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ねんねこ坂【稲川淳二オマージュ】

「怪談話をどうやってまとめているんですか?」と聞かれることがある。

話が最初からきちんとまとまっていることは少ない。地面からちょこっと飛び出ているものを見つけ、それが壺の破片だと気づき、周りを掘っていくと形が見えてくるが、すべてが揃うわけではない。

欠けている部分があり、時間が経つとまた破片が見つかることもある。そうやって少しずつ組み立てていく。時には、分からない部分を推測して埋めることも必要だ。

話も同じように、破片を集めて形を作る。しかし、全てが揃うわけではなく、何ヶ月、何年も経ってから新しい破片が見つかることもある。それでもどうしても分からない部分は、自分の想像で埋める。ある場所での話と、離れた場所での話が似ていることもある。それが偶然なのか、誰かが話を広めたのかは分からない。

今年の夏前に親しい人から聞いた話がある。
知り合いが「変わった場所がある」と教えてくれた。千葉県の山の中にあるその場所は、背骨が無いと言われるような地域で、交通が不便な場所だ。そこに行ってみると、細い急な山道を登ると、峠に廃屋のラブホテルがあった。周りに民家もなく、灯りもない場所だ。

その廃屋のラブホテルを過ぎると、急な下り坂があり、九十九折のようにジグザグに続く坂道だ。道は狭く、一方は断崖絶壁、もう一方は谷になっている。その坂道の途中に、なぜか公衆電話のボックスがある。この公衆電話はきちんと使えるが、周りには民家もなく、人通りも少ない。

この坂道は地図上に名前が無いが、昔は地元の人が「ねんねこ坂」と呼んでいたらしい。その名前を聞いたときに、静岡県東部に同じ名前の坂があるのを思い出した。その話は、昔、夫婦が険しい山道を逃げてきたというもの。夫はヤクザで人を殺し、追われていた。妻は赤ん坊を背負っていたが、険しい坂道で力尽きてしまった。

その後、夫は妻と赤ん坊を殺してしまう。以来、この坂道を通ると、女の叫び声と赤ん坊の泣き声が聞こえるという。地元の人はこの坂道を「ねんねこ坂」と呼び、車が原因不明の事故を起こすことがあると言われている。

千葉県のこの坂道も似たような話があり、調べてみるとこんな話があった。峠の上にラブホテルがあり、そこからカップルが車で下ってきたが、車が途中で止まってしまった。携帯電話も繋がらず、助けを求める手段が無い。待っていると、風の音に混じって不気味な音が近づいてくる。

その音が車に近づき、車の上に乗ってきた。男がバックミラーで確認すると、血まみれの足が見えた。その後、血まみれの女の顔がフロントウィンドウに現れた。女は赤ん坊を背負っており、恐怖で固まった二人。車が突然滑り出し、崖にぶつかった。

その後、二人は助けを求めて坂道を下り、公衆電話ボックスを見つけた。そこで助けを呼び、なんとか助かった。この話から、公衆電話ボックスが必要な理由が分かったという。


話をまとめる際に重要なのは、怪談の背後にある「物語の破片」をどうつなぎ合わせるかということだ。
これには直感や推測も含まれる。例えば、千葉県の「ねんねこ坂」の話も、静岡県の話と同じように破片を集めて形にしたものだ。
怪談話は、その土地の歴史や文化、そして人々の体験が織り交ぜられているため、時には異なる場所でも同じような話が存在することがある。

この「ねんねこ坂」のような話を収集し、つなぎ合わせる際には、その話の背景にある真実やその土地の雰囲気を感じ取ることが重要だ。物語の背後にある感情や出来事を感じ取り、それを伝えることが求められる。

話をまとめる作業は、まるでパズルを解くようなものだ。一つ一つの破片を丁寧に集め、組み合わせていくことで、全体の絵が見えてくる。その過程では、想像力や直感が大いに役立つ。

また、怪談話には共通する要素も多い。恐怖や不安、未知のものへの畏怖といった感情が根底にあり、これらをうまく伝えることで、話にリアリティと深みを持たせることができる。そして、話を聞く人々が自分の体験や感情を重ね合わせることで、より一層恐怖感が増す。

以上のようにして、怪談話をまとめる際には、話の破片を集め、つなぎ合わせ、背景にある感情や出来事を感じ取り、それを伝えることが重要だ。そして、これが「怪談話をどうやってまとめているか」という問いに対する答えである。


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