輪廻の風 (14)



円柱型の巨塔はかなり年季の入った建物だった。

周辺には浮浪者のような見た目の男たちが数人、土木工事や湖の除染作業を行なっている。

彼らは所謂、奴隷のような存在なのだろうとラーミアは直感した。

大きな扉が開き建物に入ると、中にはダルマインが引き連れている兵隊たちと同じ戦闘服を着た者が何人もうろうろしていた。

「お疲れ様です!提督!」

「うるせえな、別に疲れてねえよ!」

ダルマイン一行の帰還に気がついた兵隊たちが一斉に敬礼をすると、ダルマインは鬱陶しいと言わんばかりに怒鳴りつけた。

「もういいぞてめえら、全員持ち場に戻れ。」

引き連れていた部下たちに指示を出すと、ダルマインはラーミアと2人でエレベーターに乗った。

ラーミアは生まれて初めて乗るエレベーターに戸惑っていた。

「すげえだろ?これが旧ドアルの科学技術だぜ。」

鬼の首をとったように鼻高々だった。

高層階に着き、廊下を少し歩くと厳重そうな二重扉を通り部屋に入った。

そこには、この古びた塔には似つかわしくないような煌びやかな光景が広がっていた。

天井にはキラキラ輝くシャンデリア。
大理石の床にはレッドカーペット。
テーブルや棚には高級そうな骨董品や陶器が置かれ、壁にはピカピカの銃器や刀類などが掛かっていた。

「ギルド総帥、只今戻りました!」

緊張した様子で深々と頭を下げるダルマインを見て、ラーミアはキョトンとしていた。

「随分と遅かったじゃねえか、そんな小娘1人捕縛するのにどんだけ時間かかってんだ?」

「…申し訳ございません、少々トラブルがありまして。ラーミアを探している時に偶然、"異能者"の小僧を見つけまして、そいつがまた腕の立つ野郎だったんです。」

ダルマインは頭を上げて必死に弁解した。
王宮でラーミアを捕獲した後、緊急用のボートで逃げられたこと隠し通そうとしている様子だった。

「ダルマイン、オマエよ。そんな言い訳が通ると思ってんのか?じゃあその小僧はどこにいるってんだよ。」

「それが、逃げられちまいまして…。」

「はー、オマエは本物の愚図だな!」

そう侮辱されると、ダルマインの眼光は途端に鋭くなりコメカミに血管が浮き出た。

ギルド総帥は背が低く、金銀財宝を着飾った派手好きで、この上なく性悪そうな初老の男だ。

「あの、私を捕まえてどうする気なんですか?」

自分がなぜ誘拐されたのか、ラーミアはおおよその見当はついていたが、あえて質問をした。

「心配いらないよお嬢ちゃん、我々に協力してくれるんなら悪いようにはしない。この先、君の"力"はどうしても必要なんだ。」

ギルドはさっきとは打って変わり、優しく笑顔で答えた。歪んだ笑顔だった。

そしてドアの前に立っている見張りの兵隊に、ラーミアを別室に連れて行くよう命令した。

「私、あなた達に従う気なんてないから!」

強気な捨て台詞を残し、見張りの兵隊に連れられ部屋を出て行った。

「それではギルド総帥、私もここで失礼します。」

「待てよ豚野郎。お前よ、さっきこの俺を睨みつけただろ?」

「とんでもない、決してそのようなことは…」

たじろぐダルマインを、ギルドは血走った目で睨みつけている。

「消せ、ジャクソン。」

ダルマインの背後に、色黒の大男が立っていた。そして右手に持っている大刀の刃をダルマインの首に当てている。

ジャクソンの身体つきはダルマインのような肥満体型ではなく、かなり筋肉質だった。
おまけにダルマインのようによく喋る男とは対極的な寡黙そうな男だ。

「くっ、てめえらぁ…!」

「お前みたいにヘマばっかする無能野郎はもう用済みなんだよ。せっかく役職与えてやったのに偉そうに踏ん反り返ってるだけでなんの役にも立たねえ、それに前から俺に対する態度が気に食わなかったんだ。ここで死ね!」

ダルマインは恐怖で顔が真っ青になり、全身から冷や汗が止まらなかった。

すると、突如天井から一本の太い木のツルが勢いよく生えてきた。
なんとそのツルは床まで伸びてきて、声を発したのだ。

「やめろ」

不気味な低い声が部屋に響き、3人は凍りついた。

「おいおい、なんでお前がしゃしゃり出てくるんだよ!?」

ギルドが納得のいかない様子で声を荒げると、木のツルは再び声を発した。

「黙れ。たしかに使えねえ野郎だが、その男の航海術はまだ役に立つ。今殺すのはまだ時期尚早だ。」

「くそっ、分かった分かった。おうジャクソン、やっぱ殺すのはナシな。だが総帥である俺を睨みつけたのは立派な不敬罪、しばらく牢屋に入れておけ。」

「…はい。」

「なにぃ!?牢屋だと?ちょっと待てよ!」

ジャクソンは喚き散らすダルマインの襟首を掴み、有無を言わさず連行した。

木のツルはゆっくり天井まで縮み、天井に穴を残して消えていった。
ギルドは少し悔しそうな表情を浮かべている。

「クソが、結局オレも散々利用された挙句、最後は消されんのかよ…!」

「それは…貴様の、今後の行い次第だ。」

連行されながらまだ喚き散らしているダルマインを、ジャクソンは静かになだめていた。




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