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「減算」というペナルティは、果たして介護事業所の是正に有効なのか?

■ 「事業を営む=法令遵守」


介護サービス事業は、大抵の場合は介護保険制度によって行われている。
介護保険制度のもと、国および市町村が定める運営規定や通知文などに則り、介護事業所や介護施設は運営される。

――― もしも、これら運営規定や通知文に準拠せずに事業運営がなされていたらどうなるのか?

それは適切な処罰が下る。「事業を運営するならば、この基準を守ってくださいね」と言われているのに、それを守ってないのだから当然だ。

とは言え、よほど悪質な場合を除いては、いきなり事業休止や廃止といった処罰にはならない。それは運営規定や通知文などは複雑であるため、理解不足や解釈の認識違いも起こり得るからだ。

また、このような事態を防ぐためにも、介護保険課などの市町村の担当部署では介護事業の運営に関して質問や相談を受け付けているし、6年に1回程度に調査員が訪問しての運営指導(旧 実地指導)も行われる。

この手のやりとりを面倒事や苦手とする事業所も多いかもしれないが、個人的には事業所を整備する機会になると考えている。

介護事業に限った話ではないだろうが、事業を営むとは法令を守るということと同義でもあるのだ。


■ 「加算」と「減算」


上記でもお伝えしたように、よほど悪質でない場合を除いては重い罰則を受けることはほとんどない。

運営指導などで指導を受けたならば、それに準じて改善すれば事足りる。

しかし、事業運営とは難しいもので、指導内容が的確かつ改善事項が具体的あっても、即座に整備できないことがある。

介護保険制度では、事業所の体制によって基本報酬に対して「加算」または「減算」という算定を行うことができる。

介護サービスでは基本報酬(売上単価)が国によりほぼ一律に定められているが、手厚いサービス提供を可能とする体制にすることで「加算」が算定できる。

一方、運営要件を満たすことができない、または介護保険制度の趣旨に適合しない部分に対して「減算」という措置を受けることになる。

運営要件を満たすことができない場合、それはある意味で法律違反ではあるものの、地域や事業所の規模によっては「減算」として申請することで一応事業を継続することはできる。


■ 同じサービスをしているのに「減算」


「減算」という措置を受け入れた事業所は、それでも事業を継続することはできる。
ただし、介護報酬に対して一定率(70~90%)をかけて請求することになる。それは売り上げが落ちるということになる。

これは例えば、運営基準をちゃんと満たしているA事業所と同じサービス内容を、運営基準の一部を満たしていない(減算を申請した)B事業所が行った場合、事業所の体制が整備されていないという理由で売り上げが落ちるということでもある。

同じサービスを提供しているのに変な話だと思われるかもしれないが、そういう制度なのだから「そういうものだ」と言うしかない。

これは別に制度や法令を批判しているわけでなく、そもそも運営基準の一部を満たしていないわけだから、ちゃんと整備されているA事業所よりもB事業所のほうがサービスの質が劣っているとして減算されるのは仕方ないという見方もできる。


■ 減算というペナルティに意義はある?


ただし、ここで疑問なのは「減算」というペナルティは、その事業所の体制の是正として有効であるか? ということである。

現在は「減算」措置を受け入れたとして、そこから「今は減算を受けているけれど、何とか体制を整備して通常の介護報酬にしよう」と持ち直すことにつながるのだろうか?

これは可能と言えば可能である。しかし、減算を受けている事業所がそこから体制を整備するにはそれなりの資金が必要となるだろう。

現行の減算の対象をご覧いただければ分かると思うが、特に人員基準を適正にしようとすると人件費という大きな費用は必至である。また、同一建物減算を完全に免れようとするならば、極端な言い方をすれば事業所を引っ越しするという話になる。

こういった体制整備のための資金を捻出しようとなったとき、そもそも減算措置を受けて売り上げが通常より低いという事実がある。となると、金融機関からの借り入れなどを要することになる。それはつまり、毎月の返済が増えるということになる。

長期的に見れば事業改善になるかもしれないが、「事業所を適正化する」というよりも「減算措置を免れるためにお金を借りている」とも言える。

つまり、減算というペナルティを経営視点で見れば、減算措置を受けている事業所が運営基準に即した体制に是正されると考えると、その確率は非常に低いという見解になってしまう。


――― 介護保険制度ができてから20年以上経過しているわけだが、改訂のたびに思うのは制度を構成するための思考が、まだまだ時代に追いついていないということだ。

いや、時代に追いついていないというより、制度を検討している間に時代がどんどん変化していると言ったほうが良いかもしれない。

少子高齢化や介護人材の担い手不足などに配慮しているし、ICTの活用により業務負担や人手不足の補佐をしようとするのも分かる。

しかし、国が考える医療・介護福祉の展望を見ると、まるで現実から目を背けてたまま理想を語っているようだ。

また、悪質な事業所があるから制度が締め付けされる側面はあるだろうが、運営基準にしっかり適合しようとするには、ほとんどの介護サービス事業所に体力は残っていないと思う。

「減算」という制度が悪いというわけではないが、ここで考えてみていただきたい。果たして人間という生き物は、ペナルティを課せられることで成長を促せるものなのか? ということを・・・。


ここまで読んでいただき、感謝。
途中で読むのをやめた方へも、感謝。

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