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介護現場と事業経営を通じて得られた「利他」の精神

■ 「利他」とは何か?


「利他」という言葉がある。

これは京セラの創業者であり、日本航空(JAL)を再建した稲盛和夫氏が提唱していたことからご存知の方もおられると思う。

意味としては「自分のことより他人のこと」である。

何だか自己犠牲のような思われがちだが、これはあくまで結果論である。
いつの世も社会で成功している人は、逆説的な考えとして自分のことよりも他人のことを考えて行動している。

ビジネスにおいては、商品開発やマーケティングを進めるにあたり、「自分はこのような優れた技術があるから商品化するぞ!」と考えるより、「世の中は何を求めているだろう?」と考えたほうがヒット商品になりやすい。

人間関係においては、自慢話のような自己アピールや自分の価値観ばかり押し付ける人よりも、他人を責めることなく他人の話に耳を傾けて、その人の考えを尊重してくれる人のほうが印象が良い。

つまり、物事を良い方向に向かわせたいならば、まずは直接的または間接的に関わる他人のことを考えることが第一歩となる。少し大袈裟な言い方をすると、他人が幸福になれるような行動を選択するということでもある。


■ 「利他」は損なのか?


このようなことを言うと「自分が損をするのでは?」と考える人がいる。

他人のために行動することで、その他人は幸せになれるかもしれない。
しかし、そのために自分にとっての貴重な時間や労力を消費するのは、何だか損をした感覚になる。そう言いたいわけだ。

しかし、それは他人のために行動したことがない、あるいは他人のために行動している最中だからそのような疑念を抱くのだと思う。

実際に他人のために行動した後、本当に損をした気になるのかと言えば、そこまで損をした気にはならない。

もちろん、他人のために行動したことによって損害を被ったり、失敗したり、理不尽なことを言われることだってある。

しかし、自分の利得のために行動したときよりも、他人ために行動したほうが気持ちは良いのは確かである。おそらくこれが、世間で言うところの”やりがい” と呼ばれるものだと思う。


■ 「利他」の精神の養い方


とはいえ、自分と言う存在を大切にしたい気持ちも分かる。

「人間は結局のところ孤独なのだ」という考えも理解できる。
なるべく利得は多く、損は減らしたいという考えだって当然だ。

しかし、実際には「利他」の精神のほうが良い結果につながる。

――― では、「利他」の精神はどのようにすれば養われるのか?

それは単純な話で「他人のために行動する」を「続ける」こと。
ポイントは、行動を「続ける」ことだ。


■ 介護という「利他」な仕事


抽象的な話ばかりで申し訳ないが、他人のために行動することを続けていると、自分は社会の一員であるという実感が得らえれる。

これは介護サービスという事業をしていて、あるとき得られた感覚だ。

介護の仕事は、高齢者という他人の肉体に触れたり、会話をしたり、生活環境に立ち入ったりと、他の仕事よりも深めに他人のための行動をする。

当人だけでなくご家族ともやり取りをする。すると、ご家族でも対処しきれない介護という役割を代行していることや、それによりご家族の介護負担を減らしていることにつながっていると気づく。

また、事業経営という立場からも、介護の仕事が介護保険制度といういわゆる税金によって事業が成立していることも分かるし、市役所などの行政が事業の基盤を作ってくれているということも分かる。

――― と、少し話が大きくなってきたが、高齢者という他人のための仕事を続けていること、そして事業経営という視点も相まって「ああ、自分は社会で活かされているのだな」と分かったという話だ。


■ ”利己”から「利他」への変化


介護という「利他」にならざるを得ない仕事を、現場としても経営としてっも続けていると、それまでの”利己”な考え方のままではいられなくなった。

「利用者(高齢者)のため」から「ご家族のため」と考えると、次に「職員のため」に目を向けるようになった。

スキルアップやキャリアアップ、仕事への充足感、職場環境の改善・・・こういったことを考えることも、ある意味で「利他」かもしれない。

以前ならば「成長とは自分で勝手にするもの」「自分のキャリアは自分で作るもの」と考えていたが、最近は「成長や将来の”きっかけ作り”は会社の役割」「成長を楽しめる仕掛けをしよう」となど思うようになり、昨年から企画を進行している。

そうして、結果的に介護職員たちが「自分たちも面白いことをしたい!」「得られたスキルを現場で活かしたい」「利用者のために企画したい」と思ってもらえるような循環を作りたいと思っている。

今度は、介護職員が利用者やご家族へ「利他」の精神をもっていければ良いと思っている。

もちろん、すでに誰もが「利他」の精神をもって介護業務に励んでいる。しかし、どこかで「こんなことをやって変に思われないか」「当たり障りなく1日の業務を済ませよう」といった利己的かつ保守的な考えがある。

それはそれで別に構わないが、せっかくの貴重な1日および人生を、利己的に終わらせるのはモッタイナイと思う。


――― 「利他」を強制するつもりはない。

いや、そもそも「利他」は強制されるものではなく、自発的なものだ。

しかし、「利他」を1ヶ月で良いので意識的に続けてほしいと思う。

別に他人の話を聞き続けるとか、仕事でお客様視点になれとか言うつもりはない。それはそれで良いが、もっと簡単なことで構わない。

例えば、職場や公共トイレの洗面台を使ったら、備え付けのペーパータオルで簡単に拭き取ることでもいい。

むしろ、直接関わる誰かのためにと考えるとしんどいので、このような誰も見ていない程度のことから始めたほうが良いだろう。

すると、徐々に「もっと他人ために何かしたいな」と利他の精神の土台ができていく。あとは「利他」を続けていくだけだ。

すると、”利己”ばかりで苦しんでいた自分の生活が、少しず彩りを増していくのではないだろうか。


ここまで読んでいただき、感謝。
途中で読むのをやめた方へも、感謝。

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