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夜窓人面浮遊考【稲川淳二オマージュ】

私がレギュラーをしていた番組があるんですよ。若い子が対象の番組でね。曜日のレギュラーをやっていたんです。私がその番組を辞めて何年か経った頃、その番組の500回記念だっていうので、呼ばれていったんです。

こういうお話をしてますから、私の受け持ちは怪奇な部分の話しだったんですが、私のスケジュールの都合で、出るのが他の曜日になっちゃったんです。そうしましたら、「稲川さん、こういう写真があるんです。これを読んで紹介して下さい」って、心霊写真を渡されましてね。それは既に番組で紹介した物なんだけど、特に人気のあった物だっていうんです。

見てみると、「車の中に笑った顔の居ないはずの女性が写っている」とか、「子供の足に骸骨が刺さっている」写真だとか、そういう物なんです。それで、その中の一枚の写真を紹介した時に、みんながキャーって叫んだんです。それは宴会場の写真なんです。

みんなが騒いで、部屋の中を動いている写真なんだ。御膳の周りを走っている人だとか、手をあげている人だとか、色んな人がいるんだ。それでね、みんなが写っている後ろ、バックは大きな窓ガラスなんだけど、カーテンが開いてるんですよ。外は真っ暗だから何も写っていないんだけど、その向こうに4つの青い点があるんです。これね、よく見たら人間の顔なんです。髪の毛のない。歯は食いしばってニーって開いてるんですよ。で、目玉はまん丸で、同じ顔が4つ並んで笑ってるんだ。

この宴会場は建物の中でも一番上の階だったんで、ここに顔が写るわけがない。建物の中に居るやつも、そんな冗談は出来るわけがない。そこに居た人は写真を焼くまで気が付かなかっていうんですがね…これが本物だっていうんです。私も「これは凄いね、気持ち悪いね」って話しをしてましたよ。

それでその番組が終わった後に、私はすぐにロケに行ったんですよ。車に乗っていくんですが、現地に着くのは夜中なんですよね。そして、ほとんど寝れない状態で、長野県のある村へ着いたんです。もう時計は夜中をすっかり回ってますよ。明日は朝一番からからロケがあるわけですから。

宿に着きましたら、そこの従業員さんが「どうぞお待ちしておりました」と眠そうな顔をして出て来てね、「稲川さん、こちらのお部屋です」って階段を上がっていってね、一番奥の部屋へ通されましたよ。「じゃあこれで十分なんで。おやすみなさい」って、私は一人で部屋に入って一息ついてね。それで何気なく部屋を見ると、カーテンが開いているんですよ。

普通さ、そんな夜中だったらカーテン閉めておくでしょ?それが開いてるんですよ。それを見た時に私ね、あれ?これはどっかで見た景色だな……って思ったんです。窓の向こうは真っ暗なんです。山が写っているから、景色がない。でも、私は次の日は朝一からロケですからね。もう寝ようとしているから、押入を開けて布団を出したんです。

敷布団を敷いて、布団カバーも敷かないまんま、掛け布団を引っ張りだした。それでパンツ一丁になって、掛け布団をかけようと、ひょいと見た。そしたら、掛け布団のカバー。ちょうど私の顎が乗るあたりの所。そこにね、直径10cm位の血の染みがポツンとついているんですよ。それも洗った後もない、そのままの状態で。まだ少し赤みがある。縁が黒ずんでね。

誰かが鼻血でも垂らしたのかな?とも思ったけど、そんな事あるわけない。まして旅館でもって、そんな布団を出すわけがない。さすがに気持ち悪かったから、そのままそれを畳んでしまい込みましたよ。それで下の布団を出して掛けた。

でも、なんだか寝る気がしないんだ……気持ち悪くて生理的にも嫌だから。だからね、広い部屋だったんで御膳を挟んで反対側に座布団を三つ敷いて、また服を着て、ポケット瓶を取り出して飲み始めたんです。それでゴロンと横になった。そしたら、もう身体は動かないんですよ。なんせ、ぶっ通しで仕事をした後に、何時間も車で移動してきてますからね、だるくてね。それで何時間かわからないけど、眠っちゃ覚め、眠っちゃ覚めってのを繰り返してたんだ。

そうしましたらね、誰かが入ってきたんだ。畳を歩く音がするんだ。一緒に行っているのは、私とディレクターとカメラさんと音声さんと照明さんと五人で、私の他に四人が居るんだ。それで誰かが入ってきて、私の上まで来て、ひょいっと私を覗いて、私の顔をジーっと見てるんだ。だから私は、「まいったよ……ダメだよ体がダルくてさ、もう動けないよ」って言おうとしてるんだけど、声が出ないんだ。で、彼も私をジーっと見てるんだ。そしてそのうちに彼は帰っちゃったの。

しばらくして気配がするから見ると、また誰かが私を覗いてるんですよ。だから私は、「あーごめんね……体がダルくてさ、動けないよ」って言おうとしてるんだけど、声が出ないの。で、彼は私をジーっと見てるんだ。それでそのうちに彼は帰っちゃったの。で、またしばらくして気配がするんだけど、私は横向きに寝ているから、気配はするけど、その姿は見えない。

突然、顔が目の前にポンと出てくるんだ。それで、私の顔から1メートル半位の位置で屈んで見ているから、「あーまだ寝ないの?」って言おうとしてるんだけど、声が出ないの。結局四人来ましてね、帰って行ったんです。

私はそのままウトウトしていたんですけど、あー寝ないとだめだ……具合が悪いや。でも明日もあるからちゃんと寝ないと……って思いながらね、半分寝たような状態で布団まで行ったんです。それでまたパンツだけになって、掛け布団を掴んで、ひょいっと掛けようとした瞬間……半分寝たような感じだった頭がスッキリっとしたんです。それで、あ、そういえば俺の所に四人来たよなって思ったんです。

で、次の瞬間ですよね……違う!違うんだ!!あれは一緒に来たスタッフじゃないんだって思った。見たこともないやつなんだ。丸い顔をして、歯をニーっと剥き出して俺の事を見てたのは、あの四人なの。次の日の朝、私は寝れないから早めに起きたんです。そしたらね、他のスタッフもみんな早く起きてきて、口々に「なんかあそこ寝れなかったよな?」って言ってるんだ。わ

けもなく、皆が寝れなかったって言ってるんですよ。

でも、みんなその原因がわからないんです。でも、僕がみたのはそうだったんです。その四人だったんです。そういう経験がありましたよ。

(了)

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