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高校生の姉妹【稲川淳二オマージュ】

霊というのは決して怖いばかりではない。
中には心優しい霊もあるようで、どうやら怖いと思うのはこちらの勝手で、向こうにはその気はないのかもしれない。この話、話してて私、心が熱くなるんです。

というのは、夏の始めにテレビの生中継があって、私愛知県の方へ行ったんです。そしてその時に私に付いてきてくれた若い女性スタッフなんですが、番組が無事に終わると、私を駅まで送ってくれたんです。これが結構な距離があり、あれこれ話しているとその若い女性スタッフが私に話を聞かせてくれたんです。

話というのは高校生と中学生の女の子二人、母親が亡くなってしまった。高校生のお姉ちゃんのほうが母親に代わり家のことを一切自分が切り盛りするようになった。

朝起きてご飯を作り、お父さんと妹に食べさせる。お父さんのお弁当も妹のお弁当も作り、そして自分のお弁当も作る。そしてお父さんと妹を送り出してから自分も学校へ行く。自分が忙しくても必ず朝はきちんと起きていた。

でもさすがにやはり疲れたんでしょう。そんなある朝、このお姉ちゃんが寝坊してしまった。目を覚ますと何か音が聞こえてくる。「あら?」その音は台所の方からだった。

ザッザッザッザッ
コンコンコンコン

「ん、いけない……」
自分が寝過ごしたもんだから、妹が代わりにやってくれているのだろうと思った。確かに妹さんも手伝ってくれたりする。ところがこの音はなんだかとても懐かしい音だった。そのうちにプーンと朝の匂いがしてきた。

あ、そうだ。この匂い、布団の中にいる状況。まだお母さんが元気だった頃、こんな状況あったなぁって思っていた。懐かしい音だった。

ザッザッザッザッ
コンコンコンコン
ジャッジャッジャ
プーンと匂いがしてくる。

その時、いつも自分は「お母さん料理作ってくれているなぁ……」と布団で思っていた。あぁ、懐かしいなぁ。なんだかとても心が温かくなった。

妹には悪いけど、しばらくこの空気を味わわせてもらおうと思った。なんだか今にもお母さんが台所の方から出てくるような気がしたが、そのうち一生懸命頑張っている妹がかわいそうになってきて、いけない、早く行ってやらないと思い、起きて台所のドアを開けた。

台所に行って開けてみると、誰もいなかった。朝の支度なんて出来ていない。「あれ、おかしいな?」と思ったが、そこに妹さんが来て、「あれ?お姉ちゃんじゃなかったの?」と言った。「いや、私何もしてないよ」とお姉ちゃんは言った。

聞いてみると、妹の方も同じ事を思っていた。布団の中で目を覚ますと台所の方で音がしており、懐かしいなぁと思っていたのだが、その音を聞いているうちになんだかお姉ちゃんがかわいそうに思えて、わたし、飛んできたんだよと妹は言った。

それで二人は、きっとお母ちゃんが来てくれたんだね、健気に頑張っている二人のためにお母さんは顔を出してくれたのだろう。

それでこの話を聞かせてくれた後、その若手のスタッフが私に「稲川さん、この姉妹の妹のほうが私の母なんです」と言っていた。良い話ですよね。

(了)


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