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事故車が囁く夜の解体場【稲川淳二オマージュ】

毎年、ホラー映画の脚本を書いたり監督しているんですが、数年前の話です。
東京近郊での撮影中、どうしても高い位置から撮影したいシーンがあったんですよ。
でも、近くに高台はないし、クレーンを手配する時間もない。
そこで地元の世話人が「フォークリフトじゃ駄目?」と提案してくれました。

「あぁ、それはいいですね!」と返事をすると、彼は「この先に自動車の解体作業場があるんです。
あそこならフォークリフトがあると思うので、私が頼んでみますよ」と言ってくれたのです。
早速、田んぼ道を進み、荒れ地の向こうにある板塀で囲まれた解体場へ向かいました。

板塀の上からは、山積みになった車が見えました。
「あれだな」と思いながら、プレハブの事務所の前に車を止めると、社長さんが出迎えてくれました。
事情を話すと「どうぞ、お役に立てるならいつでも使ってください」と快諾してくれました。
社長さんはとても感じの良い方でした。

私は車が好きなので、廃車を見て感慨に耽っていました。
すると社長さんが「ここは車の墓場ですよ」と言いました。
確かに、タイヤもエンジンもなく、窓ガラスもない車の死骸が並んでいました。

社長さんはさらに「事故で焼けた車は、ガソリンの臭いが取れず、雨が降ると生臭い血の臭いがするんです」と話しました。
その後、彼は去年の夏に従業員が怖い目にあった話を始めました。

その若い従業員は一人で作業していたそうです。
広い敷地の真ん中、車の山があちこちにあり、日が長い夏でしたが、暗くなってきた。
そろそろ引き上げようと思った矢先、雨が降り始めたのです。
工具を片付け、事務所に向かおうとした彼は、雨音に混じって聞こえる異音に気付きました。

ギィー、シャキ…ギィー、シャキ…と、ワイパーの動く音がするのです。
周りを見回すと、目の前の車の山の上から聞こえてくるようでした。
彼はその山に登り、白い廃車に辿り着きました。
ガラスのないフロントウインドウを見て、ワイパーが動いていることに驚きました。

さらに確認しようと、彼は窓から頭を突っ込んだ瞬間、右側の潰れた運転席に座る濡れた髪の長い女を見たのです。
その女は無言でワイパーを見つめ、やがて彼に気付きました。
振り向いた女の顔は右半分が潰れており、彼は恐怖で固まりました。

女が完全に振り向いた瞬間、彼は車から手を離して下に落ちました。
腰を打った彼は這うように事務所に逃げ帰り、社長にこの恐怖の体験を話したのです。

「稲川さん、恐怖に引きつった人間の顔は凄いですね」と社長は語りました。
それ以来、事故車には特に雨の日は近づきたくないと強く感じました。

(了)


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