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大きな顔の呪縛【稲川淳二オマージュ】

あまりこの後味が良い話ではないんですがね……

もうどのくらいか前になりますが、声帯模写で有名な斉藤さんという方と、仕事でご一緒だったんです。九州の大分へ向かう飛行機の中で、二人で話しをしていたんです。そしたら斉藤さんが「俺、妙なもの見たんだよ」って言うんですよ。それは、この斉藤さんが仕事で、地方に行った時の話しだって言うんですよね。

時間があったもんで、宿でごろんと横になっていた。ところがなんだか妙な感じがしたって言うんですよね。その妙な感じというのが、何となく誰かが傍に居るような感じがした……って言うんですよ。そんな遅い時間じゃないんですよ?それでなんだろう?気のせいかなぁって思って、一応辺りを見たんですけどもちろん誰もいやしない。

でも確かになんだか嫌な感じがするんだよなぁって、何気なく障子の方を見てみたら、影が映っているって言うんですよ。それが妙な影なんで、なんだろうあの影?と思った。外にある木が映っているとかそういう感じじゃないんですよね。そしてしばらくぼーっと見ているうちに、あらーっと思った。

それ、大きな人の顔だって言うんですよ。かなり大きな人の顔だ。でも何となくバランスがおかしい。でもどう見たってそれは人の顔になっているんですよ。でもそんな影が映るわけないんで、これは影が映っているんじゃない、そこには顔があるんだ。でもこんなでかい顔はありえない。なんだろうこれは?って思って、やけに気持ちが悪かった。

俺、ただそれだけなんだけど……そしてその顔、すっと消えたんだよ……なんだか嫌な気分がしてね……なんであんなもの見たんだろうなぁ?夢じゃないよ、もちろん。そんなことがあったんだよねぇ……って斉藤さんが話をしてくれたんですよ。その後なんですよね。「斉藤さんが付き合っている女性に、包丁でめった刺しにされて亡くなった」って事件があったのは。

でね、それがなんだか引っかかるんですよ。それからしばらく経ちまして、ラジオの番組をしていた時の事です。私はゲストコメンテーターで出ていたんですよ。まぁ色々相談事を受けるんですが、どうしても怪談っぽい話が多くなるんですよね。そんな時に70いくつかのおじいちゃんなんですがね、夜にフッと起きたならば、自分のすぐ近くでもって大きな顔を見たって言うんですよ。

この話しを聞きながら、私は、あれ?って思った。これが割と頻繁に見るようになったって言うんですよね。廊下に出ると、廊下に大きな顔があるんですって言うんです。終いには、トイレに行くとトイレに大きな顔が待っているって言うんです。

そしてその顔が真っ赤な大きな顔で、自分の目の前にボーンとあるんだ。怖いというより、気持ち悪いというより、妙に嫌な感じがしたって言うんです。その言い方、私がかつて斉藤さんに聞いた同じような言い方をするんですよ。妙に怖くなりましてね……

それで、ちょっと待って下さいよ、と。「もしかすると失礼ですが、ご自分の身の回りで持って、腹が立つことだとか、何か気にしていることってあるんじゃないですか?」って聞いたんです。そしたら、「えぇ実はあるんです」って言うんです。それで私もう一回聞いたんですよ。

「それは失礼ですけど、ご家族とか、ご自身の身の回りにすごく近いことじゃないですか?」って。そしたら、「えぇそうなんです。」っていうんです。話は進んでいくんですけど、なかなか話しの核心を言えないんですよね。それで結果的には、局にも了承を得て、「じゃあ番組が終わった後電話でもって少しお話しましょうね」と電話でお話することになったんです。

そうしたならばこの方は、土地の事や財産の事でお兄さんと、揉めているっていうんです。お兄さんと言っても、お兄さんもだいぶいい年なんですよ?それでそのお兄さんと揉めてるって言うんですよ。「実は、私本当に兄を殺そうと思って、包丁まで用意してたんですよ」ってこの方が言ったんです。

それで私が、「こんなことは赤の他人である私が言うのは申し訳ないんだけど……実は私の知っている芸人さんで、斉藤さんという方が居ましてね……その方、包丁でめった刺しにされて亡くなったんですよ」って言ったんです。「そうですか……そうなんですか……あの包丁捨てますよ」って言ってましたよ。

その後の話しは何も聞いていませんが、この『大きな顔』には何かあるようですね。自分の身近で何か腹立たしい事や、自分の身近で何かあった時に、その大きな顔って現れてくるんでしょうかね?それはもしかすると、自分の心かもしれませんよね。こんな妙な話、聞かされたことがあります。

(了)


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