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湘南ドライブの怪奇現象【稲川淳二オマージュ】

東京の大学生で、阿部君という人なんですがね。

同じクラスの加藤君に「ドライブ行こうよ!湘南行こうよ!」としつこく誘われたんですね。どうやらこの加藤君が新車を買ったようで、どうしてもドライブに行きたかったみたいです。

はじめは断ったんですけど、あまりにもしつこく誘われるもんですから、仕方なく付き合うことにしました。

男二人、新車に乗って出かけて行ったんです。やがて車は湘南の海沿いの道を走り始めました。その頃になると、何だかわからないんですけど阿部君眠くなってきたんです。

「ああ、眠いなあ」と思いつつ、運転している加藤君にも悪いし、眠るわけにもいかない。弱ったなあと思いながら景色を眺めていました。

ふと、運転している加藤君を何気なく見ると、自分の視界の先にチラっと何かが見えた気がしたんです。「何だろう?」と思って、視線を戻すと、「ん?うわっ」と声を上げそうになりました。

自分が見ているシートの間から、痩せた女の手がぬーっと伸びてきたんです。その白い手が運転している加藤君の肩をぐっと掴みました。

「うわ、なんだこれ」と思いましたが、運転している人間がいるわけですから、下手に声を出すわけにはいきません。危ないから。

「うわー」と思っていると、その白い手がスーッと引っ込んでいきました。「なんだ今の!?何だったんだろう」と思いつつ、気になるもんですから、分からないようにすーっと後ろを盗み見ました。

すると、運転している加藤君の後部座席に若い女が座っているのが見えました。乗せた覚えのない女。生きている人間じゃないぞ……「うわー、幽霊じゃねぇか、うわー……」と思い、怖くてじーっと前を見ていました。

加藤君に言うわけにもいかないので、じーっと前を見ていると、後ろから「一緒に行こう?一緒に行こう?一緒に行こう?」と女の声が聞こえてくるんです。怖くて、勘弁してくれー……と震えていましたが、海沿いの道を通り過ぎると、その声もやがて聞こえなくなりました。

ドライブから帰ってきて、阿部君が別の友人である荻原君に「おい、加藤には悪いけどな、俺あいつの車に絶対もう乗らねーぞ」と言ったんです。すると荻原君は「なんで?」と聞くので、例のドライブの時の話をしたんです。すると荻原君が

「あー、そうか。その女ってどんな女だった?」と聞いてきました。
阿部君が「げっそり痩せて、青白い顔をして、目は大きいんだけど、髪の毛は肩くらいだったかな?俺も怖いからはっきり見たわけじゃないんだけど」と答えると、
荻原君が「あーそうか……それなぁ、あいつの彼女だよ。先月の初めに病気で亡くなってな、長いこと入院してて、退院したら二人で新車で湘南に行こうって約束していたんだよな。そうか……それであいつお前を誘ったんだな。俺だと事情知ってるからまずいしな」と言ったんです。

阿部君は「ああ、そういうことだったのか……。じゃあ俺二人の邪魔しちゃったわけだよな」と言い、「でもさ、俺そんな事情知らないからさ、後ろからずっと一緒に行こう?一緒に行こう?と女の声が聞こえるから、生きた心地がしなかったぜ?」と続けました。

それからまたひと月ほど経って、今度は加藤君が一人で湘南にドライブに行ったんです。

そして海沿いの道で、スピードを出し過ぎたのか、ハンドルの操作を誤ってガードレールを突き破り、帰らぬ人となってしまいました。一緒に行ったんでしょう。どうやら加藤君は二人で天国へのドライブに行ったんでしょう……

(了)


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