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「仕事が辛いから辞める」は駄目なことなのか?

仕事を辞める理由は様々である。
家庭の事情、キャリアアップ、給料、年齢や体力・・・1人1人生き方や考え方は違う分、仕事を辞める理由もそれだけある。

このような理由に対しては周囲も「仕方ないね」と思うだろう。

しかし、「仕事が辛いから辞める」と言うと、なぜか世間では「そんな考え方は甘いよ」と辛辣になる。

そうして「みんな辛いけれど頑張っているんだよ」「もう少し続けていれば仕事が楽しくなってくるから」などと説得する。

このような世間の言い分は分からないでもないが、他人がどうこう言う話ではないと思う。ましてや説得するのも違うだろう。




私は介護事業の運営として人事も担っているが、どんな理由であっても退職希望をしてきた職員を説得することはほとんどない。

稀に明らかな勘違いをしている場合はしかるべき説明はするが、いずれにせよ仕事を辞めるという決意をして話をしてきた人の考えを修正することは不可能であると経験から分かっている。

そもそも、仕事を辞めるという考えをしている人は、自分が辞める理由を探すようになってしまう。

最初は漠然と「辞めようかな」と思っていたのが、何かのきっかけで「この職場はアレが悪い」「この業界はココが悪い」というように、退職する理由を見つけ出すようになる。

あるいは家庭の事情や自身の身体状態など、とってつけたような理由も無理やり見つけようとする。

そのため、上司や職場に退職の意向を伝えるときには、その人の中で辞める理由が揃っている。自分の中で今の仕事を辞める大義名分を作ってくる。

だから、説得しようとしても無駄だと思うのだ。




特に「仕事が辛いから辞める」と言う人は、本当に辛かったのだなと同情するものもあれば、さほど大変と思えない状況もある。

しかし、本人にとっては辛い日々だと主張するわけだから、その状況から解放させることはその人のためだと思う。

仕事は生活の糧を得るための作業であり、最低限の生活ができれば良いと考えれば、別に辛いと思うほど頑張るものでもない。

特に残業や休日出勤などが慢性化して物理的な意味で肉体が辛いというならば、辞めるのは選択肢として有益だと思う。

というか、このような状況の場合では「辞める」よりも先に「休ませる」ということが優先である。

しかし、仕事が辛いと思ってしまった時点で休ませたところで、人間は色々と考え込んでしまう生き物だから、休んでいる間に辞める意向が強くなるだけだと思う。

だからこそ、上司や職場は説得するよりも退職を受理してあげたほうが、本当の意味で本人のためになるのではないか。




仕事を苦に自死をするケースがある。

そのような話に対して「死ぬくらいならば仕事を辞めればいいのに」という人がいるが、それは論点がズレている。

おそらくだが、そのくらいに精神的に追い詰められている人は死にたいわけではなく、「死」という意思表示をもってその場を離れる(仕事を辞める)大義名分が欲しいのだと思う。

死とまでいかずとも、誰だって仕事に行きたくないときに「電車が止まれば職場にいかなくていいのに」とか「隕石が落ちてこねーかな」とか現実的ではないことを考えたことはあるだろう。

人間とは眼前の問題に過剰なストレスを抱くと、ときに非現実的な発想や非合理的な提案をしてしまうものだ。

だからこそ、仕事を苦に自死をするケースに対して「辞めればいいのに」と言うのは本質的に問題の捉え方が違うと思ったほうがよい。

むしろ、精神的に追い詰められる一歩手前のところで「別に仕事を辞めてもいいんだ」という選択肢があることを、社会における共通認識にしたほうが良いと思う。




このような逃げ道のあること、つまり「仕事が辛いから辞める」という選択肢を提示することを、世間では「甘え」と言うのは前述したところだ。

しかし、何が甘えなのだろうか?

おそらくだが、それは自分の経験を基準に考えているからだと思う。

例えば、新人が入社1年目で仕事で失敗して辞めると言ってきたとき、それを聞いた先輩社員が「自分も同じ経験をした。そのときは歯を食いしばって乗り越えた」みたいなことを言うが、それは時代によって状況や物量が異なる話もあるし、人間関係や社会のあり方だって全く違うだろう。

それなのに「自分のときは何とか乗り越えることができたから、他の人たちだって乗り越えることができる」と考えるのは乱暴だと思う。ましてその価値観を他人に押し付けるのはもっと乱暴だ。

むしろ、「仕事が辛いから辞める」というならば、次の職場や今後の人生に活かせるように、何が辛いのかを明確にしてあげて見送ったほうが当人のためになると思う。




このような話をすると、何だか物分かりの良い人だと言われることがあるがそれは違う。まして好かれたいと思われたいわけでもない。

むしろ、「仕事が辛いから辞める」という人たちの気持ちを理解してあげられないからこそ、今の仕事で不条理に苦しんでいる状況から解放してあげたほうが良いと思うだけの話だ。

そこでさらに努力して這い上がることもできるだろうが、それをするには現代は複雑で多様であるため厳しいと思う。

そこで社会人全員に対して「頑張れば報われる」みたいなことを説くのは、それこそ酷な話である。


とは言え、あえて退職希望者と話をして辛辣なことを言うこともある。

それは、自分で考えずに誰かの意見で仕事を辞めると言ってきたことだ。

私はその人が考えてきた選択肢として「辞める」というならば仕方ないと思うが、どこかの誰かにそそのかされたり、誰かの後押しで辞めることを言ってきたときは考え直すように言うこともある。

それは、他人の意見で仕事を辞めると、大なり小なり後悔するからだ。
特に他人というのは自分の意見を言っているだけで、仕事を辞める人の人生や生活に責任を負っているわけではない。無責任だから「そんな仕事辞めたら?」「その職場の✕✕はやばいよ」と見てもないのに言える。

このような他人の考えや意見ではなく、可能な限り自分の頭で考えたうえで辞めるという決意をしたならば、それは後悔しないはずだ。

一方、辞めることも含めて、今後の進退を考えるときには冷静な思考が求められる。そのためには、ちゃんと栄養と睡眠をとってクリアな脳で検討することとお勧めする。

すると、もしかしたら「元気になったら辞めるほどでもないと思った」となるかもしれない。まずは自分の心身を大事にしてから考えよう。


ここまで読んでいただき、感謝。
途中で読むのをやめた方へも、感謝。

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