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#怪談

高校生の姉妹【稲川淳二オマージュ】

霊というのは決して怖いばかりではない。 中には心優しい霊もあるようで、どうやら怖いと思うのはこちらの勝手で、向こうにはその気はないのかもしれない。この話、話してて私、心が熱くなるんです。 というのは、夏の始めにテレビの生中継があって、私愛知県の方へ行ったんです。そしてその時に私に付いてきてくれた若い女性スタッフなんですが、番組が無事に終わると、私を駅まで送ってくれたんです。これが結構な距離があり、あれこれ話しているとその若い女性スタッフが私に話を聞かせてくれたんです。 話

先輩のカメラマン【稲川淳二オマージュ】

この話、不思議な話なんですがね。 私がJRの恵比寿駅の前を通りかかったんですよ。滅多にそういうことはないんですけど、私、生まれが恵比寿なんです。それで親類もいるんですが、まず駅前を通ることはないんですよね。でも、たまたまその時は通りかかったんですよ。と、雑踏の中に見かけた姿があった。その人、ウロウロしているんですよね。 その人、私の先輩だったんですよ。声をかけると、 「おーい稲川~。よかったよー助かったよ」って言うもんだから、話を聞いたら「俺長いこと海外に行ってたもんだから

湘南ドライブの怪奇現象【稲川淳二オマージュ】

東京の大学生で、阿部君という人なんですがね。 同じクラスの加藤君に「ドライブ行こうよ!湘南行こうよ!」としつこく誘われたんですね。どうやらこの加藤君が新車を買ったようで、どうしてもドライブに行きたかったみたいです。 はじめは断ったんですけど、あまりにもしつこく誘われるもんですから、仕方なく付き合うことにしました。 男二人、新車に乗って出かけて行ったんです。やがて車は湘南の海沿いの道を走り始めました。その頃になると、何だかわからないんですけど阿部君眠くなってきたんです。

岡山の霊能力者【稲川淳二オマージュ】

とある岡山に、心霊治療を行うという霊能力者がいると聞いて、取材に行ったんです。 撮影は翌日予定でしたが、ディレクターと一緒に先に挨拶をしておこうと、そちらに向かいました。中年くらいの女性が出迎えてくれたんですが、驚いたのは、たくさんの人がその場に集まっていたことです。全国から集まった人たちが、医者に見放された病気を治してもらおうと来ているんです。まるで宗教のような光景でした。 彼女の治療方法を観察していると、手をかざしたり撫でたりするだけで治るというんです。正直、私は信じら

義兄の姉【稲川淳二オマージュ】

世の中には、気づかなければ気づかない、気づけば気づく、不思議なことがたくさんあります。これはそんな話の一つです。 私の義兄の姉が、東京の町田に住んでいます。毎晩夕食後に一時間ほど散歩するのが日課です。その日も夕食が済んで、一息入れて出かけました。彼女はいつものように歩いていた。トットットット……。ある狭い道に差し掛かりました。この道は、トラックが一台入ると歩行者は塀に張り付いてやり過ごすほど狭い。 その道を歩いていると、カラカラカラカラ……という音がして、おばあさんが歩行

タクシーの乗客【稲川淳二オマージュ】

私が体験した話なんですけど、少し妙な話なんです。奈良に住んでいる楠本さんという知人と一緒に和歌山から帰ってきたときのことです。私たちは、夕方に家路を急いで運転していました。夕日が傾きかけた頃、一台のタクシーが前を走っていました。しかし、そのタクシーのスピードが遅く、多少蛇行しているのが気になりました。 楠本さんが「なんだあのタクシー、妙な走りをするな?」とつぶやきました。私たちはそのタクシーに追いつき、スッと追い越したのですが、その瞬間、楠本さんが声を上げました。「おい!今

大きな顔の呪縛【稲川淳二オマージュ】

あまりこの後味が良い話ではないんですがね…… もうどのくらいか前になりますが、声帯模写で有名な斉藤さんという方と、仕事でご一緒だったんです。九州の大分へ向かう飛行機の中で、二人で話しをしていたんです。そしたら斉藤さんが「俺、妙なもの見たんだよ」って言うんですよ。それは、この斉藤さんが仕事で、地方に行った時の話しだって言うんですよね。 時間があったもんで、宿でごろんと横になっていた。ところがなんだか妙な感じがしたって言うんですよね。その妙な感じというのが、何となく誰かが傍に

山奥の廃村【怪談・怖い話】

これは関西地方の山奥に住む中村さんから聞いた話だ。 中村さんは地元の公務員で、休日には趣味の登山を楽しむことが多かった。ある秋の日、中村さんは以前から気になっていた山中の廃村を訪れることにした。 その廃村は、戦後の過疎化によって無人となり、今では訪れる人もほとんどいない場所であった。中村さんは廃村に到着すると、寂れた家々が立ち並ぶ様子に不気味さを感じつつも、興味本位で探索を始めた。 その村には、特に目を引く一軒の家があった。屋根が崩れ、窓ガラスが割れ、家の周りには雑草が

■呪われた児童文学『にんじん』の真実【怪談・怖い話】

フランスの作家ジュール・ルナールが書いた話なんだが、あれ、マジで鬱だ。主人公の「にんじん」、本名すら呼ばれない少年が、家族に虐待され続けるって内容なんだが、実はもっと深い闇が隠されてるんだよ。 実母が相手国の兵士にレイプされてできた子がにんじんだったって話、知ってるか?だから、家族の中でにんじんだけ髪の色が違う。母親は、その出来事を思い出す度に精神的に追い詰められ、結果的ににんじんに対する虐待が始まった。こんなことが児童書に含まれるなんて、ちょっと信じられないよな。 にん

事故車が囁く夜の解体場【稲川淳二オマージュ】

毎年、ホラー映画の脚本を書いたり監督しているんですが、数年前の話です。 東京近郊での撮影中、どうしても高い位置から撮影したいシーンがあったんですよ。 でも、近くに高台はないし、クレーンを手配する時間もない。 そこで地元の世話人が「フォークリフトじゃ駄目?」と提案してくれました。 「あぁ、それはいいですね!」と返事をすると、彼は「この先に自動車の解体作業場があるんです。 あそこならフォークリフトがあると思うので、私が頼んでみますよ」と言ってくれたのです。 早速、田んぼ道を進み

作家になりたかった男【稲川淳二オマージュ】

中山って男は、「霊的な経験をした事がない」って私に言うんですけど、こいつ、実は十分に怖い体験をしてたんですよね。彼は作家になっていますが、昔から作家になりたかった。彼は学生時代に大阪の大学に通ってて、実家からも通えるんですが、作家になりたいし、自分の時間が欲しいということで、学生用のアパートに住みたいと言い始めた。 親の了解を得て実際に住んだんですよ。当時ですから大したアパートじゃない。ボロアパートでなんの設備もない。暑くたってクーラーも扇風機もない時代ですよ。もちろん冷蔵

一人暮らしを始めた娘に訪れた怪異【稲川淳二オマージュ】

私の友人にね、娘さんがいるんですよ。久しぶりに彼から電話があって、娘さんがラジオ局に就職が決まったっていうんですよ。 良かったじゃない!って言ったら、娘さんが「一人暮らしをしたいと言ってる」って言うんですよね。 今まで親元で暮らしてさ、社会人になっても家から通って、結婚したら家庭に入っちゃうから、少しの間でもいいから一人暮らしがしたいと言い始めたというんですよ。で、私が「いいんじゃないの、あんたの娘さん良い子だし、しっかりしてるしさ」って言ったんですよね。 そしたら、どの

幻覚か現実か、オダギリさんの悪夢【稲川淳二オマージュ】

東京に本社を構える食品会社の中堅社員、オダギリさん。 この春、新製品の下見と打ち合わせを兼ねて、若手社員二人と共に冬真っ只中の東北へ出かけたのが始まりだった。 出発前、彼は部下たちに向かって、 「あのな、この時季は新鮮な魚で雪見酒、これはもう、最高だぞ!」と ご機嫌で言いながら旅立った。 東北に到着すると、すぐに会社へ向かい、工場の下見や打ち合わせを行い、全て順調に終えた。 帰り際、取引先の方と「じゃ、また後で、宿に伺いますから、 ちょっと一杯行きましょうか」と約束し、宿に

ブラインドの隙間【稲川淳二オマージュ】

岡山での話しなんですがね。会社勤めをしている若い女性で、仮にアヤコさんとしておきましょうか。 彼女の入居したアパートというのは、建物は古いんです。でも中はリフォームされていて、壁も台所も綺麗だし、畳も新しい。それで家賃が安い。狭い路地をはさんだ向こうにもアパートが立っているんで、日当たりが悪いんですよね。部屋に日がさすのは、お昼の前後。その短い時間だけ。雨が降っている朝なんて夕方のように暗いんです。それでもまあ、家賃は安いし、部屋も綺麗だし、今のところは納得してたわけだ。