乳酸はいいやつ
こんにちは。理学療法士のこうやうです。
今回は乳酸について話していきたいと思います。
乳酸はみなさんにとってどういうイメージでしょうか。
乳酸=疲労物質 と悪いものという人が多いかもしれません。
最初に言っておきますが、これは大きな誤解です。
ではなぜ誤解なのか、理由を説明していきます。
エネルギー代謝のメカニズム
運動時のエネルギー代謝のメカニズムは主に三つあります
https://www.dnszone.jp/nutrition_guide/1-3 より引用
①ATP-CP系
筋の内部には、ATP以外の高エネルギーリン酸化合物としては、クレアチンリン酸(PCr)が存在します。ATP-CP系では、クレアチンとPiに分解するときに発生するエネルギーを用いてATPを再合成します。エネルギー供給速度は最も大きいですが、PCrの量に限りがあるため、この機構が最大限に動員されると、7-8秒でATPの供給を停止してしまいます。
②解糖系
筋中の糖質が分解される過程で得られるエネルギーを利用して、ATPを再合成するのがこの系です。グルコースとグリコーゲンはいくつものステップを経てピルビン酸にまで変換され、その過程においてATPが産生されます。この系からのエネルギー供給速度および供給時間は、いずれも3つのシステムの中では中間であり、供給時間は32~33秒です。
③有酸素系
この系では細胞に存在するミトコンドリア内で、酸素を用いてATPを産生します。ピルビン酸あるいは遊離脂肪酸から生成されたアセチルCoAは、とリカルボン酸(TCA)回路に取り込まれ、水素ができます。電子伝達系はこの水素から電子を受け取り、最終的に酸素を還元して水にし、その過程においてATPを産生します。この現象を酸化的リン酸化といいます。この系ではエネルギー供給速度は最も遅いものの無限にエネルギーを供給し続けることができます1)。
乳酸はどうやって生まれるのか
乳酸は解糖系において
ピルビン酸の生成速度が速く
ミトコンドリアによるピルビン酸の処理速度を上回った際に
ピルビン酸が変換されることで生成されます。
エネルギー代謝の誤解
これまでよく行われてきた説明は
短距離走や中距離走のような高強度運動では
筋内が無酸素状態になって乳酸ができ
その過程でできるATPが主なエネルギーとなる
というものです。
しかしこれは事実は異なります。
実際の運動時のエネルギー供給は
特に運動開始時は多くの反応が同時に起こっています。
つまり前述した3つの機構が同時に働いているということです。
しかし3つの機構が同じように働いていては効率が悪い。
そこで乳酸が登場するわけです。
乳酸は運動強度によって、適したエネルギー供給に調節してくれるわけです。
この3つのエネルギー供給機構は独立したものではなく
3つ合わせて一個のものとして考えるべきということです。
できた乳酸はすぐ使われる
乳酸は解糖系の最終産物としての認識がありますが
実際はすぐにピルビン酸になり、ミトコンドリアの酸化反応系に
入ることができます。
また速筋線維は乳酸産生方向に進みやすく、
血筋線維はピルビン酸方向に進みやすいという特性があります。
速筋線維でできた乳酸が血液に出て
心筋や脳、姿勢保持筋に使われるという流れになります。
このように乳酸も再利用され、一切無駄じゃないんですね。
なぜ悪者と誤解されるのか
これは前述した通り、
乳酸を解糖系の最終産物という表現が多いからです。
この表現が乳酸は運動中では溜まるだけで
運動後に糖に戻されるといった説明に
つながっていることが考えられます。
しかし実際は乳酸はすぐに使われる
エネルギー基質であり、
身体運動において重要なものです。
「乳酸がたまる」
なんてことは起こるはずがないんです。
いかがだったでしょうか。
乳酸は実はエネルギーであり
疲労物質ではないんです。
悪者扱いしてた人は反省してください。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
参考・引用文献
1)和田 正信 他 : 入門運動生理学
2)東京大学大学院総合文化研究科 身体運動科学研究室 : 身体運動科学アドバンスト
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