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《デジカメUX小説》MODE(後編) 私の光跡

この小説には、前のストーリーがありますのでそちらからお読みください。
MODE(前編) ビー玉レンズ


銀座 MODEで簡単撮影

今年の春はときどき夏の様に暑い日がある。そんな日に美智瑠はカメラを持って出かけるのがいつも楽しみだった。

大学の入学式も終わり生活にリズムができていた週末、銀座の大きな交差点に立ち東西南北を見るとビルで切取られた表情の違う絵画のようだと美智瑠は思った。入道雲がまるで高いビルの額縁から見える純白の石膏彫刻のようだった。

美智瑠は雲ばかりを撮っているMODEを以前見たことを思い出し、アプリで検索して「MODEを入手(Get MODE)」ボタンを押した。それと同時にカメラの液晶に新しいMODEが取り込まれアニメーションとメッセージが出てきて撮影できる状態になった。
(最近気づいたのだがコミュニティからMODEをダウンロードするときはアプリ画面への取り込みアニメとカメラとの同期アニメがちゃんと連続した動きになっていた。ちょっと感動!)

そのままレンズを向けてシャッターを切る。
カシャッ、青い空に抜けるような音を響かせて切取る世界は心地よかった。

雲を撮るのは初めてだったけど美智瑠が感動したのと同じように入道雲の彫刻的な陰影が見事に表現できた。まだ作品を撮るところまで使いこなせてはいないがMODEのおかげで撮りたいものをしっかりとることができるようになっていた。


立川 MODEを選択して撮影

美智瑠は写真好きの友達と立川にある大きな公園へ遊びにきていた。受験勉強に苦しんだ美智瑠にとって大学一年のゴールデンウイークがこれほど開放的な気分になれるのかと思うほど幸せな気分だった。
アニメで見たことがあるモノレールを横目で見ながら美智瑠は「青春だ」と心の中で叫んでいた。

この公園はお花畑で有名でみんなで写真を撮るのを楽しみにしていた。美智瑠は授業のある日でも大学の中や自転車での行き帰りに気になるものがあれば写真を撮っていたが、わざわざ写真を撮りに行くのは初めての経験だったのでカメラとスマホの充電をしっかりして(予備のバッテリーも)準備万端で待ち合わせ場所に向かった。

公園の入り口からお花が沢山咲いていて撮りたくなったが、奥に行くともっと凄いのがあるからと説得され後ろ髪を引かれつつ付いていくと、いきなり視界が開け大きな広場にお花畑が広がっていた。

「さあ、好きなだけ撮っていいよ」そう声を掛けられたが美智瑠は本格的な撮影というものをやったことが無かったのでどんな風に撮れば良いのか分からなくなってしまった。そしてそこには大きなカメラを構えた人たちが沢山いた。

何事にも挑戦することが好きな美智瑠はとにかくオジサン達に交じって撮影を始めてみることにした。

まわりのカメラマンがどんなところを撮っているかチラチラと気にしつつ何枚か撮ってみたけれど似たような感じばかりで味気ない。せっかく感動的なお花畑なのに上手く撮れない。とにかくアプリで花のMODEを探して片っ端から撮影してみる。

可愛く撮れるものから、ドラマチックな印象のものまで本当に色々な表情の写真が撮れた。

みんなに見てもらったら「これが好き」とか「あれが好き」とかワイワイ盛り上がった。「美智瑠が一人でこれ全部撮ったの?」と聞かれたのでMODEアプリを見せてネタ晴らしをした。

「でも凄いよ、初めての撮影でこれだけ表現ができるんだもの」皆に褒められて何だか嬉しいような恥ずかしいような気持だった。

美智瑠自身も同じ被写体に対してMODEを変えながら撮ったのは初めてだったので写真ってこんなに沢山の表現ができるのかと改めて奥深さを感じたのだった。

「ありがとう作者さんたち、ありがとうMODE!」


設定を変更

立川の撮影会でMODEを切り替えることで表現の幅広さを知った美智瑠は、今度は自分でも何か表現できるようになりたいと思うようになっていた。

MODEはブラックボックスのように中身が見えないのではなく、見ないでも使えるようになっているだけで、簡単に中の設定を見ることができ変更することできるとアプリのカメラガイドに書いてあった。

美智瑠は全ての設定の役割は理解できていないが、露出補正やホワイトバランスなどの設定がMODEによって違うことが少しずつ分かるようになってきていた。

カメラに詳しい人に聞いてみるとMODEの中身を変更する操作はこれまでのダイヤルやメニューで操作するのと同じだと教えてくれた。

(なんだ、最初にMODEを使った表現から始めたので独特なものだと思っていたけど、これまでのカメラの設定をMODEという形にまとめただけだった)

そのことを知ってから美智瑠は積極的にMODEの設定を変更するようになった。もちろんまだ思い通りに表現できなくて他の人が作ったMODEに頼ることも多かったけど、そんなときでも積極的に中身の設定を見るようになったのが最近の成長の一つである。

今度カメラマンが集まる撮影スポットにいったらどんな設定で撮影したらいいのか大きいカメラを持っているオジサンたちに聞いてみようと思った。美智瑠は自分のカメラと世の中の沢山のカメラが繋がっていることが何だが嬉しかった。


軽井沢 MODEを作る

大学での初めての夏休みにこんどは軽井沢へ旅行にいくことになった。夏と言っても軽井沢の夏は空気が澄んでいて湿度の高い東京の夏とは全く違っていた。

美智瑠が良く使うMODEに美容院のお姉さんが作ったMODEがあった。明るくて透明感が感じられるクールな雰囲気が好きだった。今の季節の軽井沢を表現するのにちょうど良いと思った。このMODEはいつも使っているのでスマホを開かなくてもカメラのダイヤルを合わせるだけで小さな丸いアイコンが画面に現れた。

「やっぱりちょっと肌寒いな」そう感じた美智瑠は最近覚えたホワイトバランスを変更し少しだけ青みをましてみた。

お姉さんが「なにか感じたことを理由にして、何でもいいから設定を変更してみること。そしたら表現したってことになるんだよ」と教えてくれたのをきっかけに、設定を変えることが怖くなくなっていた。

クルクル、カシャッ。美智瑠の撮影にもう一つ新しいリズムが加わり、美容院の雑誌で出会ったMODEによって、世界が少しだけ広くなったのを感じた。


誰かに届け

逆光でアップで写した蜂蜜ショップの看板は、青い空気の中で蜂蜜のオレンジが映える軽やかな空気を上手く表現できていて美智瑠のお気に入りの一枚になった。

少し遅めのランチのときに「軽井沢にて。まだ肌寒いけど気持ちいい。太陽にカメラを向けてパシャリ。」と短いコメントだけ載せた初めてのMODEを投稿した。この場所からシェアすることが自分にとっての記念になると思ったからだった。

ランチの後は予定していたちょっとキツ目のハイキングでカメラ片手に汗が出るほど一生懸命歩いた。森を抜けた展望台に登った時には皆んなで歓声を上げた。

そこでスマホを立ち上げるとMODEアプリに通知マークが表示されていた。何だろうと開いてみると美智瑠のMODEがダウンロードされもう何人か写真を撮ってシェアしてくれていた。いろいろな場所で撮られた写真たちが一つのMODEで繋がり静かに会話している感じがした。

美智瑠は展望台からの風景をもう一度このMODEで撮影してアップロードした。


あれから

初めてのMODEのシェアはSNSで慣れているテキストコメントを付けて作ったけど、撮影時に実況動画と音声を残してくれるPhoto-Log機能(写真撮影のVlog)とうのがあるらしいので、もう少し撮影に慣れてきたら美智瑠も挑戦するつもりだ。

そしてもう一つビックリするような出来事があった。先日お姉さんに誘われて『MODE職人』と呼ばれる人たちのサークルに参加することになった。とにかく芸術性の高い作品を撮ることに夢中な人から、分かりやすい解説を初心者向けに沢山作っている人まで、それぞれの楽しみ方でMODEを使っていて、自分は日記や記念としてMODEを使っているとみんなに説明すると「松尾芭蕉の俳句のようにMODEが何百年も残るようなものにしていってくれ」という謎の激励を受けてしまった。

美智瑠のMODEはこれからも色々な人と関わりながら続いていく予感がしていた。

この小説には続編がありますのでお楽しみください

《デジカメUX小説》MODE II(前編) 赤ちゃんからの贈り物


この記事は、デジカメの新UIアーキテクチャ「MODE」のアイデアをベースにUX小説としてストーリー化したものです。「MODE」の概要はこちらの記事でご確認ください。


<解説>
写真の表現の多様性を体験するところから、露出補正やホワイトバランスなどの撮影設定(テクニック)に入っていくところがMODEアーキテクチャの一番の狙いです。
一方で従来の撮影設定操作がMODEの内部設定の中に完全に残されていることで、さまざまな世代との交流やこれまでの学習コンテンツがそのまま利用できる点も重要なポイントです。
最終的に自分とコミュニティのためにMODEを作りシェアすることでこのMODEストーリーは一つのサイクルを完結します。そしてそれはまた別の場所で新たな写真への出会いを生み出していくことになるのです。

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