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短編小説『露出狂の詩』

 オレはさっきから心臓がはち切れんばかりにドキドキしている。午後6時、会社帰りのサラリーマンや部活を終えた高校生、買い物客たちが自転車で、徒歩で行き交う三条会商店街の西の入口にロングコートを羽織り、自撮り棒片手にオレは佇んでいる。

 ロングコートの下には何も着ていない。これを脱げばオレは全裸で商店街に放り出されることになる。ひりひりする快感。今からオレはボタンを全開にして商店街を闊歩するのだ。全長800メートル、西日本最大級といわれるアーケード商店街を「前」を晒しながら歩いてやる。

 2ヶ月前に開設したYouTubeチャンネルでは、ゲームをクリアしたり、大食いにチャレンジしたり、夜の金閣寺に忍びこもうとしたりしたが登録者数が1人も増えない。オレは人から注目されたい。登録者数を増やして金を稼ぎたい。

 意を決してロングコートのボタンを全開にしたオレはスマホを自撮り棒に装着して撮影をはじめた。

 「はい、どうも、タマキンチャンネルへようこそ、玉置光一です。今日は見ての通り、裸にコートなんですが、このまま京都の有名な商店街、買い物客で賑わう三条会商店街を歩いてみたいと思います。あ、モザイクで隠してますけど、全部出てます!寒いです!さぁ、さっそく歩いてみたいと思います!」

 震えているのは寒さのせいではないだろう。なにせ自分の生活圏内にある商店街を裸にコートで練り歩くのだ。コートを羽織っているとはいえ、ありのままの姿を見せているからか少しも寒くなくなってきた。震えているのは武者震いかもしれない。じわじわ汗も出てきたが歯はカタカタと震えているみたいだ。脳がバグっているのだ。

 おかしい。自撮り棒片手にコートに全裸の男が商店街の真ん中を行進しているにも拘らず、通行人はまったくオレに目を向けない。3人組の女子高生とすれ違ったがなんのリアクションもない。いい匂いがした。振り返るとさっきオレに関心を示さずにすれ違ったおっさんが女子高生を目で追いかけている。おかしい。オレのことが見えていないのか。どうしてこのオレに誰も関心を示さないのだ。汗が冷たくなってきた。どうして誰もオレを見てくれないのか。たまらずオレはコンビニに入ってみたが客も店員も誰もオレに注目しない。

 「なんでや!なんでなんじゃ!」
 叫んだ先に陳列されているコンドームを万引きしようとしている少年の姿が見えた。オレは誰にも注目されないことへの怒りを少年にぶっつけた。
 「おい!何しとんねん。万引きは犯罪やぞ!」ビクッとした少年はしかしオレのほうを振り返り「なんやねん、おっさん、おまえのほうこそ、そんな格好で歩いてたら犯罪やぞボケ!」
 「なんやて!?オレのことが見えるんか!?オレの格好がおかしいてわかるんか!!」
 急に涙を流したオレに戸惑いをみせる少年のために、オレはコンドームを箱ごと買ってやった。

#令和4年1月23日  #コラム #エッセイ #日記
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