義兄の姉【稲川淳二オマージュ】

世の中には、気づかなければ気づかない、気づけば気づく、不思議なことがたくさんあります。これはそんな話の一つです。

私の義兄の姉が、東京の町田に住んでいます。毎晩夕食後に一時間ほど散歩するのが日課です。その日も夕食が済んで、一息入れて出かけました。彼女はいつものように歩いていた。トットットット……。ある狭い道に差し掛かりました。この道は、トラックが一台入ると歩行者は塀に張り付いてやり過ごすほど狭い。

その道を歩いていると、カラカラカラカラ……という音がして、おばあさんが歩行器を押してくるのが見えました。彼女はおばあさんが来るんだなと思いながら歩いていると、後ろからヘッドライトの明かりが差し込みました。宅配便のトラックが入ってきたのです。彼女はぶつからないように塀に身を寄せました。

そしておばあさんの方を見ると、おばあさんは向こうの電信柱の影に隠れていました。「よかった」と思った瞬間、トラックが通り過ぎました。再び歩き始めたものの、おばあさんは一向に電信柱の影から出てこない。「あれ、おばあさんどうしたんだろうなぁ」と思いながら歩き続けました。

電信柱のところまで来て覗いてみると、そこにおばあさんはいませんでした。路地もなければ隠れるところもない、ただの一本道でした。おばあさんは忽然と消えてしまったのです。彼女は「あぁ、こういうこともあるのね……」と思い、次の日にお線香を持って散歩に出かけ、その場所で手を合わせました。

こんな場所って、本当にあるんですよね。気がつけば、気がつく。不思議なことが世の中にはたくさんあります。

（了）

---

#怖いお話ネット怪談 #怖い話 #怪異 #怪談 #ホラー #異世界 #不思議な話 #奇妙な話 #創作大賞2024 #ホラー小説部門 #稲川淳二