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私の読書遍歴(1)

画像出典:https://pixabay.com/ja/users/pok_rie-3210192/

諸般の事情で、ずいぶんご無沙汰してしまいました。本日から再開ですが、だいぶ間が空いたので、まずはリハビリとして、私の読書遍歴を書いてみたいと思います。おいおい、ビジネスねた、社会ねたにも復帰していければと思っています。

1.小学校以前

 これは読書といってよいのか分かりませんが、本との最初の出会いは、父が買ってくれた『鉄腕アトム』の単行本でした。雑誌連載されていたマンガがコミック本として出版されていますよね。あれに相当するものが当時もあって、それを父が買ってきてくれたのです。私は読み書きを覚えるのが早く、小学校に上がる前から、フリガナがふってあれば、小中学生向けの本を読むことができていました。

 『鉄腕アトム』には魅了されました。素晴らしいドラマ性と人物造形は、子ども心にも響きました。そして、差別の撤廃と平和の希求というメッセージも、確実に伝わってきました。私は、戦後民主主義教育で育った世代にあたると思いますが、そこでの価値観と『鉄腕アトム』のメッセージには響き合うものがあったと思います。

 父が次に買い与えてくれたのは、ジュール・ヴェルヌの『海底二万マイル』を児童向けに書き下した本でした。父は、子ども時代に『海底二万マイル』を読みたくてたまらなかったのに手が届かなかったと言っていました。 
 父は昭和初期に多かった、いわゆる「貧乏人の子だくさん』家庭で育ったので、欲しい本を十分に手に入れることができなかったのです。
 『海底二万マイル』の本を買ってもらった前後に、同作の映画にも連れて行ってもらいました。ただ、小説と映画の後先の記憶は曖昧です。

 私は、今でもSF的なものに強く惹かれるところがありますが、それは『鉄腕アトム』と『海底二万マイル』の影響ではないかと思っています。

2.小学校時代

 
 小学校の図書館には、ジュール・ヴェルヌの小説が揃っていました。父が買ってくれた『海底二万マイル』と同じく児童向けに書き下したシリーズです。

 私は、それを全巻読破したはずなのですが、確かに読んだという記憶が残っているのは、『空飛ぶ戦艦』と『八十日間世界一周』だけです。『八十日間世界一周』の主人公、フィリアス・フォッグが冷静・科学的・合理的であると同時に人間を思いやる温かい心を持っていることに、子どもながらに惹かれた記憶があります。『空飛ぶ戦艦』の方は、挿絵が記憶に残っているだけで、中身は忘れました。

 小学校は6年間もあったのに、ハッキリ記憶に残っているのは、このヴェルヌのシリーズと、もう一冊、中学生向けで、さすがに難しいと思った、一冊のSF小説だけです。

 それ以外は、夏休みに読まされる課題図書がつまらなくて、にもかかわらず感想文を書かなければならないことにウンザリした記憶しかありません。この思い出から、私は、本というのは、人からこれを読みなさい、あれを読みなさいと言われて読むものではないという感じを強く抱いています。

3.中学時代

3-1.三人の短編作家
 

中学時代、次の三人の作家については、新潮社が文庫化していた作品を、すべて読んだと思います。

*星 新一
*オー・ヘンリー
*サマセット・モーム

長編より、短編が好きだったのです。

 星新一のショート・ショートの切れには、しびれました。それだけでなく、一部の作品にみられる残酷なリリシズムのようなものにも、思春期の入り口にあった私の心は敏感に反応したものです。
 
 オー・ヘンリーは、ただもう、面白いのひとことでした。彼は、ストーリーテリングの天才ですね。

 サマセット・モームは、時に辛らつだったり、時にユーモラスだったりする筆致で、人間性への深い洞察を語る作家です。年齢的にまだ理解できないことの方が多かったのですが、ここには何か大切なものがあると感じることはできました。
 
 中学二年生のときに、東京都主催で、自分で本を選んでよい読書感想文のコンクールがありました(私は、当時の東京都西多摩郡に住んでいました)。
 どうせまともに相手にされないだろうしと思いながらモームの短編を選んで、「人生では、努力より運がモノをいうものだ」という、健全な中学生にあるまじきことを書いて――その作品がそう読み取れる内容だったからですが――提出したら、これが入賞したのには、驚きました。粋な審査員がいたものです。

3-2.辻邦夫『背教者ユリアヌス』との一瞬の出会い

 
 粋なはからいといえば、都が主催する国語の共通テストに出てきた小説の一節に無茶苦茶に感動したことがありました。これが辻邦夫の『背教者ユリアヌス』のラストシーンだったということを、大学生になってから知るのですが、共通テストに『背教者ユリアヌス』というのも、イカしていると思います。 
 後で触れますが、『背教者ユリアヌス』は、私の大学時代の愛読書のひとつです。

3-3.遠藤周作


 当時、遠藤周作のユーモア・エッセイ『狐狸庵先生』シリーズが流行っていて、これにもハマって、ずいぶん読みました。こちらは、新潮文庫ではなく角川文庫だった気がします。
 勢いで遠藤周作の本格的な小説も読もうと思い立ち『沈黙』に挑戦したのですが、さすがに、これは背伸びが過ぎた。読み通すのがやっとでした。

3-4.アリステア・マクリーン『女王陛下のユリシーズ号』


 実は、長編小説でハマった作品がひとつだけあって、それはアリステア・マクリーンの『女王陛下のユリシーズ号』です。海洋冒険小説ないし戦争小説に分類される作品です。
 航空母艦の発進甲板をめくってしまうような激しい波濤(というのは、さすがに小説的誇張だと思いますが)と視界を完全に奪う吹雪が支配する北の海で、低速の貨物船団を守ってドイツ軍の潜水艦と航空機と激烈な戦いをくり広げる乗組員たちの姿に興奮したものです。
 今の私は、戦争を娯楽のネタにするのはけしからんと思っているのですが、『女王陛下のユリシーズ号』は、もう一度読み直してイイかな……と、ひそかに思っています。


3-5.新潮文庫目録

 
 新潮文庫がらみで、もう一つ愛読書があって、それは、海外小説の目録です。新潮文庫が取り上げている全作品の概要を簡潔に記載したもので、これを読んで、実際には読んでいない本もなんとなく知っている気になっていました。

 薄っぺらな知識と言ってしまえばそれまでですが、それでも、なかったより、あってよかったと私は思っています。というのも、その後、なにかの折りに自分が読んでいない小説の話が出ても、ともかく話についていくことができたし、そこで興味が湧けば、実際に読んでみることもできたからです。

 そういう意味では、若い人たちが何でもネットで手軽に情報を手に入れようとすると言って目くじらを立てる必要は、あまりないように思います。ともかく、まったく知らないよりは、何かしら知っている方が良いのです。ただし、自分が知ったかぶりをしているだけだということを忘れなければ、という条件つきですが。

4 高校から浪人時代


 諸般の事情で、この期間は私には暗黒一歩手前の時代だったので、充実した読書の記憶は、あまりありません。

 はっきり覚えているのは、受験勉強からの逃避で井上靖の西域物に読み耽ったことです。

 国語の授業で夏目漱石『こころ』の感想文を書かされ、それが教師から褒められたような記憶があります。
 『こころ』と言えば、何年か前に読み直す機会があって、ミステリー小説として読めることに気づきました。これについては、また、別の機会に触れてみたいと思っています。

 セシル・スコット・フォレスターの『ホーンブロワー』シリーズを読んだのがこのころだったか、大学に入ってからだったか、ちょっと記憶が定かでありません。


 第1回は、ここまでとします。この後、大学から社会人初期の間に、今の自分の社会と組織に対する考え方の基礎を作った重要な作品との出会いがありました。アメリカ留学中にも、現在の考え方の基礎となっている本と出会っています。四十代は、悩み多き時代で、人生で初めて漱石以降の日本文学を、全てではないですが、深く読み込みました。
 以上について、第2回と第3回にわたって、作品の内容にもやや詳しく触れながら進めていきます。

 ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。

〈次回はこちら〉


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