見出し画像

「自分の時間を奪われる」という不幸と高齢者虐待を予防する

人間にとって時間は貴重である。

1日=24時間=1440分は、誰もが共通である。

本来、この時間の使い方は自由であるはずだ。

しかし、生きていると「自分の時間を奪われる」という事態が起こる。

時間を奪うのは状況だったり、環境だったり、他人だったりする。

時間を奪われることは、誰にとってもストレスを感じることであり、それによって生まれる不幸もある。

介護事業を営んでいる者の視点だが、高齢者虐待の原因の1つとして、介護をしている人たちが「自分の時間を奪われれている」という感覚を抱いているからではないかと考えている。




「何回同じことを言えばいいんだ」
「余計な手間を増やさないでよ」
「やることあるんだから、早く動いてよ」

仕事として介護をしている人たちでも、このような言葉が出てしまうことはある。当然ながら悪気はない。いや、プロとしてあってはいけない。

なぜ介護者がこのような言動をしてしまうのかと言うと、心身の消耗もあるだろうが、介護は時間感覚が麻痺してしまう労働だからだと思う。

実際、介護現場では時間帯によってやることが次々と生じる場面がある。そのような状況下で1人の利用者(高齢者)に余分に時間がかかったり、介助中に別の利用者が話しかけてくると、感情がザワつくようになる。

時間的に余裕があれば落ち着いて対応できるが、介護により現状の自分の時間をどんどん消費している状況や、眼前でやるべきことを阻害するように時間を奪われる状況が続くと感情的になってしまう。

このような心理は悪いことではない。時間という標準指標がある人間にとって時間的余裕がなくなると、感情的になるのは自然なことだ。




しかし、「自分の時間が奪われている」という感覚を放置してはいけない。

時間を奪われるという感覚が積み重なると、それは怒りや悲しみとして湧き上がっていく。そして、介護によって時間がなくなっている自分のことを不幸だと思うようになる。

そのような状況を不幸ではないと言うつもりはないし、介護はその大変さを考え方で解決できる問題でないことは誰でも想像がつく。

しかし、人間は自身を不幸だと思うと理性が衰えていき、その不幸の原因を断とうとすることがある。

――― そして、虐待という行為に発展する。

それは上記のような乱暴な言葉遣いであったり、肉体への暴力といった様々なカタチで表れる。

虐待という不幸を生まないためには、その原因の1つとして介護による「自分の時間を奪われている」という感覚を減らす必要があるのだ。




では、どうしたら「自分の時間が奪われている」という感覚を減らすことができるのだろうか?

それは「目の前のことに集中(没頭)すること」である。

私たちは今やっていることや、目の前で起きている出来事以外のことも脳内で考えてしまう。それが目の前のことに対して時間を消費しているという感覚になってしまう原因だ。

しかし、誰もが目の前で起きていることしか関われない。

例えば、介護においてはオムツ交換をしながら食事介助なんてできない。
入浴介助をしながら更衣(着替え)介助をできない。介護記録を書きながら、転倒事故を未然に防ぐことなんてできない。

これらは当然のことであるが、私たちは脳内で同時進行(マルチタスク)を繰り広げることができるがゆえに、目の前のことに没頭せずに「次はあれやってこれやって・・・」と考えたり、別な方の介助をしながら「〇〇さんが独りで歩いて転んだらどうしよう」と心配をすることもある。

しかし、介護のプロであってもスーパーヒーローではない。「あちら立てばこちら立たず」になることもある。

だからこそ、目の前にあるやるべきことを1つ1つ完遂させながら、私たちは前に進むしかない。やるべきこと1つ1つに適度に時間をかけることしかできないということを念頭におくだけだ。

もしも、自分が思っていたほどできなければ、それは自分の現在の力量を受け止めたり、現在の環境を見直したり、ときには他者との関りも変えるということも必要だろう。


――― 時間と感情は間接的につながっていると思う。

自分に合った時間への捉え方をすることで、自分の人生を穏やかに過ごせる可能性もある。

もしも、最近イライラするとか何をやってもうまくいかないと思うならば、もしかしたら「あれもこれも」と考えすぎて、自分のもつ24時間=1440分をオーバーしている可能性があると考えても良いかもしれない。

とは言え、24時間=1440分すべてをフルに使う必要もない。むしろ、どこかにちゃんと「間(ま)」を設けることも忘れてないでいただきたい。それもまた「自分の時間」であるからだ。


ここまで読んでいただき、感謝。
途中で読むのをやめた方へも、感謝。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?