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読書の記録 乙野四方字『君を愛したひとりの僕へ』

『僕が愛したすべての君へ』とセットになってる『君を愛したひとりの僕へ』。どちらから読み始めても物語としてできあがっているという、面白い作品です。どちらともが上巻であり、どちらともが下巻なんです。『君を愛したひとりの僕へ』を上巻として読み始めたら『僕が愛したすべての君へ』の最後が結末になるんだけど、『僕が愛したすべての君へ』を上巻として読み始めたら『君を愛したひとりの僕へ』の最後が結末になり、その結末を読んだうえで再び『僕が愛したすべての君へ』を読んだら、また違う物語が読めてしまう。こんなことをされたら、延々繰り返し読むことになってしまう。

 『僕が愛したすべての君へ』を読み終えて、少し間を置いて読み始めたおかげで、二つの作品のリンクの仕方を覚えているような覚えていないような微妙に気持ち悪い具合のまま読み終えてしまったから、もう一度『僕が愛したすべての君へ』を読み込まなければならないのですが、たぶん、それもまた少し間を置いてしまうだろうから、結局また気持ち悪さが残ってしまい、この無限回廊が死ぬまで続くのかと思うと、なんとも恐ろしい作品です。

 こんな恐ろしい作品には出会わないほうが僕は幸せだったかもしれない。僕が幸せを取り戻すには、僕がこの本を手に取らなかった世界、そして僕がこの本を未来に至るまで手に取らない世界へ移動しなければならない。などという、現実離れしたことを書いてしまっておりますが、これはそういう現実離れした世界を舞台にした物語なんです。

 なんか、こういう歌があったよなー、とさっきから脳をフル回転させておったのですが、今思い出しました。あの日あの時あの場所で君に会えなかったら僕らはいつまでも見知らぬ二人のまま。ラブストーリーは突然にです。出会ったことで幸せを分かち合ったけど、出会わなければ不幸にならなかった世界。こんな悲しいことがあるでしょうか。面白いです。

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