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短編小説『スマホの名残った灯り』

電気を消してあるから部屋は暗いのだが、さっきまで暗がりでLINEのやり取りをしていたから、スマホの灯りがまだ名残っていて、(名残るなんて言い方があるのかは知らないが、いま「なごる」と打ってみたところ「名残る」とは出てこなかったから少なくともポピュラーな使い方ではないらしいからパイオニアになれるかもしれない)オレが天井を見つめていると、名残った灯りが、そのオレが見ている天井に向けてぼんやりと照射され、さっきまでやり取りしていたタマキが浮かんでき、やがてくっきりしてきた。

オレの秘めたる想いなど知らぬはずのタマキが天井からオレを見下ろしながら挑発してくる。「オレはアタシのことが好きなんやろ?」思いのほかムッチリとした太ももが、なかなかギリギリのところまで放り出されており、正直なところオレは照れた。しかし、照れながらもオレは目を離せない。タマキはそれにはお構いなしにオレを質問攻めしてきた。「オレはアタシのどこが好きなん?」

「いや、どこと言われましても、その、あの」「ずっとアタシのこと思ってるくせに言葉にできひんの?オレは作家になりたいんやろ?そんなことでどうすんの?」

タマキは悪戯っ子のように微笑む。ああ、そのオレのことをダメな近所の小学生をあやすみたいな目で見てくるおまえのことがたまらない!タマキ!タマキ!おまえのその目を見たかったから百あるボキャブラリを敢えて一つも駆使せず我慢してみたオレの、プライドまでかなぐり捨てたこのオレの、それほどまでの愛が伝わらないのか?

「ふーん。そうやって言い訳したり、辻褄合わせたりして、そうやっていつも本質から目を背けてその場しのぎで生きてきたんやろ?かわいそな男やなー。ふふふ」

「しゃあないし抱いたろか?」

タマキの目がキラリと光ったと同時にスマホに名残っていた灯りが消え、タマキもどこかに消えてしまった。今消えたタマキが本当のタマキなら思い切ってオレは想いを伝えるのだが、あのタマキはきっとタマキの姿を借りたオレなのだから、つまりオレはオレのことが好きなだけで、好きなオレをタマキに求めているだけなのだ。眠れないオレは、暗がりのなかでオレ自身をタマキだと仮定してオレを抱きたかったが抱けないからとりあえずオレ自身を慰めた。タマキの名前を何度も何度も叫びながらしごいた。スマホを開き、天井を眺めるとまた名残った灯りからタマキが現れ、オレに向かって「しょーもな」と侮蔑の一言を添えたと同時にオレは果てた。灯りはまだ名残っている。薄暗い天井がある。

#令和3年8月31日  #コラム #エッセイ #日記
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