前みたいな残念な中年の下につくかよ、バーカ!」

ダルマインのコメカミの血管が浮き出た。
場の空気が凍りついた。

どうやらエンディはダルマインを本気で怒らせてしまったようだ。

「いい度胸だな、霊長類最強の喧嘩師であるこのオレ様に啖呵切るとはよ。吐いた唾飲み込むなよ?」

血管の浮き出る右手の大きな拳をポキポキ鳴らしながら、威嚇した。

エンディはこの男の力量が読めず、緊張した様子だった。ハッタリなのか、それとも本当に強いのか分からなかった。

「テメェら、やっちまえ!」

ダルマインが号令をかけた。すると19人の兵隊たちは、一斉にエンディに襲いかかった。


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