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西武・蒼空ユニが示す「ライオンズブルー新世紀」【新ユニウォッチ2023】

プロ野球界では毎年新作ユニフォームが発表されている。
一体、誰がユニフォームを見張るのか?
一体、誰がユニフォームを“ウォッチ”するのか?

ということで、2023年シーズンに向けて新たに発表されたユニフォームを球団ごとに紹介する。

今回ウォッチするのは、埼玉西武ライオンズの夏季イベント「ライオンズフェスティバルズ」にて着用されるユニフォーム、通称・「蒼空ユニ」

引用:埼玉西武ライオンズ

毎年恒例となっている埼玉西武ライオンズの夏季イベント「ライオンズフェスティバルズ」
それに合わせて用意される特別ユニフォームは、イベント開催期間がおよそ1ヶ月ほどの長期に渡る(=特別ユニフォーム着用試合が他球団に比べて多めである)こともあって注目度が非常に高い、というのが特徴だ。

また、「炎獅子ユニ」「獅子風流ユニ」「令王ユニ」「彩虹ユニ」「WILD WILDユニ」といったように、それぞれのコンセプトに基づいたニックネームが付けられるのも一つのお楽しみポイントとなっている。

2023年モデルは、「所沢の空」のイメージをコンセプトに、全身にライオンズブルーをあしらっていることから「蒼空ユニ」と名付けられた。

NPB版シティ・コネクト・ユニフォーム

「全身ライオンズブルー」というパッと見の見た目から、多くのファンは「恒例のライオンズブルーだ!」という印象を抱いたのではないだろうか。

現に私も、まず一番には「絵に描いたような『ライオンズブルー+埼玉西武デザイン』だな」という感想を持った。
過去、西武の新ユニフォームを予想するにあたってそのようなコンセプトでアレコレ妄想を膨らませていたこともあり、「それを球団が本当にやった感じかな」と思ったのである。

引用:ライオンズブルー復活の道を探る特集

しかし、球団公式のイベント特設サイトでは、今回の「蒼空ユニ」について以下のように説明している。

ライオンズブルーを基調としたデザインで、遥か彼方まで晴れ渡った夏の青空を表現。
飛行機雲を想起させる埼玉西武ライオンズ初の「ピンストライプ」を採用。

これを見る限り、「蒼空ユニ」を語る上で重要なのは「ライオンズブルー+埼玉西武デザイン」であることよりも、「所沢の空」や「飛行機雲」をイメージしたユニフォームである、という部分だろう。

西武の本拠地・所沢と言えば、1911年に日本初の飛行場が建設されたことから、日本における「航空発祥の地」と呼ばれることで知られる。

このことに着想を得て(かどうかは公式のコンセプトでは明言されてはいないが、おそらくこの解釈で間違いないだろう)、上下ライオンズブルーで「所沢の空」、ピンストライプで「飛行機雲」を表現した今回の「蒼空ユニ」。

このように考えると、どうしても連想するのがMLBがナイキ社との共同企画として展開している「MLBシティ・コネクト」シリーズだ。
「シティ・コネクト」シリーズとはその名の通り、各チームの本拠地になっている都市の文化や歴史、地域性にフィーチャーしたデザインのユニフォームを着用するもの。

オレンジカウンティのサーフカルチャーをデザインに落とし込んだロサンゼルス・エンゼルスや、ロッキー山脈を模したグラフィックを大胆に配したコロラド・ロッキーズなどが特にわかりやすい例。
今回の「蒼空ユニ」は、まさしくこれの西武版(あるいは所沢版)とも言うべきユニフォームだ。

先述したように、どうしても「上下ライオンズブルー」という部分に意識を持っていかれてしまいがちではあるが、
今回のライオンズブルー採用はあくまで「所沢の空」を表現するための「手段」であり「目的」ではない、ということがキーポイント(この「目的」については章を分けて後述したい)。

また、「所沢の空」や「飛行機雲」を表現するために採用したのが「上下同色+ピンストライプ」というのがとにかく素晴らしい。

下手をすれば「まんま空、まんま雲」なグラフィックやイラストをあしらってしまいそうところだが、あくまで野球ユニフォームデザインの方法論に忠実な形で表現している。

「下手をすれば〜」のイメージ。
このユニフォーム自体はあくまで来場者配布限定のものなので殊更にアレコレ言う気はないが、
こういうのを嬉々として試合用ユニフォームのデザインにしてしまいかねない雰囲気がNPBの一部球団にはある。

「上下同色」も「ピンストライプ」も、野球ユニフォームの要素として珍しいものでは全くない。

だが、「上下ライオンズブルー+ピンストライプ」という組み合わせそのものの新鮮さ(ピンストライプの採用は西鉄時代以来、埼玉移転以降では初)に加えて、そこに「所沢の空」「飛行機雲」というオリジナリティ溢れるストーリー性を落とし込むことで、完全な「唯一無二」を実現させている。

SNS上では「黄金期ビジターにピンストライプ入れただけ」という声も見かけた。
確かに、やってることは“それだけ”だ。
しかし、そこに宿るものは“それだけ”ではない。

昇華プリントという大きなハンデはあるものの、現状「年間ベスト級」と言っても差し支えない良作ユニだと思う。

因みに、「上下同色のユニフォーム」はMLBではもちろんNPBでも近年トレンドになりつつある要素である、という点も重要なポイントだ。
今回の場合は「黄金期ビジターのオマージュ」という見方もできるが、そう言った「過去へのリスペクト」が最新のトレンドとリンクするのは、まさに野球ユニフォームならではの面白いところと言える。

ライオンズブルー新世紀

ところで、西武球団は、2009年にチームカラーが「ライオンズブルー 」から「レジェンドブルー」に変更して以降も、様々なイベントにかこつけてことあるごとに「ライオンズブルーのユニフォーム」を選手たちに着せてきた。

復刻企画である「ライオンズクラシック」では2008-2022年の間に開催された全9回中4回がライオンズブルー時代の復刻であったことに加え、「ライオンズフェスティバルズ」でも2018・2019年モデルはライオンズブルーが基調。
2シーズンに渡って着用した70周年ユニは、ライオンズブルー時代のユニフォームをベースに作成されたものだった。

引用:ライオンズブルー復活の道を探る特集

なぜこういったことが起こっているのか。
…なんてわざわざ言うまでもなく、「未だにライオンズブルーの人気が根強いから」に他ならない。

端的に言えば「オールドファンへの目配せ」。
嫌な言い方をすれば「おっさん接待」「ご機嫌取り」「忖度」。
これらのライオンズブルー採用はそういう需要に応えることを「目的」として行われているものと言える。

(もちろん「栄光の時代にあやかって」「歴史へのリスペクト」という意味合いも多分にあるだろうが、それ“だけ”にしてはちょっと頻度が高すぎると思わざるを得ないのが現状)

こういった流れがある以上、今回の「蒼空ユニ」もまた「そういうユニフォームの一つ」「恒例のやつ」として見られてしまうことは必然かもしれない。
よりによって黄金期ビジターと同じく「全身ライオンズブルー」なのだから尚更だろう。

しかし、前項でさんざっぱら語った通り、今回のライオンズブルー採用はあくまで「所沢の空」を表現するための「手段」である。
シティコネクト的なコンセプトを重ねることで、ライオンズブルーに「ファンへの目配せ」以外の新たな意味・意義を付加しているのだ。

そしてこれにより、「ライオンブルーを採用すること」をこれまでの「ライオンズブルー/レジェンドブルー対立抗争」の呪縛から解き放った
…とまで言うのは流石に大袈裟かもしれないが、この連綿と続く不毛な議論から一歩抜け出す道標を示しているような感じがして、非常に好感が持てる辺りである。

思えば、今季からの新しいホームユニフォームも、レジェンドブルーとライオンズブルーを組み合わせ、「白獅子ユニ」という新しいブランディングを打ち出している。
「白獅子ユニ」、そして今回の「蒼空ユニ」が指し示す、ライオンズブルーの新しい可能性に期待したい。

ちょっと小言

基本的には大絶賛したいユニフォームなのだが、所々言いたいこともあるので最後に付け加えておく。

  • ストッキング見せて
    発表会に登壇した選手やメインビジュアルに出演している選手の誰もストッキングを見せた着こなしをしていないのが引っかかる。
    ストッキングのデザインもユニフォームデザインの大事な要素(特に上下同色のユニフォームはストッキングによって印象が大きく変わりがちだ)。「ユニフォーム発表」の場においてそれを見せないというのは正直頂けない。


  • ヘルメットのツバ縁ラインやめて
    このnoteでは何度も言及してきたことだが、やっぱりヘルメットのツバ縁にラインを入れるのはやめてほしい。
    馬鹿みたいな言い方だが、はっきり言って全然かっこ良くないのだ。
    このように自信満々に言われても、カッコよくないものはカッコよくない。

以上、『西武・蒼空ユニが示す「ライオンズブルー新世紀」【新ユニウォッチ2023】』でした。ありがとうございました。


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