見出し画像

山奥の廃村【怪談・怖い話】

これは関西地方の山奥に住む中村さんから聞いた話だ。

中村さんは地元の公務員で、休日には趣味の登山を楽しむことが多かった。ある秋の日、中村さんは以前から気になっていた山中の廃村を訪れることにした。

その廃村は、戦後の過疎化によって無人となり、今では訪れる人もほとんどいない場所であった。中村さんは廃村に到着すると、寂れた家々が立ち並ぶ様子に不気味さを感じつつも、興味本位で探索を始めた。

その村には、特に目を引く一軒の家があった。屋根が崩れ、窓ガラスが割れ、家の周りには雑草が生い茂っていた。その家に近づくと、中村さんは背後に誰かの視線を感じた。しかし、振り返っても誰もいない。風の音が耳にしみ入り、周囲の木々がざわめく音がさらに不安をかき立てた。

中村さんは家の中に入る決心をし、朽ちたドアを開けた。中はひどく荒れており、家具はほこりをかぶり、床にはネズミの巣が散乱していた。彼が足を踏み入れると、突然、冷たい風が吹き抜けた。まるで誰かが息を吹きかけたかのような感覚だった。

中村さんは二階に上がり、そこで奇妙なことに気づいた。一つの部屋の壁に、大量の子供の落書きがびっしりと書かれていたのだ。人間の顔や動物の絵、その中には不気味な人形のようなものも混じっていた。彼がその絵を見つめていると、背後から突然、かすかな笑い声が聞こえてきた。

振り返ると、そこには誰もいない。しかし、笑い声は確かに聞こえた。中村さんは急いでその部屋を出て、一階へと駆け下りた。彼は何かに追われているような気がしてならなかった。

家を出た中村さんは、村の外れにある古びた神社に足を運んだ。そこで、彼は村の歴史について記された古い石碑を見つけた。その石碑には、この村が何故廃村となったのか、そしてここで何が起こったのかが書かれていた。

この村ではかつて、疫病が流行り、多くの村人が亡くなった。そのため、村は封鎖され、村人たちは外部との接触を絶たれた。生き残った者たちは次第に狂気に陥り、最後には全員が亡くなったというのだ。

中村さんはその話を読み終えると、再び背後に誰かの視線を感じた。振り返ると、そこには一人の小さな少女が立っていた。彼女は汚れた白いワンピースを着ており、無表情でこちらを見つめていた。中村さんは声が出ず、その場に立ち尽くしていた。

少女はゆっくりと近づいてきた。その瞳には何か訴えかけるような悲しみが宿っていた。中村さんは反射的に手を伸ばしたが、少女はふっと消えてしまった。まるで幻のように。

その後、中村さんは急いで村を離れた。帰り道、彼の背後にはずっと誰かの気配がついてきているように感じた。家に帰り着くと、彼は疲れ切ってベッドに倒れ込んだ。

それ以来、中村さんは時折、あの少女の夢を見る。夢の中で彼女は何かを伝えようとしているようだったが、その声は聞こえない。ただ、その瞳に宿る悲しみだけが、彼の心に深く刻まれている。

「彼女は、何を伝えたかったのだろうか。」中村さんは時折そう呟きながら、窓の外の夜空を見つめることが多くなった。彼の語りは、そこで終わった。


#怖いお話ネット怪談 #怖い話 #怪異 #怪談 #ホラー #異世界 #不思議な話 #奇妙な話 #創作大賞2024 #ホラー小説部門

この記事が参加している募集

#創作大賞2024

書いてみる

締切:

今後とご贔屓のほどお願い申し上げます。