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この夏は一度きり、球児にも、お年寄りにも、誰にも

「わぁ、みんな、すっごく嬉しそうだよ!」
「ニッコニコだ!」

りこちゃんと こざる達は、いつものように皆で一緒に楽しく夕飯を食べて、
ニュースを見ながら、食後のお茶を飲んでいます。

「新型コロナウィルスの影響で、春の甲子園の大会、高校野球の選抜大会が中止になっちゃったけれど、
少しでも何か代わりになるものをって、夏に交流試合大会をやることになったんだ。」

皆が見ているのは、満面の笑みの球児達です。

「坊主頭が笑ってるよー。」
「いい笑顔だね!」
「うんうん。」
りこちゃんも嬉しそうです。

もちろん いつもの大会とは全く違います。
交流試合で、各校一試合、無観客などなど、沢山の制約があります。

「それでも甲子園で野球ができるんだよ!」
「この為に、ずっとずっと小さい頃から練習していたんだもんね。」
「高校生の この夏は二度と戻って来ないから。」
皆、うんうん頷きます。

「球児達の甲子園は、ものすごく特別だし、この時、この夏は 二度とないけれど、
でも 二度とないのは、どの年代の どの人達も同じだよね。」
「あ! そうだね、20代だって、30代だって、40代だって、りこちゃんみたいに80代だって、
今のこの時、今日は今日しかないんだよ。」

だから よく一日一日を大切に、と言います。
今日という日は二度とないのだからと。

「もちろん 高校球児達の夏は二度とないけれど、りこちゃんと過ごしている今日も二度とないんだ。」
こざるちゃんが 小さい声で そっと言います。

こざる達の知人のお母さん、りこちゃんと同年代なのですが、
そのお母さんが、ごく最近、老人ホームに入居しました。
その前に、体調を整えるつもりで、ちょっとだけ入院しました。
そのつもりでしたが、2週間ほどの入院生活で、お母さんは別人のようになってしまいました。

「高齢者は、大きな環境の変化に身も心もついていかれない、対応できないんだよ。」

そして、そのまま施設に入居しました。
今は 面会を制限しているので、長い間会うことは出来ず、
それでも玄関で会うことができるようなのですが、
その知人は、今の老人ホームの環境に慣れた方がいいからと、
自分が会いにいくと、家に帰りたがってしまうかもしれないからと、できるだけ会いに行かないようにしています。

「でもね、僕たちは、たとえ5分でも 会いに行った方がいいんじゃないかなって思うんだ。」
「今日という日は二度と来ないからね。」
「高齢者だからこそ、子ども達とは別の意味で、一日一日が貴重なんだよ。」
皆、うんうん頷きます。

けれども こざる達は、そう伝えることができずにいます。
皆、それぞれの考え方があって、どれも間違っていないのだと思います。

「会いたい時は 難しいこと考えずに、会いに行けばいいのになぁ。」

カキーン!

「あ! ホームランだ!」

テレビでは、夏の大会に向けて、球児たちが嬉しそうに練習しています。

「すごくいい大会になるね。」
「りこちゃん、楽しみだねー。」
「そうねー、楽しみだね!」

とても思い出深い大会になるはずです。

今夜も、こざるカフェは ゆっくりゆっくり
のんびり 穏やかに時間が流れていきます。

読んで下さって、どうもありがとうございます。
いよいよ梅雨本番です。体調を崩されませんように。
よい毎日でありますように (^_^)

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